第59話 神のなせる技

 その結果俺が逆に憲兵に捕まる事になり、ドラ息子の親から報復として片足を切り落とされた上に奴隷に落とされた訳である。


 俺の運もここまでかと思ったし、今まで妹のためにと俺が居なくなるような事はしないように頑張ってきたというのにたった一度の過ちで全てが台無しである。


 そしてこれから俺が居なくなった後の妹の待つ未来を想像すると、いかに馬鹿な事をしたのかと、後悔で押し潰されそうになった。


 そんな時に俺を引き取ってくれた奴隷商は俺の妹のことも面倒を見てくれるだけではなく、俺と離れ離れにならないように、そして妹の待遇も良くなるように交渉して売ってくれると言うではないか。


 だというのに俺は、心では感謝こそしていたのだが表に出す事はできず、それだけではなく今までの冒険者家業で染み付いた、荒々しく、他人を寄せ付けないこともせず横暴で、可愛げのない子供のような態度をとってしまうではないか。


 一体あの時俺は何を学んだというのか、自己嫌悪に陥ってしまう。


 そしてまだここの奴隷商に引き取ってもらってから三日ほどしか経っていない時に早速俺を買いたいという物好きが現れたというではないか。


 もし、俺の妹目当てのふざけた野郎だったらそいつの奴隷になる事は反抗しまくる覚悟だったのだが、蓋を開けてみれば俺の半分にも満たないであろう年齢の子供ではないか。


 どんな奴が来るのかと警戒していた俺の感情は、そいつを見た瞬間に怒りへと変化していった。


 クソガキの容姿から見ても世間の荒波も知らないであろう貴族の子供であろう事は見て分かったし、その事が余計に腹が立った。


 そして俺はこのクソガキに買われた後も反抗的な態度をとってしまい、折檻したければすれば良いと思っていたのだが、折檻どころか反抗的な行動を縛る命令はしてこないではないか。


 その代わり一度だけ命令された内容は俺を買い取ったクソガキの家、ウェストガフ家の執事であるセバスさんに鍛えられるという命令のみである。


 そんな事をしなくても『喋るな』などの行動を束縛する命令をするだけで済むにも拘らず、わざわざ鍛えさせるという命令をする意味が俺には分からなかった。


 そして、そんな生活が一ヶ月続いた時俺の足はクソガキもといご主人様に完治してもらった。


 まさに人ならざる神のなせる技であると思ったし、俺よりも年下のくせに俺よりも考え方が達観しており大人びてさえいるのがこの一ヶ月で嫌というほど理解させられ、それと同時にいかに自分の考え方が子供であるか思い知らされた。


 そこまでわかっているにもかかわらず未だにご主人様に対して失礼な態度をとってしまう俺が嫌になってくる。


 その事を、この一ヶ月で二人目の父親のような存在となっていたセバスさんに相談したところご主人様に一度決闘を申し込めば良いと言われるではないか。

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