バスケ部JCは本気です




 バスケ部の同級生は、良い子が多い。

 

 最近はお兄さんのおかげで多少マシになったけど、以前は酷かった先輩からの嫌がらせを受けてる時も、この子達はずっと味方でいてくれたし……。

 皆仲良しで、信頼してます。

 

 だから、私達が3年生になった時とかは、全員で大会とか頑張りたいなってちょっと思ってたんだけど。



 「え~~なにあのカッコ良い人!!ちょっと由佳なんであんな人いるのに紹介してくれなかったの?!」


 「私毎日ここ来ようかな……」


 「由佳ったらあの人一人占めする気だったんでしょ!今までどんなことしてきたの!えっちは!えっちしたんでしょ!どこまで?どこまでやったの!このむっつり大臣!」



 ……私今とっても嫌いになりそうです。



















 何故こんなことになってしまったんでしょうか。

 

 今日はたまたま部活動が無く、皆暇だったのでバスケをしようということになりました。

 地域開放されている体育館にしようかという話にもなったのですが、体育館の中は蒸し暑いですし、外でバスケしたいという話に。


 私は幸いお兄さんとバスケする公園を知っていたのでそこを提案しました。

 ……お兄さんとの場所だし、ちょっとだけ抵抗はあったけど……。


 そんなこんなで公園でバスケをしていたのですが、私達が少し休憩している隙に、一人の男の人がコートを使ってバスケをしだしました。


 「え!みほたちがいない隙に場所とられちゃった~!」


 「……ちょっと待って男の人じゃない。一人って珍しいね」


 友達の言葉を聞いてその人を見てみると……すぐにお兄さんだってわかりました。

 背丈も、雰囲気も、そして……バスケのプレーも。


 どれか1つでもあれば私はわかるくらいなのに、3つも揃ったらわからないわけがないです。

 私の、大好きな人。


 「え、由佳どこ行くの?」


 「由佳ダメだよ!いくらむっつり由佳ちんでも通りすがりの人には犯罪だよ!」


 ……失礼すぎない?

 私むっつりじゃないから!普通だから!平均だよ平均!!










 


 

 と、いうことで……そうしてお兄さんに声をかけたところまでは良かったのですが……。

 いつの間にか3人が来ていて、あろうことかお兄さんにバスケの指導を願い出たのです!


 そ、それは私の特権なのに……。


 「あ、あのお兄さんは私が個人的に指導してもらってて……」


 「なんの指導してもらってるんですかあ??」


 「愛の個人指導……詳しく」


 「最近大人っぽくなったなあと思ったらそっちの意味でしたか……」


 「違うってば!!!もー本当に嫌なんだけど!!お兄さんに失礼なこと言わないでよ?!」


 もー最悪。

 これじゃお兄さんにどんなこと言うかわかったもんじゃない……。


 

 「あ~、由佳やっぱり俺帰るよ。申し訳ないし」


 「あ!ち、違います!お兄さんは、か、帰らないで……」


 「……?そう?」


 お兄さんに帰って欲しいなんて思ってない。

 けれど、3人にお兄さんに変なこと言われないか不安。

 もうわけわかんないよ~!!


 そうしている間にも、3人はニコニコでお兄さんに自己紹介してる。


 だ、大丈夫かなあ……。


 あ。みほがお兄さんの手握りしめてる……。

 う~~なんかもやもやする~~お兄さんは私のお兄さんなのに……。



 「も~~~~!!!!」


 こんなことなら公園紹介しなきゃよかったよ?!





 




 

 意外なことに、いざバスケを教えてもらう段階に入ったら、皆大人しく指導を受けてた。

 やっぱり、バスケは好きなんだなあ、皆。

 それがわかって、ちょっと嬉しかった。お兄さんもレベルに合わせて指導してくれてたし、私にもちゃんと指導してくれる。


 その度に、「由佳には前も言ったけど~」って言ってくれるのが、特別な気がして嬉しくなった。

 私とお兄さんで過ごした時間は、私にとってかけがえのないもの。

 お兄さんにとってもそうなってくれていたら嬉しいな、って思う。


 「お兄さんパス!」

 

 「お兄さんすごーい!」


 ……それはそれとして、皆もお兄さんって呼ぶのはどうして?

 その人は私のお兄さんであって……って私変になりそう。


 と、とにかく、皆がお兄さんって呼ぶなら私は呼び方を変えなくちゃ。

 将人さん……?でも前お兄さんって呼んでくれるの嬉しいって言ってたし……将人兄さん。よし、これにしよう。


 「お兄さんお兄さん!」

  

 休憩中に、すずかが将人兄さんのところへ走り寄る。

 ……なんか、嫌な予感が。

 

 「お兄さんにとって由佳ちゃんってどういう存在なんですか?!」


 「ちょっとすずか!?!?」


 何言ってくれてんの!!!

