第33話 続・ヴェリオの正体
《エルフの里》で入手した『緑の
同じ種類に分類されるアイテムだと思うのだが、ゲーム上では一度も見たことがないモノだ。
しかし今は、この未知のキーアイテムよりも、場に漂う不穏な空気が気になる。
戦闘に勝利したことを喜ぶチェルシーに対し、ルルナの表情は曇っていた。
『ルキファス』との戦闘前までは俺に対し、信頼、安心、希望といった表情を向けていたルルナだったが……今は、不信、不安、絶望といった感情が浮かんでいる。
そんなルルナの様子が気になったのだろうか。
「どうしたのよ? ルルナ」
チェルシーが訊ねた。
「……やはりヴェリオさんは」
ポツリと独り言のように呟くルルナ。
「ヴェリオ様が? どうしたの?」
「あっ……い、いえ! なんでもありません! き、気にしないでくださいっ」
ルルナは両手をブンブン振って、顔を背けた。
「ルルナ、気になることがあったら言ってほしい。俺のことで何か気になったことがあるんだろう?」
皇帝軍幹部『ルキファス』の最期の言葉。
俺に向かって『魔神』と叫びながら消えていった。
ご丁寧に、余計な言葉を並び立てながら。
『風魔獣マ・ヴァールナ』に続いての魔神発言だ。
チェルシーはともかく、ルルナは俺の正体を
当然の感情だ。
「…………はい。ごめんなさい……これまで私たちのために色々と尽力していただいたヴェリオさんを疑ってしまって……」
「ちょっと、ルルナ!? ヴェリオ様を疑うって、どういうことよ!?」
「さきほどの皇帝軍幹部の言葉…………ヴェリオさんのことを魔神だと、そう言っていました。チェルシーにも聞こえたはずです」
「そ、それは……な、何かの間違いでしょ!! また聞き間違えたのよ! きっと!」
「そうでしょうか…………私には、あの皇帝軍幹部がヴェリオさんに
ルルナは、的確に、冷静に相手のことを観察し、判断している。
下手な誤魔化しは通用しないだろう。
俺も、ルルナたちと向き合わなければならない。
「さっきの敵が言っていたことを、どう捉えるかはルルナとチェルシーに任せる。俺のことを信じられないというのであれば、パーティーから追い出してもらっても構わない。だけど──」
「…………」
ルルナは無言のまま、俺の感情を推し量るように見つめてくる。
「俺はルルナとチェルシーのことを信じてる。仲間だと思ってる。それだけは分かってほしい」
嘘偽りのない俺の本心だ。
たとえ裏ボスと主人公という関係性だったとしても──
俺はルルナとチェルシーのことが大好きだし、大切な仲間だと強く思ってる。
パーティーから追放されたら、
でも、ルルナたちが決めた
この世界の主人公はルルナなのだから。
大丈夫。
俺が居なくてもルルナたちなら、きっと……。
「アタシは……アタシたちはヴェリオ様に何回も救われたのよ!? ルルナだって、そんなことは分かってるはず!」
チェルシーがルルナに向けて言った。
「分かってます……私だってヴェリオさんのことを疑いたくはありません……とても……とても大切な方なのですから……。でも、ヴェリオさんには、掴みどころのない、計り知れない
「その計り知れないところがヴェリオ様の魅力でしょ! どっちにしても、ヴェリオ様がアタシたちのパーティーを抜けるのは絶対にダメ! 分かった!?」
ルルナに詰め寄るチェルシー。
「…………はい」
ルルナは小さく頷いた。
ルルナの表情は、まだどこか納得していないように見えた。
その後──
俺たちは《海港都市ジェルバ》の港で積み荷作業をしている男たち(モンスター)をやっつけ、『風のリング』を取り戻すことに成功。
本来の攻略チャートとは変わってしまったが、無事にメインクエストを終えることができた。
◆
パーティー内に重苦しい空気が漂う中──
俺たちは《聖都ロア》に戻っていた。
《海港都市ジェルバ》での一件を聖王エリオン17世に報告するために。
そして、この後の流れだが。
『風のリング』を取り返し、ここ《聖都ロア》に戻った主人公を待ち構えるのは……。
『仲間連れ去り事件』だ。
ある組織の連中に主人公パーティーが狙われ、仲間が連れ去られてしまうのである。
このクエストで問題になるのが……連れ去られる仲間が誰になるか、だ。
連れ去られる仲間は完全にランダムであり、主人公以外から選ばれる。
今のパーティー編成だと、俺かチェルシーだ。
連れ去られた仲間はパーティーから離脱してしまい、クエスト中、一切戦闘に参加できなくなる。
つまり──
誰が連れ去られるかで、クエストの難易度が大幅に変化するのだ。
俺がクエスト対策を練っていると、突如、街中に少女の悲鳴が響いた。
「キャアアアアアアッッ!!!!」
悲鳴の主はチェルシー。
チェルシーは黒いローブを身に
こいつらが《仲間連れ去り事件》の実行犯たちである。
「誰ですか! あなたたちは! チェルシーから離れてください!」
ルルナが叫ぶ。
「…………」
「…………」
「…………」
チェルシーを囲んだ連中は互いに顔を見合わせる。
黒ローブの集団は全員が仮面を着けており、彼らが何を推し量っているのかは感じ取ることができない。
一拍置いて。
「……ッ!!!!」
「……ッスゥ!!!」
「ッフ!!!!」
黒ローブの集団はチェルシーから離れ──
直後、素早い動きで俺を抱え上げた。
……って!
連れ去られるの、俺かよ!!!!!
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