第27話 裏ボスの立場と役割
「グオオオオオオオオオオォォォッッッッ!!!!」
『風魔獣マ・ヴァールナ』が大きな羽を広げ、俺たちを威嚇するかのように叫び声をあげる。
魔獣という名称が与えられているが、見た目的にはドラゴンに近い。
鋼鉄のような鱗に、頭頂部から飛び出た大きな2本の角。
極太の尻尾に鋭い牙。
俺は初見プレイでコイツを見た時、瞬間的に強敵だと察知した。
──開発陣が力を入れて作ったデザインやモデリングだったから。
そんな俺のメタな推察は正しく、実際に『風魔獣マ・ヴァールナ』は非常に強かった。
俺は何回もゲームオーバーしてしまった。
「ヴェリオさん! あの魔獣さんから、とても強い波動を感じます! これまでの敵とは何かが違うようです!」
聖女であり主人公でもあるルルナは、何かを感じ取ったのだろうか。
敵を見て、鬼気迫る表情になっていた。
「ああ。間違いなく普通のモンスターじゃない」
開発陣肝入りのモンスターだ。
「ご、ごめん! アタシのせいで、こんな怪物と戦闘することになっちゃって!」
チェルシーは、自身の発言が原因で敵とのバトルに突入してしまったと思っているようで、半泣き状態になっている。
「気にするな、運が悪かっただけだ。チェルシーのせいじゃない」
遭遇率1%だもん。
しかし、そんな確率のことなど知る由もないチェルシー。
チェルシーは罪悪感と恐怖の板挟み状態になっているのだろう。
『風魔獣マ・ヴァールナ』はパーティー戦だ。
ここは、チェルシーのためにも、俺のスキルで──
……いいや!?
待て!
冷静に考えろ!
今までの戦闘で、俺が攻撃スキルを使用した後、どうなった!?
裏ダンジョンの中ボスを倒してしまった……のは良いとして……。
まず、ルルナを初期村の湖で助けたことで、主人公が変わってしまった。
次に、《アルビオン皇国》に侵攻してきた敵軍を倒したことで、本来仲間になるはずだったキャラクターが仲間にならず、代わりにチェルシーが仲間に加わった。
そして、《洗礼の儀》における悲劇的な終幕……。
あろうことか、ルルナを俺のスキル攻撃に巻き込んでしまい、ゲームオーバーになってしまった。
炎の精霊ニフレイム戦以外は、ことごとく俺の予想を裏切る結果になっている。
「グワアアアアアアアアアアッッ!!!!」
俺の悩みなど
「ひ、ひゃっ……ヴェ、ヴェリオ様ぁ……」
チェルシーの怖がる声。
──迷ってる時間はない!
目の前に倒すべき敵がいて、後ろに守りたい仲間がいるなら……、
俺がやるしかねぇだろ!!!!!
「食らえッ!! 《
俺は眼前の魔獣に向けて攻撃スキルを放った。
同時に、頭の中にあった自分の小さな悩みも吹き飛ばす。
「ウガガガガガガガッッ──」
一撃必殺の裏ボスの最強スキル。
難敵『風魔獣マ・ヴァールナ』相手でも、その威力は健在だった。
空を舞う巨大魔獣は極大エネルギー波の直撃を受け、見る見るうちに身体の破片が周囲に霧散していく。
たしかに、俺が戦闘に介入したことでゲームの流れとは変わってしまった。
俺の予想に反する結果になっているのは間違いない。
でも、それは悪い結果ばかりになっているというわけじゃない。
──俺が行動したことで、ルルナやチェルシーと仲間になることができたんだ!
「す、凄いです……あの不思議な波動を発していた強敵も一撃で……」
そう言って、ルルナは生唾を飲み込んだ。
「えっ? も、もう倒しちゃったの!?」
チェルシーは目を丸くして、呆然と今の状況を確認する。
直後──
「オオオォォォ……魔、神……ヴェリ……オー……──様、ァァアアアア──」
『風魔獣マ・ヴァールナ』は断末魔を上げて、空と同化するように
…………ん?
なんか…………今、俺の名前、呼んでた?
気になった俺は、視界に表示された討伐アイコンをタップしてみた。
×撃破モンスター×
【 名前 】風魔獣マ・ヴァールナ
【 種族 】魔神獣
【 Lv 】10
【 職業 】魔神のペット
・
・
・
【 特記 】
・魔神ヴェリオーグの眷属であり、ペット。
・人間への総攻撃に備え、空を漂っている。
ああああぁぁぁ!!!!
また、やっちまったあああああぁぁぁ!!!!
あいつ、
ルルナの感じていた不思議な波動って……もしかして、魔神のチカラのことなんじゃ……?
「……さ、さーて、気を取り直して、今度こそ3時間大人しく待機な!」
何事も無かったかのように、俺がルルナとチェルシーに声を掛けるが……。
「あの……さっきの魔獣さん、ヴェリオさんの名前を呼んでいたような? しかも、なにやら……魔神? というような言葉も発していたような……」
「うん……アタシも聞こえたわ。魔神ヴェリオー……様? って叫んでた」
2人は、俺に対して真顔を向けてきていた。
「ち、ちがうチガウ違うッ! さっきのは、『マジで許さんぞ、ヴェリオ……貴様ァァア!!』って叫んでたんだよ! まったく、捨て台詞を吐かれるのも困ったもんだぜ……ははははは」
く、くるしい……これは苦しい言い訳……!
「あぁ、なるほど! そうだったのですねっ」
「まったく! ヴェリオ様に捨て台詞を残すなんて! まるで負け犬の遠吠えじゃない! ヴェリオ様は気にしなくても大丈夫よっ。ヴェリオ様は誰が相手だろうと負けないんだから!」
ルルナとチェルシーは、俺の苦しい言い訳を簡単に信じてくれた。
チェルシーとルルナは俺のことを信じてくれている。
俺のチカラを信じてくれている。
でも。
俺が負ける相手。
それは──
俺の隣で安心したように笑い合っている、この2人なのだ。
強敵戦を終えた後の3時間。
俺は複雑な心境を宿したまま過ごしたのだった。
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