第29話 仲間とは

 ハーピーたちを生き返らせた後。


「ルルナ、チェルシー……2人は少しの間ここで待っていてくれ」


「ヴェリオさん、どこかへ行くのですか?」


「まだ生き返っていないハーピーを探しに行くのかしら? それだったら、アタシたちも一緒に行くわ!」


「ハーピーたちは全員生き返ってるから大丈夫、安心してくれ」


 《ゆうとうフィーリヤ》のハーピーたちは、全員が元に戻っている。

 ステータス表示画面で状態を確認したから間違いない。


「っほ、それなら良かったわ。……って、それならヴェリオ様はどこへ行くのよ?」


「…………」


「ん? ヴェリオ様が答えないなんて……アタシたちにも秘密ってことかしら?」


「チェルシー? ヴェリオさんには他にやるべきことがあるのだと思います。私たちはヴェリオさんの言うとおり、この場で待っていましょう」


「…………うん……分かったわ」


 ルルナとチェルシーは仲良く並んで、へ向かう俺を見送ってくれた。


 その時。

 ルルナがポツリと声を漏らした。


「……それにしても、あの人たち……いったい、どこから来たのでしょうか……」



 ◆



 ルルナたちのもとを離れて、俺がやってきた場所。


 そこは《エルフの里》だった。


 さっき、別れ際にルルナが呟いた言葉──


 皇帝軍が《ゆうとうフィーリヤ》に侵攻してきた

 そのルートは1つしかないのだ。


 俺の目の前に広がるのは《エルフの里》の綺麗な自然……。


 ……ではなく。



 惨殺されたエルフたちの死体が横たわる、凄惨な光景だった。



 ゲーム上でも、このシーンは目を背けたくなるほど酷い状態だった。


 それが今、圧倒的な現実リアル感を伴って、俺の目の前に存在している。


 このイベントの狙い。

 それは、皇帝ディアギレスに対する敵愾てきがい心の増長だろう。


 しかし──


「こんなクソイベント作りやがって!! ぜってぇ許さねぇからな! 開発!」


 俺はゲーム会社への敵愾てきがい心を増幅させていた。


 ゲームをプレイしている時もプレイし終わった時も、俺は常にゲーム会社や開発者をリスペクトし続けていた。


 でも、こんな悲惨な惨状を目の当たりにしてしまうと、そんな尊敬の感情は消え失せてしまう。


 だが、裏ボスにチート能力が付与されているのは不幸中の幸いだ。


 ハーピーと同じく、ここのエルフたちも俺が全員生き返らせてやる!!!!


闇の幕開ヴェ・リオー──」


 俺が再び禁断の蘇生スキルを使用しようとした時。



「な、なんですか……っ!! この状況は……ッ!!??」



 生存者の居ない里に、絶叫が響き渡った。


「ルルナ……!? なんで、ここに……!?」


ゆうとうフィーリヤ》で待機しているはずのルルナの声だった。


「まさか!? ここにも、さっきの人間たちが!!?」


 ルルナだけじゃない、チェルシーも里に来ている。


「あ、あ、あ…………あれは、ユーノ……さん!? ……ユーノさん!!!!」


 ルルナは、地面に倒れ伏す次期族長……いや、新族長になったばかりのユーノのもとに駆け寄り、身体を抱き上げる。


 しかし、ユーノの身体が動くことはなかった。



 ……なんで。


「なんで来たんだ!!!!! フィーリヤで待っていろと言ったはずだ!!!」


 俺はルルナとチェルシーに、この惨状を見せたくなかったんだ!


 だからフィーリヤで待機してるように言っておいたのに……ッ!!


「ごめん……なさいっ…………ハーピーさんたちを襲った人たちが、どこから来たのか考えていたら……この里のことが心配になってしまって……でも、こんな……」


 ルルナは冷たくなったユーノを抱きしめて、押し黙ってしまった。


 すすり泣くルルナの声だけが周囲に響く。


「なんで、こんなことを…………なんなのよ!! あの人間たち!!!」


 やり切れないといった様子で、既に居ない敵に対し、怒りをぶつけるチェルシー。


 ルルナとチェルシーの悲しむ顔を見て、俺は自分の考えを改める。


「あいつらは……皇帝ディアギレスが放ったモンスターの軍団だ」


 俺は、事の真相をルルナとチェルシーに話すことにした。



 ──2人は俺の仲間なんだ。



 見た目は幼いかもしれないが、この世界では、れっきとした冒険者。


 主人公パーティーなんだ。


 事の顛末を告げず、裏で俺一人で片をつけるなんてこと、しちゃいけなかった。


 そんなこと、できるはずがなかった。


 戦闘能力だけじゃない。

 ルルナたちは、精神的にも成長していかなければならないんだ。




「皇帝ディアギレス…………絶対に許しません。私、必ず皇帝を倒します」


 ルルナが覚悟を決めたように言い放つ。


「アタシの国に侵攻したばかりでなく、何の罪もないエルフやハーピーを殺して…………この報いは絶対に受けさせるわよッ!!」


 チェルシーも、自分の気持ちを吐き出すように言った。


 期せずして、開発の狙い通りに、主人公たちはラスボス討伐への闘志に火が点いたのだった。



 ◆



 エルフ族を全員蘇らせ、俺たちは彼らに事情を説明した。


 そうして、しばらく経った後──


「運命の導き手ルルナは居るか!?」


 《エルフの里》に来訪者が現れた。


 里にやってきたのは、銀色の甲冑を着た男性。

 男性はマントを着用しており、どことなく騎士のような出で立ちである。


「私がルルナですが」

 

 ルルナが答えると、


「私は聖王庁の特使である。聖王エリオン17世からの伝令を授かって、こちらに参った次第である」


 来訪者はハキハキとした口調で話を始めた。


「聖王様からの伝令?」


 一方のルルナは首を傾げている。


「『フェイタル・リング』に関して、運命の導き手ルルナに重要な話があるとのこと。運命の導き手ルルナ一行は、一刻も早く聖王の居る《聖都ロア》へ向かうように」


 そう言って、聖王の特使を名乗る男性は、一方的に用件だけを告げて去っていった。






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