第69話 きっと気のせいだろう

「わわっ!! ビビビッて引いてきますっ!! ご主人様、どうしたら良いのでしょうっ!?」


 そしてやはりベラがいるとう事は直ぐに他のベラが食いつくだろうなと思っていた通り、マリアンヌの落とした釣り餌にも直ぐに食いつくと、マリアンヌが持つ竹作りの竿の先を大きくしならせる。


「落ち着いてマリアンヌ。 一度釣り針を魚に突き刺すイメージで竿をしゃくり上げてからゆっくりと竿を真上に立ててみて下さい。 そしたら魚が水面に上がって来ますので僕が網で掬いますね」

「わ、わかりましたっ!!」


 そして、釣竿こそ竹で作っているのだが、リールまでは作っておらず馬の尻毛を竿の先端に結んだだけの簡易な竿である為、合わせた後は竿を立てて魚を水面へ持って来るよ指示を出す。


 そして釣り上げたのは黒鯛(のような魚)であった。


「やりましたっ!! 釣りましたっ!!」


 うん。 俺が今日釣ったどのベラよりも大きいし、美味しい魚である。


 そもそもどれ程の技術があれば馬の尻毛を噛み切られずに釣りあげる事ができるのか。


 もしかすればマリアンヌは俺よりも釣りの才能があるのかもしれない。


 そう考えると少しばかり複雑な気分ではあるものの、マリアンヌが楽しそうにはしゃいでいる姿を見るとそんな小さくて惨めな嫉妬心なんかどうでも良くなってくる。


 それに、おそらくこの黒鯛は今まで苦労を重ねてきたマリアンヌを不憫に思った神様からのプレゼントなのかもしれないのだから。 だから才能だとか技術とかではない別の要素が要因なのであって、俺がマリアンヌよりも下手ではないということではない。


 ビギナーズラックというヤツかもしれないしね。


「凄い……大きいですっ! 私、こんな大きいの初めて見ました……なんだか、興奮しちゃいますねっ!」


 そしてマリアンヌは釣れた黒鯛をまじまじと観察しながらも興奮しているのが伝わってくるのだが、なぜだろう? マリアンヌの言葉が卑猥な妄想を掻き立てるのは俺の心が汚れているのだろうか?


 きっと気のせいだろう。 


 そしてそんなこんなでこの後はマリアンヌもベラを十匹ほど釣ったところで釣りは終わる事にする。


 マリアンヌ本人はまだまだ釣り足りないと言った感じではあったのだが食べれない量を釣るのはダメだよと諭しながら帰路に着く。


 釣れたベラと黒鯛なのだが、ベラは天ぷらに、黒鯛は塩焼きと、アラは一度焼いて出汁をとった後うどんでも作ろうと思う。二


 ちなみにこの日一日でフランは二メートルまで浮き上がることができたようではあるものの、どうやら人族ではその高さが限界らしく悔しがっていた。

 

 やはり魔臓と翼のある無しの違いは大きく、いくらフランでも人種の壁を超えることはできなかったようで、どうすれば人族でも自由に空を飛べるのかと考え事をしている姿が見える。

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