バスケ部JCは見せつける
夏場は中の部活はいいよねって外の部活やっている人によく言われるけれど。
体育館の中はとってもむし暑いです。
たしか先生が中の部活の方がマラソンの次に熱中症が多いんだよって言ってた気がする。
私達バスケ部は、そんなむし暑い中での練習を終えて、更衣室にいた。
制汗剤の匂いが室内に充満してる。
今日は午前中で部活終わりなんだけど、私はまだ少し動き足りないかなって思っていた。
「ねえすごいじゃん由佳!」
「由佳は小学校の頃からすごかったんだよ!」
「あはは……ありがとう」
同級生達がとても嬉しそうにお祝いしてくれるその理由は……さっきのミーティング。
練習終わりに監督の先生から、来週の公式戦でスタメンで使うと言ってもらえたことだった。
背番号は1年生の中では1番若い18番
というか、1年生で背番号をもらっているのは私だけ。
ありがたいけれど、やっぱりプレッシャーも感じる。ベンチメンバーに入れなかった人のためにも、ちゃんと結果残さなきゃ……。
「由佳のことめっちゃ応援するわ~!」
「由佳多分ガードだよね?誰の代わりに入るんだろ……」
「え、あれじゃない?2年生の……」
着替えも終わり、雑談をしながら更衣室から出ようとした、その時。
「1年。モップがけ甘すぎ。やり直してきて」
「え……」
ドアを開けると、そこには2年生の先輩3人。
「え、じゃないわよ。モップ本当にかけたの?午後使うバレー部が怪我したら責任とれんの?ほら、早く行ってきて」
「……」
……モップは、ちゃんとかけたと思う。
1年生全員でやったし、最後は足でキュッキュッって音ちゃんとするか確かめた。……けど多分、関係ない。
これは、嫌がらせだ。
しぶしぶ、私達は荷物を置いて体育館に向かう。
これくらいはなんてことない。我慢我慢。
「前田」
「……はい」
皆が体育館に行く中、私だけ呼び止められる。
嫌な、予感。
「……調子に乗るなって、言ったよね?」
「……はい」
「お前監督のお気に入りなだけだから。勘違いするなよ」
「……」
私がスタメンに入ったことで、2年生の人が控えになった。
けれど、その控えに落ちた人は笑顔で「頑張ってね」って言ってくれた。
なのに、そもそもベンチメンバーにも入っていないこの人達に、私は粘着されている。
「失礼します」
「チッ……」
部活って、難しいな。下級生が試合に出るのが、そんなにつまらないのかな……。
私なら、下級生に負けたくないと思ったら、もっと練習するけど……。
あの人達は、そもそも練習もそんなにしている感じはしないし……。
背中に刺さるような視線を感じつつ、私は体育館へと走った。
なんとなくそのまま帰るのが嫌で、気付けばいつもの公園に来ていた。
今日はお兄さんは来ないけど……シンプルにまだ練習したりなかったし、ちょうど良い。
外用のボールも持ってきておいて良かった。
時刻は13時過ぎ。
1時間か2時間程度やったら帰ろう。
もっと人がいるかとも思ったけど、お昼時だからかちょうど公園のバスケコートは空いていた。
ラッキーだね。
照り付けるような日差しが眩しい。
もう夏も本番を迎えようとしているんだなってわかる。
「ほっ」
フリースローラインから、シュート。
パサッという気持ちの良い音を鳴らして、ボールはリングに吸い込まれた。
「うん、いい感じ」
お兄さんとここで練習をするようになってから、更に上達していると思う。
お兄さんに教えてもらった技術が無かったら、今スタメンに選ばれていなかったかもしれない。
本当それくらいお兄さんは私にたくさんのことを教えてくれた。
(お兄さんの、真似しよっかな)
憧れの人の動きを、脳内に思い浮かべる。
何度も何度も近くで見てきた動き。それに……好きだから。脳裏に焼き付いた大好きな人の動きくらい、すぐに何度でも思い出せる。
ボールを拾い上げて、軽くドリブルをついて……。
レッグスルーからのクロスオーバー。
右にドライブで切れ込んで……ロールでターン。
そして急停止からのフェイダウェイ。
そう、この動き!
