第49話 漢気

 突然現れた『ボス・オーガイン』。


 彼の説明によって、聖エリオン教会の人間たちの態度は急変したのだった。


 《荒くれの町ラガール》と《聖都ロア》は、昔から裏の繋がりがあるとされてきた間柄だ。

 《荒くれの町ラガール》のリーダーである『ボス・オーガイン』の話には真実味があり、その発言には重みもあったのだ。


 聖王の正義を疑わず、思考停止する教会の人間もいたが、今回の出来事は「聖王の暴走」ということで結論付けられた。


 俺たちが大聖堂から去る時のこと。


「聖王様の暴走を止めることができず、本当に申し訳なかった」

「我ら教会の神官が不甲斐ないばかりに、そなたらに迷惑を掛けてしまった。心から、お詫び申し上げる」

「さきほどの御無礼、お許しくださいませ」

「此度のこと、誠に感謝いたします。その『光のリング』は運命の導き手様に献上させていただきます。どうか、世界を平和へと導いてください」


 教会の人間たちから、次々と謝罪と感謝の言葉が投げかけられた。


「はいっ! 皇帝ディアギレスを討ち滅ぼし、皆さんが心穏やかに過ごせる世界を取り戻してみせます!」


 ルルナが応えると、その場に歓声が沸き上がった。


 主人公の最後の冒険──最終章クライマックスに向けての決意のシーン。


 『光のリング』を手に入れたことで、残る『フェイタル・リング』は皇帝ディアギレスの持つ『闇のリング』ただ1つ。


 いよいよ最後の戦いである。


 そう思うと、なんだか一抹の寂しさも感じてしまう。


 そんな感情を抱いていると──


「それじゃあオレ様は、あの臭い我が家に帰るとするぜ」


 『ボス・オーガイン』が大聖堂前で別れを告げてきた。


「ボスさん…………本当に、ありがとうございました! ボスさんが来てくれたおかげで、教会の方々への誤解が解けました。こうして皇帝に立ち向かっていけるのはボスさんのおかげですっ」


 ルルナが深く頭を下げた。


「あんた、やっぱりだったのね? 見直したわよ♪ 貸しができちゃったわね」


 チェルシーも微笑みかける。


「フンッ。そんな褒められるようなことはしてねー。オレ様は、ただ《荒くれの町ラガール》の奴らが安心して暮らせる世の中を作りてぇだけだ。要は、お前らのことを上手く利用させてもらったってだけの話だ。だから、貸しとか借りとかは一切ねー」


 ぶっきらぼうに言い放つ『ボス・オーガイン』。


 オーガインの言うことは真実なのだろうが、その裏にある感情も簡単に読み取ることができた。


 俺たちが教会に侵入した後、オーガインは自分の町に引き返すことができたはずだ。それなのに、俺たちが聖王を倒すまでの間、大聖堂近くで待機していたのだ。


 たとえ俺たちが教会の反逆者として捕らえられたとしても、オーガインには関係ない。むしろ、繋がりを清算する意味で、俺たちは処刑されたほうが都合が良い。


 でも、この男は俺たちの汚名を晴らすために、自らの危険を顧みず表に出てきたのだ。

 その漢気に俺は「カッコ良さ」を感じていた。


 『ボス・オーガイン』は俺たちに軽く手をあげて、隠し通路へと消えていった。


「ありがとう、オーガイン」


 俺は彼を見送りながら、感謝の言葉を漏らす。


 《荒くれの町ラガール》──この戦いが終わったら、きっと経済的にも政治的にも発展していくだろう。

 

 主人公が……ルルナが力になってくれるはずだから。


 でも、俺はその光景を観ることができない。


 エンディング後のハッピーエンドを想像したら、俺の胸に何やら熱いモノが込み上げてきた。



 ──感傷に浸るのは、まだ早い。



 最初は俺自身のために始めた主人公ルルナとの冒険。


 それが今では、様々な感情や人々の想いが胸の中で広がっている。


 チェルシーの母国である《アルビオン皇国》に攻め込んできた皇帝軍。

 《アルビオン皇国》だけじゃない。

 《エルフの里》や《ゆうとうフィーリヤ》への侵攻と大虐殺。


 出会った人たち全ての想いを胸に乗せてラスボスに挑むんだ。


 気持ちを引き締め直し、俺たちは空間転移テレポートした。


 ラストダンジョンである《ギレス城》に向かって──







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