藤帯

藤泉都理

日常




 ああ、また始まった。

 もはや日常になってしまった光景を見た民たちは、互いに顔を見合わせて少し悲しそうな表情を浮かべて、各々仕事へと向かった。






「好きだ」

「好きだ」

「好きだ」

「好きだ」


 春夏秋冬すべての季節に浴衣を、しかも上半身の片側だけ(気分によって右側だったり、左側だったりする)を脱ぎ捨てて着る、なかなかに豪胆で若い男が治めるこの地は時々小さないざこざはあれど、殿さまのおかげで平和だと民は口々に言った。

 二週間前に、殿さまが老若男女だれかれ構わず独身者に愛の告白をするまでは。

 何かの祭りか芝居か、と微笑むよりも、天変地異だと民はこぞって占い師の元へと走った。

 占い師は言った。


 殿さまはだれにも言えない恋を暴走させて、老若男女問わず独身の民に赤い糸を結んでしまった。

 真実、好きな者を見つけられれば、この騒ぎは治まるだろう。






 

 民は今日も今日とて愛の告白を叫ぶ殿さまに同情して。祈った。

 殿さま、お可哀そうに。と。 

 早く見つけられますように。と。











(2022.5.18)


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