ガンっと音を立てて、ボールはリングに阻まれる。
やっぱりこれは、難しい。なによりも最後のフェイダウェイ。
自分が後ろに飛びながら、前へシュートを放つというのは、実際にやってみると本当に難しい。
(お兄さんは、やっぱりすごいなあ……)
この難しいシュートを、簡単に成功させる。
この距離から練習で外したのはほとんど見たことが無い。
「よし……」
気合を入れ直す。
今度はこれをちゃんと成功させて――。
「あれ~良い場所あるじゃ~ん」
聞いたことのある、声がした。
「練習したりなかったんだよね~」
「わかる~。あれ、けど誰かいるよ??」
「あっれ~?うちのジャージじゃないあれ」
わざとらしい声……。
さっき嫌がらせをしてきた、2年生の先輩達だった。よく見れば、後ろには1人の男バスの先輩もいる。
確かあれは、私の代わりにスタメンから外れた、あやこ先輩の彼氏……みたいな話を聞いたことがある。
男バス2年生ではぶっちぎりで人気らしいけど、お兄さんを見慣れている私からすると……。
でもお兄さんと比べてしまうのは流石に可哀想か。
同年代のレベルで言ったら、確かにかっこ良いとは思う。
ちょっと居辛そうにしているけれど、付いてくるってことは私のことを邪魔だと思ってるのかもなあ。
「……お疲れ様です」
「あっれ~!前田じゃん。へえ~こんなとこで練習してたんだ~」
「私達も練習したいからさ、貸してよ」
……最悪だ。
けれど、仕方ない。ここはおとなしく引き下がった方が良さそう。
逃げるが勝ちって、なんかで言ってたし。
「はい。どうぞ。私は帰ります。お疲れ様でした」
ボールを持って、私は逃げるようにコートの出口へ向かう。
しかし。
腕を強引に掴まれた。
「なに、つれないじゃん。一緒に練習しよーよ」
「……」
少なくとも、一緒に練習しようという声音ではないよね……。
嫌な予感がする。
けれど、このまま帰れる雰囲気じゃない……。
「……はい」
覚悟を決めるしか、私には選択肢が無さそうだった。
どれくらい時間が経っただろうか。
30分?1時間?正直時間感覚は、もうあまりない。
「前田もうへばったの???そんなんで試合大丈夫かなあ~!?」
「はあ……っ!はぁ……っ!」
この炎天下で、休憩無しで走りっぱなし。
先輩達は交代交代で、私だけ休憩なし。
これくらいはされるかもと思っていたけど、やっぱりキツイ。
「じゃーそろそろ2on2やろっか。試合形式も経験しとかないとね?期待の1年生」
「はぁ……っ!はぁ……っ!」
せめて水分を補給させてほしい。
身体が空気と水分を求めて悲鳴を上げている。
「ほら前田早くしろよ。お前のオフェンスからだぞ」
ボールを投げられて、辛くもそれを受け取った。
2on2と言うくらいなのだから、仲間がいる。けれど、それは形式上の話であってこの場面では関係ない。
仲間役の先輩は、ボールを受け取るつもりが無いのだから。
仕方なく私は、ドライブで抜くのを試みる。
けど、もう身体はボロボロで、いつものキレなんか出るはずもない。
もう1人が来てダブルチームになって、私の立場はもっと厳しくなった。
「そんなもん?!それじゃ辞退したほうがいいんじゃないの??」
「出れなくなった、あやこの気持ち考えなよねえ!!」
そんなの、わかってる。
だから私は、あやこ先輩の分まで頑張ろうと……!
