2人のJDは話し合う
私とみずほは、高校の時からの仲良しだった。
私がソフトをやっていて、みずほはダンス部。
部活こそ違ったけれど、休み時間とか、オフの日とかは一緒に過ごすことが多かった。
1年生のクラスが一緒で、比較的誰とでも仲良くなるみずほは、私ともすぐ仲良くなって。
皆に対して仲良いんだろうなと思っていたんだけれど、気付けば私の所属するグループはみずほのいるグループになっていた。
いっつもみずほは中心にいて、明るくて。
その笑顔と、無邪気さに何度元気をもらったかわからない。
大学も同じところを受けると聞いた時は内心嬉しかった。
またみずほと一緒?って嫌な顔して見せたら、なーんで嫌そうなんだよっ!ってみずほが笑って。
みずほと一緒なら、大学生活も友達面では安心だななんて思ったくらい。
まあ何が言いたいかって、私はそれくらいみずほのことが好きだし、みずほもきっと、私のことをそれなりには気に入ってくれてるはずだっていう自負があった。
――それなのに。
「なに――してるの?」
胸の内から沸き上がる激情は、いったいなんだろう。
私達2人の部屋に戻ってきて、私とみずほは向かい合って座っていた。
旅館の客室。窓際の、海が見える場所。
机を挟んで正面に座るみずほは……既に泣いていた。
「ごめん……ごめんね、恋海……」
「……謝られても……」
空気は、正に地獄だった。
寝ている将人の容態が心配で向かった先。
みずほもいることは知っていたから、将人の調子はどう?なんて聞こうと思って部屋に入ると。
将人の顔付近に自分の顔を近づけているみずほを見てしまった。
怒りも、悲しみも、すぐには出てこなくて。
私は頭が真っ白になってしまった。
でも、冷静に状況は理解できていて。
止めなきゃいけないということだけはわかった。
「恋海が好きだって知ってたのに……私……私っ……」
「……」
大粒の涙を、みずほが手で拭っている。
いつもの天真爛漫な彼女は、どこにもいなかった。
……大きく、深呼吸をする。
私も、この状況をまだ受け止めきれてない。
するとみずほが、おもむろに顔を上げた。
その目は、赤く腫れていて――。
「ねえ、私の運命の人、将人だったんだよ?将人が私の運命の人だって……知っちゃったの……」
どきん、と心臓が跳ねた。
跳ねたけれど何故か――そこまで驚きはしなかった。
「あの時私を助けてくれたのは、将人だったんだよ!?全部全部、将人が助けてくれた……無理だよ、そんなの!辛いよ……!なんで将人なの?!なんで……
「……」
私はみずほの顔を……正面から見れなかった。
私もどうしていいかわからなかった。
さっき、みずほが将人に何かしようとしていた時、確かに私の中に怒りの感情もあった。けれど、それ以上に感じたのは、悲しみと、そして……みずほに対する申し訳なさ。
正直に言えば、私は半分気付いていた。みずほの探す運命の相手が、将人なんじゃないかって。
将人がボーイズバーで働いているという話を聞いた時。
みずほから聞いた状況を考えれば、将人なら十分に助けかねない、いやむしろ、助けるだろうと思ったこと。
でもその時会ってるのに、再会してわからないはずもないか……?って思ったから。
あくまで可能性として考えてただけだけど、少しだけ想像はしてた。
だけど、私はそれをみずほに言わなかった。……言えなかった。
怖かったのだ。それがもし正解で、運命の人は将人だったら?
