第51話 混沌を与えし者

 大剣豪ハワード改め、闇将軍ハワード。


 本来であれば主人公の強い味方になるはずだったハワードの闇堕ちという、ゲームでは無かった特殊イベントが発生してしまった。


 おそらく…………俺の取った行動が原因だろう。

 《アルビオン皇国》で《神聖ギレス帝国》の軍勢を撃退した、あの時の行動。


 魔神のチカラを目の当たりにしたハワードは自分の無力さを痛感し、その結果、皇帝ディアギレスの軍門に下ってしまったのだ。


 大いなる闇のチカラと引き換えに──


「オレが修行の旅に出る時に言った言葉、覚えてるか?」


 ハワードが静かに問うてくる。


「…………」


 ぜんぜん覚えてない……。


 だって、あの時の俺は困惑していて、思考停止していたから。


「旅の途中で会うことがあったら、手合わせ宜しくな──ハワード様は、そう仰っていました」


 ルルナは覚えていたようである。


「そうだ! お前たちにとっては、旅の途中ではなく、旅の終わりになっちまってるだろうが、ここで手合わせ願うぜ!」


「いいえ、私たちは戦いません。戦う理由がありません。私たちが戦わなければならない相手は、皇帝ディアギレスただ一人だけです!」


「分かってるのか? その皇帝のもとへ行くには、オレの後ろにある階段を上るしかねぇんだぞ? オレは、お前たちを通すつもりはない! 皇帝と戦いたかったら、オレを倒してから行くんだな!!!!」


 闇将軍ハワードは、両手に持った日本刀を胸の前で交差させた後、くうを裂くように左右2本の刀を前方へと切り出した。


 直後、×マークのような刀の風圧が発生する。


 凄い速さで俺たちのもとへ向かってくる『風』。

 触れただけで、鋭利な刃物でズタズタに切られたようなダメージを負うだろう。


 俺はハワードの攻撃の威力を瞬間的に感じ取った。


混沌のカオティック・──」


 俺が最強スキルでハワードの攻撃を相殺しようとした時。



「《地獄よりの一閃ジ・インフェルノ》ッッッ!!!!」



 チェルシーが最強武器『魔剣ハーティア』を振り下ろした。


 『魔剣ハーティア』から繰り出された漆黒の剣圧は、ハワードの攻撃と真正面から衝突し……かまいたちのような『風』を一瞬にして消滅させた。


 《地獄よりの一閃ジ・インフェルノ》の威力は、それだけに留まらない。


 漆黒の剣圧は相手の攻撃を消滅させた後、その直線上の先にいるハワードに向かって速度を緩めることなく、より勢いを増して向かっていく。


 チェルシーの放った漆黒の衝撃波は、轟轟と燃え盛る黒炎を纏い、攻撃対象のハワードへ直撃した。


「なっ!? ぐっ!!!!! ぐぐぐぅうううううううッッッッッ!!!!!!」


 《地獄よりの一閃ジ・インフェルノ》を2本の日本刀で真正面から受け止めるハワード。


 ハワードの表情には、さきほどまでの威勢の良さが完全に消えていた。

 突然の超強力スキルの発生により、今は必死な形相に一変してしまっている。


「…………っ」


 一方、スキルを放ったチェルシーは固唾を飲んで状況を見つめる。


 《地獄よりの一閃ジ・インフェルノ》は最強スキルの1つだ。

 その攻撃力の高さは、以前の戦いで折り紙付きである。


 これでハワードも倒れる。

 俺は、そう思ったのだが──


「ッッッくうううう!! ハアアアアアッッッ!!!!!」


 なんと、闇将軍ハワードは日本刀で《地獄よりの一閃ジ・インフェルノ》をのだった。


 ……さすがは『闇のリング』のチカラだ。

 以前のハワードだったら、一撃で勝負は決していただろう。


「……はぁ……はぁ……はぁ…………フウゥ」


 呼吸を乱すハワード。

 大きく息を吸って、精神を落ち着かせているようだ。


 ……『炎のリング』と『魔剣ハーティア』の最強コンビネーション。

 闇堕ちハワードといえど、体力は削られたようだ。


 チェルシーは、そんなハワードに複雑な表情を向けていた。


「チェルシー……なぜ、ハワードさんを攻撃したのですか」


 ルルナが困惑した様子で訊ねる。


「…………ハワード様を止められるのはアタシたちだけだと思うから……それに、アタシの力でハワード様の正義の心を取り戻したいと思って……ね。そう考えたら、身体が勝手に動いてた」


「チェルシー……」


 チェルシーの肩に、そっと手を乗せるルルナ。

 これまで一緒に冒険をしてきた少女同士、何か感じるものがあるのだろう。


「……はぁ……はぁ…………まさか、チェルシー皇女殿下が、こんな攻撃をしてくるとはなぁ!! 化け物の仲間は化け物ってわけか!! でもなぁ! オレもお前たちと同じ、化け物になったんだ! こんな攻撃じゃオレは倒せねぇぜ!」


 なぜか、闇堕ちした男に化け物呼ばわりされる俺たち。


「どうやらチェルシーの想いは、あの男に届かなかったらしい」


「そうみたいね……残念ながら」


 力に取りかれた者に、言葉で想いをぶつけても無駄だ。

 チェルシーの咄嗟の行動は間違ってない。


 俺は闇将軍ハワードに向けて右手を掲げる。


「ヴェリオさん!? 何をするおつもりですか!?」


 力を信奉する者には、それ以上の力をって完膚なきまでに叩きのめす。


 何をしても無駄だと……完全に諦めさせる必要がある。


「こうする。《混沌のカオティック・終劇フィナーレ》!!」


 言葉を発した直後、俺の右手から放出される超高出力のエネルギー波。


 もちろん、ハワードをに放ったスキルだが……俺は一つだけ確認させておきたかった。


「ぐううッ!!! こ、これは……あの時、ギレス帝国の軍勢を一撃で壊滅させたチカラ……!!!!! これを抑えることができたらッッ!!!! ぐぐぐぐぐぐぐぐっぐぐぐぐぐぐぐっぐぐうううううううう!!!!!」


 ハワードは《地獄よりの一閃ジ・インフェルノ》を弾いた時と同じように、2本の刀を交差させて俺の《混沌のカオティック・終劇フィナーレ》を抑えようとしている。


 ……果たして、ハワードに対してのだろうか?


「凄い……ヴェリオ様の《混沌のカオティック・終劇フィナーレ》を受けながら立っているなんて……こんなの……初めてよ……」


 驚愕するチェルシー。


 今までは、繰り出せば一撃必殺の最強スキルだった《混沌のカオティック・終劇フィナーレ》だが。


 ……やはり、効かないのか?


 俺がハワードの様子を冷静に確認していると、


「うッッッ!!!! っくううう!!!! ガハアアアアアアアアッッッ!!!!!」


 《混沌のカオティック・終劇フィナーレ》の衝撃を何とかこらえていたハワードだったが、2本の刀が真っ二つに折れ、吹き飛んでしまった。


 ハワードは裏ボスの最強スキルを身体に受け、その場に崩れ落ちた。


 闇堕ちしたハワードの属性は闇だ。その闇属性のハワードに対しても、一撃必殺の威力を発揮した《混沌のカオティック・終劇フィナーレ》。


 これで分かった。


 《混沌のカオティック・終劇フィナーレ》は闇属性ではない。


 無属性だ。


 『混沌』は闇ではなく、無。


 裏ボスは敵を無に帰す存在なんだ。



 ──ルルナは『青の勾玉まがたま』を手に入れた──



 そして、またしても謎のキーアイテムを入手したのだった。







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