貞操逆転世界で普通に生きられると思い込んでる奴(男女比1:5の世界でも普通に生きられると思った?)

@koutaro1226

幼馴染系JDはたまに怖い

 



 貞操観念逆転世界。

 名前だけは聞いたことがあった。それはきっと自分が創作物にそこそこ興味があって、一部の層から人気を得ているという事実を知っていたからだと思う。


 女性が男性よりも性欲が強くなり、異性をより求めるようになる。

 強姦は男ではなく女がする物。みたいな感じだ。


 結局のところ、それも男がそうなってほしいという願望から生まれているだけであって、男の方が浅ましいということを如実に表してしまっていると思うのだが、きっとそんなド正論をネットでぶちかませば俺は袋叩きにあうこと間違いなしだろう。



「はあ……」


 ――さて、なんで俺がそんなどうでも良いことを考えているのかと言えば。



 


 『昨日、○○区の高校教諭が男子生徒に対してわいせつな行為を働いたという容疑で……』



 どうやら俺は、その貞操観念逆転世界とやらに転生してしまったらしいということがわかったからだった。

























 「将人!もう朝よ~!」


 「はいは~いもう出ますよ」


 それからなんやかんやあって(驚くほど省略)。


 

 貞操逆転世界だからハーレムできるぜひゃっほい!――とか。ちょっとセクハラまがいのことしても許されるよね?!――とか。

 そういうムフフな展開は残念ながら特にこなかった。



 いや別にいいんだけどね?

 普通に生活できるのが一番よ。

 ってか普通に生活させてもらってるだけありがたいよ。死ぬかと思ったからね最初。



 しばらく経ってからわかったのだが、ここはどうやら異世界というより、パラレルワールドみたいなものに近いらしい。

 何故か戸籍があって、『片里将人』という存在は、最初からこの世界にいたことになっている。

 もといた高校を卒業したことになっていて、ちょうど春から行くはずだった大学の入学手続きも終わっていた。


 つまりは、『前いた世界と酷似しているけれど、貞操観念だけが逆転している世界』に転生したって感じ。

 この世界は男女比のバランスがちょっとだけ壊れちゃって今は1:5くらいらしい。これからもっと男が少なくなるんじゃないかって言われてる。

 よかった。前の世界で見た創作物とかの1:1000とかだったら正気を保てなかった。

 毎日襲われるのを覚悟で生活するとか俺には無理よ。


 「将人あんた今日シフトだかんね!18時にはお店きといてよ!」


 「はーい了解でっす」


 さっきから家の外から俺に声をかけてくれているのは、形式上俺の保護者となってくれた附田藍香さん。既婚者だけど、夫とはもう会って無いらしい。闇が深い。

 

 

 藍香さんは俺が転生してきた直後、路地裏でぶっ倒れてるところを見つけて保護してくれた。

 そんで、条件つきではあるけれど、俺の保護者になってくれた人でもある。

 なんなら大学に通うことも許してくれた。もちろん、奨学金を使ってであるから、自分で働いて返すけど。

 

 とにかく俺はこの人に頭が上がらない。

 今生活できているのは間違いなく藍香さんのおかげだった。


 玄関のドアを開けて、藍香さんに挨拶する。

 ゆるくウエーブがかかった茶髪を片方だけお下げにまとめている。もうすぐ30になるっていうのに綺麗な人だ。

 職業柄もあって、身なりには気を使っているのかもしれない。

 

 俺が住んでいるこのアパートは、藍香さんが借りてくれている。

 藍香さんがやっている店のすぐ近くということもあって、朝はこうしてたまに声をかけにきてくれるのだ。


 

 「どうなの?大学では友達できた?」


 「あ~……そうっすね、一応……?」


 「怪しいわねえ。変な女に騙されちゃだめよ。外泊するときは私にちゃんと連絡すること!あと敬語もやめる!」


 「ういーっす行ってきまーす!」


 気恥ずかしくなった俺は会話を切り上げてそそくさと退散する。

敬語をやめろと言われてもまだ出会って数か月の、それも恩人である人に敬語を外すことは難しい。

 固い人間なんです、俺。


 それにしてもここで「変な女に騙されるな」というワードが出てくるあたり、やはり元の世界とは違うんだなあと痛感させられる。

 藍香さんから見た俺は、元の世界風に言うと危なっかしい女の子に見えているのだろうか。


 


 


 


 

 











 藍香さんと別れて、大学へ。

 時刻は11時。お日様が容赦なく地面を照り付けている。

 季節はもう夏を迎えようとしていることもあり、この時間帯は気温がアホみたいに高い。


 「あっつ……」


 額に流れる汗を拭いながら、お気に入りの腕時計をちらりと見る。


 「やべ、2限間に合わね……」


 2限目の開始時刻は11時10分。

 このまま歩いていたら、開始時刻には間に合わなさそうだ。


 「走るかーー」


 と思ったその時、スマートフォンが振動する。

 ポケットに手を突っ込んでスマホを出してみれば、SNSの通知が一つ。



 《恋海》『将人今日2限104教室だよね?席取っておいたよ♪』



 「助かる~~~持つべきものは友だな!」


 走り出そうとしていたのを中断し、早歩きに変更。


 ありがとうと感謝の意を伝えるスタンプだけ送信して、スマホを再びポケットに突っ込んだ。

 

 席を取ってくれているなら多少遅れても問題ない。

 一番地獄なのは席をとれてないのに遅刻してきて教授の目の前で授業受け始めることだからな!!