「ほらどうしたんだよっ!!おら!!!」
「……っ!!」
どぐっ、と嫌な音がした。
視界が暗転する。
先輩の振り回した肘が、私の顔にもろに入ったっぽい。
痛い。
呼吸がしんどい。
笑い声だけが響いてる。
なんで、なんでこんな目に遭わなきゃいけないの?
バスケが、好きなだけなのに……。
……あれ、さっきまで私の姿を見て笑っていたのに、笑い声が聞こえない。
私、耳聞こえなくなってるのかな……。
「随分楽しそうな練習するんだね」
……え?
そんなはずない。
だって、今日は日曜日で。
約束も、別にしてなくて。
なのに。
この声を、私は狂おしいほど知っている。
上を、向いた。
そこには、私の大好きな――
「由佳、立てる?」
「…おにい、さん……?」
私を支えるように肩を貸してくれる人。
それは間違いなく、私の大好きな人。
将人さんだった。
「だ、誰ですかあなた」
「部活動の練習中なんですけど」
先輩達が明らかに動揺している。
お兄さんのカッコよさに驚いただけかもしれないけど。
「へえ。こんな1人をボロボロになるまで虐めて、自分たちはその姿を見て笑うのが、健全な部活動なんだ?」
「……」
……お兄さんが、怒ってる。
声だけで分かった。
初めて見た。お兄さんが怒っているところを。
お兄さんは冷めた視線を先輩達に向けて、そして私の方に振り返った。
「由佳、とりあえずこれ飲んで。水分も、ろくにとってないでしょ」
「ありが、とうございます」
渡されたペットボトル。
私はそれを受け取って、すぐに飲んだ。乾ききっていた身体が、潤っていくのがわかる。
お兄さんは私に優しい笑顔を向けて、ベンチまでついてきてくれた。
私を、座らせる。
「ごめんね、遅くなって。ちょっと休んでて」
ぽんぽん、と頭を撫でられた。
身体が、別の意味で熱くなる。
こんな時なのに……身体が喜んでしまう。
それでもまだ、頭は混乱していた。
お兄さんは来るはずないと思っていたのに。
「で?由佳を虐めて、なにがしたいの?君たちは」
「い、虐めてなんかないです。私達は、前田がスタメンに相応しいかどうかを確かめていただけです」
「そ、そうです!それなのに邪魔しないでもらっていいですか?」
「……へえ……」
よくそんな言葉が出てくるなあ、と思った。
本当のところは、私の身体か精神を傷つけて、スタメンを降りてもらおうという魂胆だったんだろう。
「じゃあ由佳が君たちに実力を示せば、君たちは諦めるってそういうことかな?」
「も、元からそのつもりでしたけど?けど前田が下手だからこうなっていたわけで」
普通にやったら勝てないから、私のスタミナを削りに来たんだ!
ついでに怪我もしてくれたらラッキーくらいの感覚で……!
ふつふつと、怒りが沸いてくる。
と、お兄さんがこちらに振り返った。
「由佳……もう少ししたら、動ける?」
「え……?」
お兄さんからの提案は、意外なものだった。
けど、次の一言は、私を奮い立たせるには十分すぎる言葉で。
「示してやろうよ。由佳の強さを」
「……はい……!」
今までのどんな時よりも、私の身体に、力がみなぎった。
お兄さんがもう一度、先輩達の方へ振り向く。
「由佳が君たちを倒せばいいんだよね。俺と由佳でチームを組むから、君たちは4人でいいよ」
「は、はあ?4対2ってふざけてるんですか?」
「ふざけてないよ。それに、俺は飛ばない。身長差があるからね」
と、飛ばない?!ジャンプしないってこと?
バスケはゴールが上にあるというスポーツだから、試合の中でジャンプは欠かせない。
何度も何度もジャンプするスポーツ。
それなのに、お兄さんはジャンプをしないと言い放った。
「随分舐められてますね……いいですよ」
「それで……これに勝ったら、君たちは素直に由佳のスタメンを認める。いいね?」
「じゃあその代わり、これに負けたら前田はスタメンをオリてもらえますか?」
……!
