第30話 聖王と聖女
「ここが……世界の中心《聖都ロア》……」
チェルシーが呟く。
俺たち一行は聖王エリオン17世の特使から話を聞いた後、次の目的地《聖都ロア》に
白を基調にした街並みや厳かな印象を与える建築様式など、ここ《聖都ロア》は世界でも特殊な場所である。
《聖都ロア》。
聖エリオン教会の総本山であり、教会を束ねる聖王エリオン17世が統治する地である。
この世界の人間の多くが聖エリオン教を信仰しており、チェルシーの言うとおり、ここはまさしく世界の中心……世界最高の権威と権力が集う場所だ。
「チェルシーは《聖都ロア》に来るのは初めてなのですか?」
「うん。アタシ、お父様に付き添って色々な国へ外遊したことがあるんだけど、ここへは一度も来たことないわ」
外遊とか、さすが本物の皇女様だ。
「《聖都ロア》は他国と政治的に関わらない、独立した宗教国家という扱いだからな。一国の皇女であるチェルシーが足を踏み入れたことがないというのは当然だ」
「詳しいですね、ヴェリオさん。ヴェリオさんは初めてではなさそうですね」
「え? あ……うん、前に何回か来たことがある」
何回どころか、何百回と来ている。
……ゲーム上で。
「ふーん? なんか、この街とヴェリオ様、雰囲気的に全然合わない感じするけど」
「ダ、ダメですよ、チェルシーっ、そんなことを言っては! 巡礼は、みなに等しく与えられた崇高な行為なのですっ」
巡礼って……。
「ああ……そういえば、ルルナは聖エリオン教会の聖女様だったわね。どうりで、この街とルルナは雰囲気が合致してるわけだわ」
街を歩く人間は、全員が修道士服や聖職者のローブなどを着用している。
この国の人間は、みなが聖エリオン教会に属する者だ。
つまり、国民全員がルルナの同僚なのである。
「ふふっ♪ 私は一年に一回、必ず聖都への巡礼をおこなっていますからねっ。それにしても……まさか聖王様から直々にお呼び出しがかかるなんて……緊張して足が震えてしまいます……」
聖女のルルナにとって、聖王エリオン17世は神の代行者とも呼ぶべき崇拝の対象になっている相手だ。
……。
…………って!
それ大丈夫か!?
本来の主人公ルークは無宗教家で、この後のクエストも問題なくクリアしていったが…………聖女のルルナにとっては、耐え難い話になるぞ!?
俺は不安を募らせながら、聖王エリオン17世が鎮座する大聖堂へと向かった。
◆
大聖堂に入り、聖王エリオン17世との謁見イベントを開始させる。
「よくぞ来た! 運命の導き手ルルナと、その仲間たちよ!」
荘厳な雰囲気が漂う大聖堂内部。
細かな意匠が施されたローブに身を包んだ聖王エリオン17世。
聖王は銀色の髭を揺らし、ルルナを歓迎した。
「聖女見習いルルナ、聖王様からの召喚に応じ、参りました」
ルルナは聖エリオン教の儀礼的な仕草をして、聖王の言葉に応える。
「うむ。さっそくだが、用件を伝える。《
文脈を無視し、一方的に自分の用件だけを伝えてくる聖王。
ゲーム上でも、この聖王イベントは唐突すぎて、内容を理解するのに時間を要した。
聖王エリオン17世と皇帝ディアギレスが敵対していることは、世界観の説明やクエストによってプレイヤーに明かされている。
しかし、なぜ『風のリング』を皇帝ディアギレスに奪われたことを聖王は知っているのだろうか……と、プレイ時は思ったものだ。
主人公たちしか知らないはずの情報を住民たちや他のNPCが知っているというのは「RPGあるある」だが…………まぁ、この辺の事情は後々明らかになっていく。
「皇帝領ジェルバ? そこに『風のリング』が運ばれたのですか?」
ルルナが聖王に問う。
「そうだ。『フェイタル・リング』を皇帝ディアギレスの手に渡してはならん! ヤツのもとに全ての
『光のリング』を指に嵌めている聖王エリオン17世。
そのリングが大聖堂の光に反射して、キラリと光った。
「わかりました! 必ずやリングを取り戻してみせます!」
威勢よく応えるルルナ。
「うむ! 皇帝領ジェルバは暗黒の地。狂気に支配された恐ろしい街であると聞き及んでおる。心して向かうが良い」
強敵戦が控えているから、ちゃんと準備していけよ、と。
これも「RPGあるある」のセリフだ。
聖王からの勅命を受け、大聖堂を後にしようとした時。
「あれ? なんか、この壁画に描かれてる人物、ヴェリオ様に似てない?」
大聖堂内部の壁画を見て、チェルシーが言った。
「おぉ、たしかに似てますねっ」
ルルナも同意する。
ゲーム上では気にすることのなかった美術作品。
世界観を表現するためのモノだと思っていたが……。
気になったので、俺も壁画を確認してみることに。
──描かれていたのは、いわゆる宗教画。
天から降臨した神様やら天使と思しき存在と、地の底から這い出るように手を伸ばす存在が対照的に描かれている。
光と闇。
神と悪魔。
といった対比を表現している壁画のようだ。
そして、その闇と悪魔に当たる存在が、どうも俺の見た目そっくりというか……俺そのものだった。
……って!
これ、完全に
こんなところに裏ボスの伏線張ってあったのかよ!!
ゲームプレイ中、全然気づかなかったわ……不覚。
「……ま、まぁ、似てると言えば似てる、かな。ま、まぁ、よくある顔だしな……俺もよく色々な人に間違えられるからなぁ~~~」
「う~ん? これ、似てるってレベルじゃないと思うんだけど……」
「おい、チェルシー。そんな壁画いつまでも見てないで、さっさと皇帝領ジェルバに行くぞ!」
「う、うん……」
俺は無理矢理に話を終わらせて、皇帝領ジェルバへ飛んだ。
今はまだ俺の正体を明かすわけにはいかない。
その時が来るまでは──
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