半端な郵便屋さん
お望月うさぎ
拝啓 余寒の候
スリープモードが解除された。
脳。四端。下半身。上半身。順番に電気が通って行く。体に電気が通る合間、情報を整理する。
最後にスリープモードになってから、間は723年3ヶ月4日。季節は冬。外気の気温は5℃。
四端に電気が通る。データ上の動作に問題なし。
下半身に電気が通る。問題なし。
上半身に電気が通る。動作に問題なし。しかしプログラムが一つ起動。情報解析。
解析プログラムを起動した瞬間、記憶データに何かがフラッシュバックする。私は反射的に解析を中断し、起動したプログラムを再凍結する。何故だか分からないが、こうした方がいい気がした。
博士からの問いは、………情報が欠損している。未解答データと共に保留。
博士からのお願いは………こちらも欠損。先程のデータと併せて記憶データに一部読み取り異常ありと断定。破損データとして保留。
全ての器官が問題なく動くことを確認し、私は瞼を開く。部屋の明かりは落とされていて真っ暗だ。博士は居ないのだろうか。部屋に随分と埃が溜まっている。
目の前に、二人の人間、スポーツウェアのようなぴっちりとした長袖とゴツゴツとした長ズボンと安全靴の様な靴を履いた人々がいた。それと小型でビデオカメラのような形をしたドローンとよく似た物も浮いている。人間の方は大きなリュックやピッケルなどを持っているが武器は見当たらない。ドローンの方は上部にライトが着いているが他には小さすぎて何も収納出来そうで無いのできっと手放しで使えるライトだろう。後ろのリビングへの扉があった所には丸い穴が空いていて、外から光が差し込んでいる。
よく分からないが、お客様だろうか。
声帯機能のチェックをして、基礎対話システム「Q&A」を起動し、人間へ私は言った。
「初めまして。私は、「民事用多機能所有型人造人間タイプ-U」、略してミュウです。なんの御用でしょうか?」
名乗った時、一言だけ記憶が蘇る。
「名乗る時、いちいち仰々しく名乗らなくても良いんだよ、ミュウ。君は……」
ノイズが入り最後は聞こえなかったが、きっとまた意味不明なことを言っているに違いない。
博士からはミュウだけでいいと言われていたが、きっとそれは博士だけだろう。
あくまで私は、機械なのだから。
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