選んでもらったスタメン。オリたくはない。
けどそれと同時に……私はお兄さんと組んで、負ける気もしない。
お兄さんからの視線を受けて、私は頷いた。
「いいですよ。受けます」
「……よし。じゃあ、やろうか」
お兄さんが、ネックレスをゆっくりと外す。その動作が、カッコ良くて。
胸に、嬉しさがこみ上げた。
こんな状況で叶ってほしくはなかったけれど。
お兄さんと、チームでバスケができるんだ!
「じゃあ、オフェンスはこっちからね」
お兄さんがボールを持つ。
想定通り、お兄さんの方には女バスの先輩2人がダブルチームでついた。
こっちにも、2人。
あの2人は、この中では上手い方。
けれど……はっきり言って。
「ふっ……!」
お兄さんの相手ではない。
「えっ?」
「は?!」
驚く2人をよそに、お兄さんはものすごい速度のスピンムーブで2人をかわした。
そのまま、ゴールまで一直線。
「なにしてんの!」
慌てた1人が、私のマークを外してゴール下へディフェンスへ。
お兄さんはきっとあの程度かわしてシュートを決めることなど造作もない。
けど。
お兄さんからの視線に、私は瞬時に反応した。
フリースローラインあたりをめがけて、走り出す。
お兄さんが上手いのはわかってる。
けど、今私がしなきゃいけないのは、お兄さんにおんぶに抱っこされる事じゃない。
私がやってきた練習を、努力を。
示すんだ!!
「あっ……!」
お兄さんがジャンプしないことをいいことに、シュートブロックしようとした先輩がジャンプした。
その下を、お兄さんがバウンドでボールを通す。
私の胸元に、寸分違わないパス。
一人しかマークのいなくなった私は、男バスの先輩を前にして……。
「ふっ……!」
右に切れ込むようにみせてから、得意のクロスオーバー。
何度も何度も、この場所で繰り返してきた動き。
ボールを見なくたってできるようにしてきた動き。
男バスの先輩が動きについてこれず、よろめいた。それでも私は容赦なく抜き去る。
そのままバックレイアップ。
これも何百回もやってきた。自信を持ってシュートを撃てる。外すはずがない!
パサッという音と共に、ボールがリングに吸い込まれる。
呆然とする先輩達を尻目に、お兄さんが指を立てた。
「これで、2点先制ね」
どうしよう。
こんな状況なのに。
楽しい……!
先輩達のオフェンスは、私がボールをスティールして失敗。
ドリブルが雑すぎる。取ってくださいと言っているようなものだった。
お兄さんと日々やってる1on1に比べたら、ぬるすぎる。
そもそもボールを見ながらしかドリブルができない時点で、甘いよね。
もう一度、私達のオフェンス。
「次は止める……!」
「さっきは油断してただけだから」
お兄さんのマーク2人が、今度は気合の入ったディフェンス。
正直、それでもお兄さんは簡単に抜けると思う。
けど、さっきのワンプレーで私は察した。
お兄さんは、私を活かそうとしてくれている。
というか、基本的に私がシュートを決める役なんだ。私が示さなきゃいけない。自分自身がやってきた努力を……!
