第5話 罪悪感

 というかこの世界では無能スキル扱いされているものの【奴隷使役】と【回復】のスキルはなかなか使い勝手の良いスキルだとは思うのだが、その事を知る由もない神官さんが冷や汗をかきながらワナワナと震え出したかと思うと血相を変えて部屋を出て両親の元へと駆け出していくではないか。


「ローレンスちゃんっ!」

「ローレンスっ!!」

「ロ、ローレンスっ!!」


 そして神官に何をどのように説明されたのか、神官と同じくらい血相を変えて部屋へと両親と兄上が俺の名前を呼びながら入ってくると囲われるようにぎゅっと力強く抱きつかれてしまう。


 この日、俺のスキルのうち【奴隷使役】は非公開とする事が家族間の話し合いで決まるのであった。





 あれから一週間、家族からはかなり慰められ今も俺の事を遠くから悲しげに眺めてくる。


 俺からすれば、何ならスキルなしでもやっていける自信しかないのでむしろ逆にこの優しさが辛い。


 まるで『大切なものを無くしてしまった』と冗談のつもりで言ったのが冗談では済まなくなり、両親からは「代わりにはできないかもしれないけどこれで欲しい物を買ってきなさい」と少なくないお小遣いを貰い、兄上からは「代わりに俺の大切な物をあげよう」と兄上の大切な物を譲ってもらったような罪悪感を感じてしまう。


 しかしながらここで俺が「実はこの世界は俺が前世で過ごしていたゲームの世界にそっくりで、スキルも好きなスキルに付け替えができるんだ』と言った所で信じてもらえるわけがないし、余計に『スキルの儀の結果から現実逃避をしようとしている』と思われて今より心配させてしまいかねない。


 ならば俺自身が『全然気にしていない』と家族の不安が消えるまでアピールし続けるべきであろう。


 そんな時である。


 俺はお父様に呼ばれたので一緒に書斎へ行く。


「ローレンス。 お前はまだ三歳だからこの状況がどういう事か理解できていないのだろうが、いずれ大人になった時は家族だけはお前だけの味方である事を──」


 そして始まる、ここ最近毎日何度も聞かされる内容からお父様の話は始まった。


 この話の内容なのだが、俺が覚えたスキルは、一つは、今では奴隷契約という魔術が確立されてしまい何の意味もない【奴隷使役】というスキルに、少しだけスキルをかけた相手の治癒能力が気持ち上昇するだけの【回復】というスキルであり、いわばスキル無しに近い状態なのだという事と、そしてそんな俺にも家族だけはずっと俺の味方であるという事の二点をまだ三歳の俺にも分かりやすいように噛み砕いてくれた内容である。

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