 すぐにすずかの頭ごと確保した。


 「痛い痛い!……でも由佳も気になるでしょ?」


 「ぐ……」


 た、確かに気になる。将人兄さんにとって、私って……。

 大事に思ってくれてたら、嬉しいな……。

 こ、この前のこともあるし……ひょっとしたら、好きになってくれてたりとか……。

 

 「由佳はそうだな……まだ会ってからすごい日が経ってるわけじゃないんだけど。もう俺にとっては、妹みたいな存在だよ」


 胸に、ちくっと痛みが走った。


 「い、妹……」


 妹。

 確かに、親密度で言えば近いと思う。大切にしてくれてるのも伝わる。


 けど妹じゃ、ダメなんだ。

 だって。

 妹って思われてる間は、きっと好きにはなってもらえない。


 彼女には、してもらえない。


 私は将人兄さんのことが好きなんだ。

 だから、好きになって欲しい。


 胸に走った痛みが、じんわりと広がる。



 「お兄さんって彼女いるんですか~!?」


 ってみほ?!だいぶ強烈な質問だよそれ?!


 「いないよ~。独り身さ」


 ほっ……!よ、よかった。

 いるよ~って言われてたら多分泣いてた。嘘じゃない。

 普通に泣いて帰ってたと思う。


 「ええ~めっちゃ意外!はいはい!じゃあ私彼女りっこーほしまーす!」


 「みほ!!!」


 もう本当に軽いんだからみほは!

 っていうかみほあなた彼氏できたって言ってなかったっけ?!















 練習を終えて。

 一つ呼吸を整えた私は、将人兄さんにお礼を言いに来ていた。

 一人で。


 「あの、ありがとうございました。ま、将人兄さん」


 「ん?んーん。こちらこそ、邪魔してごめんね……良い子達じゃん。大切にしなよ」


 「そうですね。よかったら、今度試合とか見に来てください」


 「お、是非是非。由佳が試合しているところ見たいしね」


 ……嬉しい。

 そんなことを言われただけで、私の心は温かくなる。

 我ながら、単純だなあ……。

 

 さて。だからこそ、妹という認識を改めたい。

 

 思わず、声が先に出た。


 「あ、あの……」


 「ん?」


 でも、なんて言おう。

 いくつもの言葉が浮かんでは、消えていく。


 告白する勇気なんてない。

 けど、女の子として見てくださいなんて言えない。もうそれはほぼ告白だもん。


 妹扱いが、嫌なわけじゃない。

 頭撫でてくれたり、褒めてくれたりするのは、嬉しい。


 けど私は、もう一歩進んだ関係になりたいんだ。

 

 「……なんでも、ないです」


 「……?そ?そしたら、また今度ね。いつでも練習付き合うからさ」


 私の、意気地なし。

 心の中で、自分に悪態をついた。

 けど、将人兄さんには、笑顔で。


 「はい。今度は、2人で、練習したいです」


 「ははは、そうだな。由佳に教えるなら、2人きりの方がいいな」


 2人きりで――。

 その言葉で、ドキっとする。


 将人兄さんも、2人が良いって思ってくれたのかな。

 

 

 ……いつか必ず。将人兄さんにもっともっと私を意識させて見せる。

 皆と違って私のこの恋は――。



 

 「はい!!またお願いします!」



 

 本気だから。





























 その日の夜。

 私はパジャマに着替えてベッドに寝転がって、一人で考え事をしていました。


 思い出すのは、今日の将人兄さんの言葉。


 『俺にとっては、妹みたいな存在だよ』


 妹、妹か。

 どうしたら、妹を卒業できるんだろう。


 「やっぱり、意識してもらわないとだめだよね」


 好きな人に振り向いてもらう方法……ネットとかで調べてみても、正直わからない。年上のパターンが少なくて、参考にあまりならなかった。

 けれど、とにかく意識させることが大事だと思う。


 意識……どうやったら?

 抱き着く?いやダメだ。感極まってこの前やっちゃったけど、普通に頭を撫でられて終わり。

 妹とのスキンシップで終わってしまう。


 手をつなぐ?う~ん、抱きしめる方が上だよね?

 となると、抱きしめるの、上かあ……。



 「キス……とか」


 急に顔が熱くなる。

 枕に顔を思い切りうずめた。


 ダメダメダメ!そんなの。

 でも、確かに良いかもしれない。そこまですれば、きっと意識してくれる。


 頭に浮かぶのは、将人兄さんの綺麗な顔。

 あの顔に……唇に……。


 「……っ!!」


 く、くらくらしてきた。

 で、できるのかな。でももしできたなら、それはどんなに素敵なことなんだろう。


 初恋の人に捧げるファーストキスは、どれだけ甘美なものなんだろう。



 「はぁ……」


 枕を今度は強く抱きしめた。


 将人兄さんに抱き着いたあの感触。

 忘れたことはない。鮮明に思い出せる。


 それが、もしキスなんてしてしまったら……。



 考えれば考えるほど、くらくらしてくる。

 もしかしたらその先も、なんて。


 ああ。

 ……今日はどうやら眠れなさそうです。


 


 

 

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