ドリブルをつくお兄さんが、私に目で合図。
その視線の動かし方で、私は意図に気付いた。
私はすぐさま走り出した。
お兄さんについているディフェンダー2人のうち、私の方にいる側の横にぴったりと張り付く。そこから左に、いけないように。
スクリーン。
「……っ!」
それを見てお兄さんが左にドライブ。
私が壁になって、ディフェンスの先輩はお兄さんの動きについてこれない。
「スイッチ!」
先輩が叫んだ。
マークの相手を交代する合図。しかし、お兄さんの意図はそこ。
マークの相手がどっちなのかわからなくなった混乱に乗じて、ゴール方向に動いていた私にすかさずパスを通した。
ダイブの動き。
これも、お兄さんと動画で見た動きの一つ。
もうディフェンスは全員後ろだ。私のドリブルの速度に追い付けない。
「なんっで……!」
ドリブルしてる方が、基本足は遅い。
けれど、その私に先輩たちは追いつけない。
私は何本もドリブルで走り込んでいるから。そう簡単に追いつかれるようなドリブルはしていない!
全力のドリブルから、強く足を踏み込んで私はレイアップへ。全速力のままレイアップをすると、勢いが強すぎて外しやすい。
だから私は強く足を踏み込んで、勢いを下に流す。
これも、お兄さんから教わって、何度もやってきたこと。
ボールはパサっと柔らかい音を立ててネットを揺らした。
青褪めた先輩達がたまらず、4人集まって何か話している。
「前田ってこんなに上手かった……?知らないんだけど…!」
「しょーすけちゃんと動いてよ!あやこがスタメンに戻れなくていいの!?」
「でも……」
「あの大学生は止めるの諦めて、前田を止めよう。前田が結局シュートを打ってくるみたいだから」
……お兄さんの動きに気付いたみたい。
お兄さんが、私にシュートを打たせようとしている流れを。
「ないっしゅ、由佳」
「ほぇ?あ、はい!ナイスパスです!お兄さん!」
「念には念を入れてやってたけど……これは大丈夫そうだね」
「え?」
お兄さんはちょっと意外そうに向こうのメンバーを見て。
それから、いつもの笑顔で私にこう言った。
「俺いなくても、由佳なら全員抜けるよ。あれ。だから、次は由佳がボール持って、抜いてみて。一応俺もボール受けられる所にいるから、キツそうだったらパスもらう」
……!
「わかり、ました!」
お兄さんが、信頼してくれている。
その事実だけで、私は何万倍も頑張れる!
先輩達のオフェンスはまた失敗して、私達のオフェンス。
5点先取だから、これを決めれば私達の勝ち。
私が、ボールを持った。
今度は、女バスの先輩3人が私についている。
先輩の1人が、恨めしそうに私を睨みつけてきた。
「前田……誰よあの男」
「……私の、大切な人です」
「……!むかつく……!ほんとにむかつく!!」
少しだけ、優越感。
お兄さんを少しだけ見た。
私を見ている。その瞳は、私を信頼しきっているのがこれでもかと伝わってくる。
期待に、応えたい!
お兄さんは、私の……私だけの大切な人!!
右に鋭くカッティング。
流石に3人もいれば、一番右にいた先輩がついてくる。
急停止。レッグスルーからのクロスオーバー。私の得意な動き。
右の人がよろめいた。
その隙をついて真ん中から一気に切れ込む!
「この……!」
ファウルぎりぎりの動きで、ディフェンスしてきた先輩が私の進路を塞いできた。
それも、いなす。前への推進力を使って、そのままロール。
一人かわして、私はすかさずシュートフォームへ。
「ふざけ……んな……っ!」
意地だろうか。
最後の一人の先輩が、私のシュートをブロックするためにジャンプ。
まずい。
このまま撃てば、ブロックされる……!
――瞬間、私はお兄さんのいつもの動きを思い出した。
クロスオーバーからのロール、からの急停止して……。
私は飛んだ。
「なっ……!」
これならブロックは届かない。
何度も、何度も見てきた動き。
このシュートが決まるのも、何度だって見てきた。
だから、大丈夫。
私にも、できる!
