第58話 心の余裕
しかし、俺の想像では足が治った瞬間に噛みついてくるものだと思っていたのだが意外にも決闘を申し込んできた当たりセバスさんの教育の成果なのかもしれない。
そんな事を思いながら、今回の決闘は俺自身今の自分がどれほどの力であるかある種の力試し的な事にしようするつもりでもある。
今の俺が冒険者ランクCの相手にどれ程通用するのか、非常に楽しみだ。
そして、自分の力を楽しめるという事にワクワクしている自分に気づき、なんだかんだで俺も男の子だな、と思うのであった。
◆
両親が死んだ。
それも流行病であっけなく。
妹もその流行病に罹っていたのだが何とか妹だけは生き永らえてくれた。
そしてなぜだか俺だけがその流行病には罹らなかった事が『俺が流行病に罹らなかったから両親は死んだのだ』『俺が両親の分の運を使ってしまったんだ』等と、変に罪悪感を感じてしまっていた。
その時には一応俺は冒険者登録をしており、日々草刈りや地域清掃などといった雑用から薬草採取といった比較的簡単で安全な依頼をこなしていたのだが、両親が死んでそうも行かなくなった。
その結果俺は妹を食べさせていく為に報酬は高いが危険度も高い仕事をしていかなければならなくなったのだが、ここで俺が死んでしまっては元も子もない。
もちろん騙されて一文なしというのも避けなければならないため、結果ソロで活動しながら少しでも危険だと感じたら依頼のランクを一つ下げるというやり方で冒険者業をこなしていった。
最初冒険者ランクが上がるまでは金銭面でかなり苦労したし妹にもひもじい思いをさせてきたと思うが、自分が死ぬよりはマシだと言い聞かせて、気がついたら冒険者ランクもCまで上がり、金銭面でも余裕ができていた。
そしてこの冒険者業で覚えた事は『他人は信用できない。 全員敵だと思え』という事である。
良い顔して初心者に近づき、騙すというのを幾度となく見てきた。
そして何人もの冒険者が契約違反で登録抹消されるのも見てきたが、そういう奴らがいなくなる事はなかった。
そんな時にCランクになり金銭的に余裕ができたのが悪かったのかもしれな。
金銭的な余裕という事は心の余裕でもある。
その、ほんの少しできた心の余裕のせいで今まで考えないようにしてきた両親の死と俺に降りかかった境遇を考えてしまうようになった。
そんな時に妹が豪商のドラ息子に襲われかけている事に遭遇してしまったのである。
以前の俺であれば妹から引き剥がして憲兵に突き出す程度で終わっていたのだろうが、この時の俺はこの光景を見て『俺のこのむしゃくしゃした気持ちを吐き出せる良い相手が見つかった』と思ってしまったのである。
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