第39話 風の妖精シルフ
「なんじゃ? お主ら、『風のリング』を持っておるのか」
巨大ワームの体内から外へ脱出しようとした時、精霊ノームが訊ねてきた。
「ん? 持ってるけどー?」
チェルシーが、ぶっきらぼうに答える。
「ふーむ。それなら、ワシも主らに力を貸してやるとするかのぉ。あやつが認めた者なら大丈夫じゃろう」
「あやつ……とは、どなたのことでしょうか?」
「何を言っておる。その『風のリング』に宿ってる、風の精霊シルフのことじゃ。そこにおるのじゃろ? シルフよ?」
「────」
ノームの質問に答える者は誰も居ない。
「そういえば私たち、風の精霊さんとお会いしたことありませんでしたね。どこにいらっしゃるのでしょうか?」
精霊は『フェイタル・リング』に宿っている。
水の精霊アクアリスは『水のリング』に。
火の精霊ニフレイムは『火のリング』に。
土の精霊ノームは『土のリング』に。
そして、主人公がリングを装備した瞬間、主人公に精霊の力が宿るのだ。
これが《運
この世界では、俺のチート能力により運命の導き手ではないチェルシーも装備できてしまっているが。
今、『風のリング』はルルナが装備している。
風の精霊シルフも、当然『風のリング』に宿っているのだが……。
「…………すぅ……すぅ……」
ルルナが嵌めている『風のリング』から、小さな寝息が聴こえてくる。
「シルフのやつ、寝ておるのか! まったく! 相変わらず、マイペースなやつじゃのう!」
空を漂い続けていた『風のリング』。
風の精霊シルフは、その間ずっと寝ていたのである。
「風の精霊さん、寝ていたのですか……。大きな声をだして起こしてしまうのは可哀想ですね」
「いや。シルフには、ここで起きてもらう。土の精霊ノームよ、『風のリング』の近くに寄ってくれないか?」
「ん? なんじゃ、この邪悪な目つきをした男は……。なんでワシが、こんな禍々しいオーラを放つ男の言うことを聞かなきゃならんのじゃ。ワシ、この男の言うこと、ぜ~ったいに聞かないっ! なんか魔の臭いがプンプンするぞい!」
このジジィ……。
くそ……このままだと俺の描いた攻略チャートが崩れてしまう。
「ダメですよ、お爺さん? こちらは私たちの頼れる仲間のヴェリオさんですからね? ちゃんと言うことを聞いてください?」
ルルナが子供に言い聞かせるように語りかける。
「ぬぅ……お主がそう言うなら……分かったのじゃ!」
ノームは二つ返事で了承した。
このエロジジイめ……。
美少女の言うことは素直に聞く──ゲームと全く同じである。
そうして、ノームジジイはルルナの持つ『風のリング』に近寄る。
すると──
「…………すぅ……ぅううう? ううぇえええ!? くっさぁあああ!!!!」
『風のリング』から妖精シルフが飛び出してきた。
……激臭に身を悶えさせながら。
「お? シルフのやつ、起きたみたいだぞい!」
臭いの発生源であるノームが平然と言う。
「なるほど、こうやって起こすのね! さすがはヴェリオ様!」
「いや! なんかよく分かんないんだけど、私、ものすごい理不尽な方法で起こされなかった!? あああぁぁぁ~~~気分よく寝てたのにぃ~~~~」
不満そうに、頬をぷくぅっと膨らませるシルフ。
こうして、風の妖精シルフが長い眠りから覚めたのだった。
ノームの放つ激臭によって。
シルフは見た目的には、愛らしい少女である。
背中に生えた綺麗な緑色の羽が特徴的だ。
緑の薄い布を身体に巻きつけており、傍目には寒々しい印象を受ける。
「貴女が風の妖精シルフさんですね。はじめまして、私はルルナですっ。よろしくお願いします!」
ルルナが行儀よく挨拶した。
「わぁ♪ あなたが運命の導き手ね! よろー!」
シルフは右手をあげ、軽い口調で答えた。
「……ねぇ、ヴェリオ様。この精霊、ほんとに大丈夫なの? なんか、色々と軽そうだけど……」
身体は軽いが、頭も軽い。
俺もゲーム初見時はチェルシーと同じことを思った。
そして──
「あぁ! 金髪娘! 今、私の悪口言った!!!! いいもーん! そんなこと言ってると、また寝ちゃうもんねー、っだ!」
今もゲーム初見時と全く同じことを思っている。
風の精霊シルフはリングの中に戻り、再び居眠りを始めようとしていた。
「いいや、ダメだ。このあとシルフには働いてもらう。今まで眠っていた分の働きをな」
「えええ!!!! やだやだやだー! 私、働きたくなーい! ずっと寝てたーい!」
「まったく……昔から変わっとらんのう、この
ゲームの設定上の話だが──
この風の妖精シルフは、妖精の中でも屈指の実力者であり、皆から一目置かれる存在だ。
この、ぐうたら娘が、である。
ゲーム開発者が設定をミスってるとしか思えない。
「ってことで、そろそろ巨大ワームの体内から脱出するぞ」
「その……ここからの脱出なんですけど、いったいどうやって?」
「この中、ずっとウニョウニョ動いてるし、出口の『口』を目指すのも苦労しそうよね……」
「大丈夫、簡単に出られる方法がある。2人は俺に掴まっていてくれ」
「「?」」
ルルナとチェルシーは揃って首を傾げた後、俺の身体に掴まる。
「よし。それじゃあ、シルフ。風魔法を使って、ワームの口まで俺たちを運んでくれ!」
「あぁ~もうっ! どーせ、そんなことだろーと思った! まっ、久しぶりの目覚めだし、ひと眠りする前に、ちょっとだけ働いてやるかー」
シルフが面倒くさそうに風魔法を唱える。
その直後、俺たちの身体がワームの体内で浮き上がり、『口』めがけて飛んで行った。
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