右手で、ボールを放つ。
綺麗な弧を描いて……ボールは、リングに吸い込まれた。
試合が終わって、先輩達は帰っていった。
案の定というかなんというか、私をつけてここまで辿り着いたらしい。
何やら最後、男バスの先輩が女バスの先輩3人と揉めていた。
聞き間違いでなければ、男バスの先輩が私を虐めるのをやめてと言ってたような気がする。
それで女バスの先輩達も謝ってきたし……よくわからない。
けど、これでちょっとでも学校でのいじめがなくなってくれるなら嬉しいな。
「由佳、最後ナイスシュートだったね」
「あ、ありがとうございます!」
お兄さんの動きを見てたから……決まったシュートだった。
お兄さんの、おかげ。
勝利の余韻に浸っていたけど……そういえばそれどころじゃなかった!
ちゃんとお礼!しないと!
「あ、あの、今日は助けてくれて、本当にありがとうございました!!!」
「いやいや、むしろ遅くなっちゃってごめん。それにね、実は途中見てたんだ」
「え……?」
「いや、由佳がチームメイトと楽しくやってんのかなって思ってさ、見ちゃってたんだよ。そしたらなんか雰囲気ただごとじゃないし、由佳が殴られるし……ヤバイと思ってきたわけ。だからもっと早く気付いてれば、由佳を傷つけることもなかったな、って」
……涙が出そうだった。
本当に、優しすぎるよ……。
お兄さんがいつもの柔らかい笑顔で、続ける。
「こんな形ではあったけどさ、俺は由佳とチームでバスケができて楽しかった。やっぱ上手いわ。すぐ俺なんかより上手くなりそう」
「え、ええ?!そんなことないですよ!でも、私もお兄さんとバスケができてうれしかったです!」
そこだけは、本当に感謝している。
こんな機会、もうあるかわからないから。
ベンチに、腰掛ける。
今日はもう帰ろう。色々あって疲れちゃった。
たくさんの想いを噛み締めながら。
鞄にボールをしまって、帰り支度を始めたその時。
「由佳、ちょっと待って」
「え……?」
お兄さんはそっと私に近づくと、少しかがんで、視線を合わせてくる。
目と目が、合った。
お兄さんの顔はやっぱり綺麗。
……距離が、近い。
お兄さんの顔が、徐々に近づいて来る。
え……?
ちょちょちょ、ちょっとまって???
これって、もしかして、もしかして、き、キス?
キスされる流れ?
確かに今日の流れは、運命的なものを感じたし、シチュエーションとしては理想的かもしれないけど!!!
心臓の鼓動が加速する。
ファーストキスは、まさかの外?しかもまだ、お日様出てるよ?!
え、ちょっと、それは早すぎる。
ど、どうしよう。でも、嬉しいは嬉しいし。目、閉じた方がいいかな。いいよね?
目を閉じた。
お父さんお母さん、私は今日ファーストキスを大好きな人に捧げます。
頬に、ぺり、となにかが貼られた。
え??
目を開ける。
「良かった~この前自転車でコケて怪我してからさ、バッグに絆創膏ストックしておいたんだよね!頬からちょっと血出てたし、これで大丈夫やね。もっと早く気付いてあげればよかったんだけど……ごめんごめん!」
「……」
頬を、触る。
絆創膏の表面って、結構すべすべしてるよね。
「……っ!!!!」
「うわっ?!どうしたの由佳?!」
色々な感情がせめぎあって、爆発した。
キスじゃなかったとか、でも心配してくれて嬉しい、とか。
もうわけがわからなくなって、勢いのまま、私はお兄さんに抱き着いてしまっていた。
もう引かれてもいい!今はこの感情を、お兄さんにぶつけたい!!
身体全体が熱い。
大丈夫かな。お兄さんに、嫌がられてないかな。
お兄さんに優しく、頭を撫でられる。
「……よく頑張ったね、由佳。カッコ良かったよ」
――もう、何も考えられない。
お兄さんしか、将人さんしか見えない。
(好き好き好き好き……!!!大好き!!!!)
自分の気持ちを確かめるように。
私はそのままお兄さんを強く、強く抱きしめた。
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