 俺は心の中で同級生の恋海……五十嵐恋海(いがらし こうみ)に感謝して、大学への道を進むのだった。




 



 




 


 

 

 「~~~~であるからして、ここの文章の意味は~~~」


 

 教室に入ると、既に授業は始まっていた。

 10分ほどの遅刻だけど、大教室だから問題ない。うちの大学は、そのへんが緩いのだ。


 

 (将人!こっちこっち……!)


 

 出席を示すためにカードリーダーに生徒証をかざした後、きょろきょろと教室を見回してみれば一番後ろの一番奥の席から手招きをしている恋海を発見。


 ささっと後ろを通って、恋海がバッグを使ってとってくれておいた席を無事確保した。


 

 「マジサンキューな恋海助かったわ」


 「にしし……将人のためならこれくらいちょろいもんだよ♪」


 無邪気な笑顔をこちらに向けるショートボブの女の子……五十嵐恋海は、この大学で俺の唯一の友達と言って差し支えない。


 転生でごたごたして大学入学が遅れてしまった俺は、普通の新入生よりも1ヶ月ほど遅れて授業に参加することとなった。

 そして、大学1年生の入学最初の1ヶ月は、あまりにも大きい。

 皆それぞれ友達のグループは完成し、所属サークル等も既に決まった後。

 

 俺は学生生活ぼっちを覚悟していたのだが……そこで現れたのが恋海だった。

 恋海自身は明るい性格もあってかいくつかのグループに所属しているはずなのに、何故かぼっちの俺に特別優しくしてくれる。

 奇跡の存在。


 でもやっぱりそんな都合の良い展開が起こるのも、貞操逆転世界だから、なのだろうか。……はっ、ひょっとして、こ、この子もしかして俺に一目惚れ?!


 ……危ない危ない。勘違い童貞がログインするところだったわ。耐え。

 

 なんてことを思っていたら、Tシャツの袖をぐい、と恋海に引っ張られる。


 「……ね、せっかく席とってたんだから、今日こそ一緒にご飯行ってよ」


 ……なんだこの可愛い生き物。

 にへらと無邪気な笑みを浮かべてデートのお誘いをしてくるこの少女の破壊力たるや。


 ショートボブに揃えられた亜麻色の髪からそっとのぞく小ぶりなピアスが彼女の無邪気さとギャップを作り出していて可愛らしい。

 彼女の来ている白いシャツがオフショルダーなこともあって、身体を寄せてきた際に否応なしに肌が見えてドキリとしてしまう。

 

 冷静冷静。

 こういう時こそクールにいかねば。

 俺はクールな男なんだ。


 

 「あ~ま~じでごめん、今日はバイトなんよね」


 「え~もしかして将人金曜日は確定でバイト系?」


 「そーね。ほとんどそうかな」


 「そっか~じゃあ来週の月曜日とか!」


 「おーそれならいいよ全然」


 「やった」


 小さくガッツポーズをしてから、身体の位置を元に戻す恋海。

 いや可愛すぎんか???

 狙ってやってるだろ!いい加減にしろ!!でも可愛いから許す!


 ……ふう、と一つ息をついて、授業に集中。


 実は恋海とは、授業がほとんど被っている。

 というのも、遅れて履修登録(大学における授業登録みたいなもの)をする際に恋海が手伝ってくれたからなのだが。

 学部も一緒だったこともあり、親切にとらなきゃいけない授業を教えてくれた上で、一緒に取れるものは一緒に取ってくれたのである。女神か???

 

 ……でも冷静に考えて申し訳なくなってきたな。

 こんな可愛い子なんだし、友達のグループと一緒に授業とりたかったろうに……。


 

 「……なあ、本当によかったのか?俺と授業とるより、友達と授業とりたかったろ……?」


 「……んー?全然そんなことないよ。友達とは、サークルとかで会えるしね」


 ヒソヒソと小声で話しているから俺たちの声は教室に響いたりはしない。


 「もしあれだったら、たまには友達と受けてくれてもいいからな。俺は一人でもいいからさ」


 これだけ人望のある子なんだ。きっとこの授業を受けている中でも友達の一人や二人いるだろう。

 俺はそう思ったのだが。









 「なんで?」



 



 

 

 瞬間、気温が10度くらい下がった気がした。


 恋海は変わらず笑顔だが、なんか目が笑ってない。


 ――え?なんか俺地雷踏んだ???



 「え、いや、恋海がほら、他の子と受けたいかな~って」


 「将人は私と授業受けるの、嫌?もしかして、他の女の子と授業受けたい?」


 「いやいやいや!そんなことない。マジでありがたいし、恋海みたいな美少女と授業受けれるならそんなに嬉しいことはないようん!ってか恋海以外に友達いないし!」


 

 よくわからないがヤバイ気がしたので音速で弁明してみる。

 え、女の子わからん。なにが悪かったの??怖いんだけど???


 しかし俺の「恋海みたいな~」あたりから次第に恋海の表情が明るくなっていって。



 「び、美少女?そう?かな?将人からみて、可愛い?」


 なんか急に恥じらいだした。


 「お、おう。そら可愛いだろ。自信持っていいと思うよ?」


 「そっかーえへへ……可愛いかあ……」


 ほっ……どうやら難を逃れたらしい。

 最近の女の子はわからんなあ……最近、というかこの世界の、といった方がいいか。

 いったいなにがいけなかったのか。


 溶けたようににまにまと笑う可愛い恋海を見て、俺はとりあえず胸をなでおろすのだった。




 

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