豆腐メンタル

仲仁へび(旧:離久)

第1話



 私は豆腐メンタルだ。


 豆腐の様に心がやわらかくもろいから、ちょっとした事ですぐへこむ。くずれる。


 他の人からしたら大した事ない事でも、けっこうダメージを受ける。


 こんなんじゃいけないと思って頑張ろうとするけれど、無理をした反動が後からどさっとやってくる。


 失敗するたびに、このまま一生かわらないのでは、と思ってしまう。


 けれど、そんな私にもどうしてもやりたい事があった。


 それは料亭の料理人になる事だ。


 見た目もよくて、美味しい。


 そんな料理を作って、お客さんに美味しいと言ってもらいたい。


 色々ダメな所ばっかりだけど、こればかりは人に褒めてもらえるから、自信が多少あった。


 けれど豆腐メンタルだから、やる前にあれこれ悩んでしまう。


 もし、人から文句を言われたら。


 もし、自分が思っているほど美味しくなかったら。


 もし、お客さんの前で何か失敗してしまったら。


 考えだしたら、きりがない。


 そんな夢なんてなかった事にして、あきらめてしまおうと何度も思った。


 でも、それでもやりたい。


 がんばりたい。


 私はそのたびに包丁を握り、料理と、いや、己の心と向き合った。


 そして。







「いらっしゃい」

「久ぶりに来たよ。今日もいつもの出しとくれ」

「はいはい、三十分くらいでできるから席について待っててね」

「ほんと楽しみだな。新しい店が出ても、ついついこの店の味を思い出して、戻ってきちゃうんだよ」


 十数年後。私は自分のお店でお客さんの前で包丁をふるっていた。


 ちなみに得意料理は豆腐料理である。

 ちょっと複雑だけど、メニューに困った時は助けられてる。

 相性が良かったのかな。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

豆腐メンタル 仲仁へび(旧:離久) @howaito3032

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