みずほの運命の人が将人であるという事実を、受け止めたくなかった。
そして先延ばしにしたから……こんなことになってしまったんだ。
正面を見る。
また突っ伏してしまったみずほの背中が、小刻みに震えている。
親友が、泣いている。
「運命の人ってわかる前から、ちょっとずつ惹かれてる自覚があって……頑張って遠ざけようとしたんだよ……恋海のことと、運命の人が私にはいるからって、なんとか保ってきたけど……それすらなくなっちゃって……我慢、できなくなって……」
「紹介、しなきゃよかったかな」
「っ!ち、ちが……」
なんでこんなこと言ってしまうんだろう。
運命の人ってわかる前から、って言葉に反応してしまった。
でも、それも私が悪い。将人っていう男の子がどんな人なのかわかっていたのに、自分の欲のために近付けてしまった。
それで、みずほに辛い思いをさせてしまった。
また、ため息がこぼれた。
ふと、外を見る。
さざ波の音が、心地良い。……少しだけ、落ち着いた。
「ねえ、みずほ。将人のこと、好きなの?」
「……」
みずほは、無言で頷く。
きっと、譲れないのだろう。
もうその位置まで来てしまっているのだ。みずほの中で将人という存在が。
「譲ってって言っても、多分、無理なんだよね」
「……」
「いいよ。わかるもん。私もだから」
どうやら、覚悟を決めなければいけないらしい。
私は、一つ息を吐いてから……席を立った。
海の向こう。ぼんやりと水面に、月が映っていて幻想的な眺めだ。
そんな風景を見て心をもう一度落ち着けてから……私はみずほに振り返る。
これからするのは私にとって、一世一代の提案。
それは。
「じゃあさ、みずほ……私
「……え?」
これは、少しだけ考えていたこと。
独り占めできなくなるのは嫌だけど……みずほなら、私は良い。
「最近、男の人が複数の人と付き合うようになってるのは知ってるよね」
「う、うん」
「近い将来一夫多妻制になるって言われてるしさ……私とみずほで、将人をもらっちゃおうよ」
「……!」
みずほが驚いたように目を見開いている。
「みずほは、嫌?」
「い、嫌じゃ、ないけど……恋海は、いいの?」
「そりゃ本当は一人で付き合いたかったけど……みずほなら、いいよ」
それに、あんな聖人みたいな将人を、私一人で攻略してずっとこっちを見てもらうというのは厳しい気がしてた。
ボーイズバーで働いてる、なんて聞いた日には尚更。
将人の優しさでストーカーみたいなのがまだ生まれていないことが奇跡だと思う。
「もちろん、将人にこんなこと聞いてないからさ……告白でもするときに、一緒に言おうよ。私とみずほ2人でなら、流石の将人でもいけると思うんだよね」
「恋海……うぅ……うわーーーん恋海ーー!!」
「ちょっと大声で泣かないでよ!でもあれだからね!将人が恋海一人でって言ったら諦めてもらうからね!!」
「ひぐっ……いいよお……怖かったよおーーごめんね恋海……!」
涙でぐしゃぐしゃになったみずほが、私に抱き着いて来る。
みずほが心に抱えた葛藤は、私以上だっただろう。
ぽんぽんと、背中を叩いてあげる。
「私も、ごめんねみずほ。ちょっと思ってたんだ。みずほの運命の人が、将人なんじゃないかって。でも、怖くて言えなかった。私も……同罪なんだよ」
「うう……違うよお……悪いのは私なんだよぉ……ぐすっ……本当に、本当にごめんね……!」
私も知らず、頬に涙が流れていた。
みずほを嫌いになりたくなかったから。とにかく一旦話を落ち着けることができて、心が緩んだのかもしれない。
みずほが落ち着くまで、そして私自身も落ち着くため。
私はみずほを優しく抱き締め続けていた。
「ね、ねえ恋海本当にやるの?」
「うん。やっちゃおやっちゃお」
それから。
私達は改めて将人の部屋に来ていた。
私達はあんなに色々なことがあって騒いでいたのに、将人はぐっすりと眠っている。
それがなんだか悔しくて。でも可愛くて。愛おしくて。
将人が寝ている両側に、私とみずほが座る。
私が、優しく将人の頭を撫でた。
「もう……将人がカッコ良すぎるから、みずほまで惚れちゃったじゃん」
声は、小さく。将人は寝息を立てているだけで、起きる気配は全く無い。
「だから、これは罰だよ、将人。私達2人とも……面倒見てくれなきゃ、ダメなんだから」
私はそう呟くと、将人の首元に顔を近づけた。
みずほがやろうとしていたことを聞いて、私もしたくなった。
だから、2人でやろうとみずほに提案したのだ。
みずほは最初恥ずかしがっていたけど……了承してくれた。
いいよね。私達2人で、将人の身体に刻み込もう。
首の左側に、唇をあてがう。
将人の香りが、脳内を駆け巡った。
歓喜に身体が震えている。
この人を、自分のモノにしたいと身体中が叫んでいる。
強く。もっと強く。
どんなに長くても、足りない。まだ、足りない。
「……っはぁ……!」
ゆっくりと、離した。
首元には、くっきりと跡が残っている。
この人は、私のものであるという証拠。
気持ちが、昂った。
「みずほも」
「う、うん……」
みずほが、逆側に同じく跡をつける。
私と同じように、長く、そして深いマーキング。
みずほの頬が紅潮しているのが、私からもわかった。
そして、離れる。
将人の首元には、2つの“跡”。
2人で、将人の顔に両側から近づいて。
とても小さい声音で。
「将人。大好きだよ」
「将人……好き。大好きに……なっちゃったんだ」
みずほと私が顔を合わせてにやりと笑う。
絶対に渡さない。
このカッコ良くていじらしい、私達の男の子は。
私とみずほが――もらうんだ。
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