第22話 ルルナ、男になる

 ルルナ男性化作戦を成功させるため、俺たち一行は《アルビオン皇国》へと来ていた。



 《アルビオン皇国》。

 チェルシーの母国であり、彼女と出会い、仲間になった国である。


 なぜ、俺たちがここへ来たのかと言うと……。


「見て見てっ、ルルナ! この服、すっごくカッコイイわよ!」


「それ、私に似合いますかね……?」


 タキシード風の男性服をルルナに見せて、はしゃぐチェルシー。


 そして、そんなチェルシーの勢いに戸惑うルルナ。


 俺たちは《アルビオン皇国》の街中にある服屋に来ていた。


 ルルナを、男にするために。


 クエスト進行のためにルルナを男にする必要があるのだが。


 要は、ルルナのことを男だと思わせればいいってことだ。


 幸い(?)にもルルナは中学生くらいの年齢であり、まだ身体も成長していない。

 大人の男性に扮するのは無理だが、少年にはなれる。


「ん~、やっぱり、こっちのほうがいいかなぁ~」


 チェルシーが男物の服を手に取って悩んでいる。


 今は、ルルナの服選びをしている最中である。


「私、教会から支給された聖女服しか着たことがないので、こういう服は……なんだかドキドキしてしまいます。男性用ですし……」


 ルルナは落ち着かない様子で、店内を見渡していた。


 ルルナが着ている『聖女の服』は白を基調にしたローブである。ところどころに金色の刺繍が施されており、見た目から厳かな雰囲気が漂っている。


 教会内で見ると自然だが、こうして改めてルルナの服を確認すると、冒険には似つかわしくないデザインだ。

 

 まぁ、当然だけど……。

 実際、ゲーム上では初期村のセーブ係だったわけだし。

 

 モンスターと戦ったり、鉱山に入ったり……ましてや男装する羽目になるとは思うまい。


「あっ、この服とか、どう? 良さげじゃない?」


「ちょっと派手すぎませんかね……」


「ルルナには、このくらい攻めた服が似合うんだって!」


 チェルシーが選び取ったのは、トゲが付いたり肩パッドが付いたりと、どこか世紀末感漂うクレイジーな服だった。


 服というか戦士が着る『装備品』っぽい……。


「う~ん……もう少し普通の服のほうがいいような…………あ、あのっ、ヴェリオさんは、どういうのが良いと思いますか!?」


「へ!? お、俺!?」


 急に話を振られてしまい、思わず素っ頓狂な声をあげてしまった。


「ヴェリオさんにも、私に似合う服……選んでほしい……です」


 ルルナが頬を染めながら言ってきた。


 ……困ったな。


 俺はファッションに興味のない、地味~な男子大学生だからな……。

 ゲームの装備品だって、見た目ではなくスペックで選んできたし。


 でも、この作戦の発案者である俺には責任がある。


 ルルナが選んでほしいと言ってきた以上、俺には応える義務がある。


「……わかった」


「ありがとうございますっ!」


 そう言って、ルルナは嬉しそうに微笑んだ。




 その後──


「なんか……地味じゃない?」


 ジト目でルルナを見るチェルシー。


「そうでもないですよ? 私、この服、気に入りましたっ♪ ふふふっ~」


 ルルナは鼻歌混じりに機嫌よく答える。


 ルルナが着替えた服。


 それは俺が選んだ服だった。


 上は白のシャツに黒のテーラードベスト。

 下は黒のパンツスタイル。


 皇女のチェルシーからしたら地味なファッションだろうけど、この世界の一般市民からしたら普通のデザインだろう。


 なぜなら、この服屋に来ている男性客のファッションを、そのまま参考にさせてもらったのだから。


「まぁ、でもルルナが喜んでいるなら、それが一番ね!」


 ルルナは俺の選んだ服を気に入ってくれたようである。

 とても嬉しそうに笑っているのが何よりの証拠だ。


「チェルシーも色々と選んでくれて、ありがとうございましたっ。これで、《洗礼の儀》に臨めそうですっ」


 いざ『メインクエスト』に向かおうとするルルナとチェルシーだったが──


「まだ服を男性物にしたってだけだ。それじゃあ、100%バレる」


 いくら種族が違うとはいえ、服を替えただけで騙せるような相手ではない。


「他に何かすることがあるのでしょうか?」




「その言葉遣いを直す。あと、声も」




「うわぁ…………大変そうね……」


「まず、一人称を『オレ』にして、敬語口調をやめる。声質も低音を意識する。そして、仕草も男っぽくするんだ。これから練習するぞ!」


「は、はいっ、が、頑張ります……っ!!」


「違う。そこは『おう! やってやるぜ!』だ」


「お、おう……や、やってやる……ぜ……?」


「なんで疑問系なんだよ!?」


「む、難しいです…………ぜ」


「そうだな……ルルナが思う『憧れの男』を意識して、その男になりきってみるといい」


「憧れの男性、ですか………………はい! わかりました!」


「違う。そこは『ああ! わかった!』だ」


「ヴェリオ様……厳しいわね……」


 チェルシーは、俺とルルナの『特訓』を見ながら苦笑いしていた。



 ◆



 特訓を終えた俺たち一行は《エルフの里》に戻ってきた。


 族長の家に行き、クエストフラグを立てるためユーノに会う。


「おぉ、皆さん、ちょうどよいところへ来てくださいました。今夜、運命の導き手様を歓迎する宴会を催そうと、里の者たちと話し合っていたところでした。是非、宴会に参加していただけないでしょうか? 里の者総出で歓迎いたしますよ!」


 ユーノを始め、エルフ族が俺たちを歓迎してくれているのが伝わってくる。


 しかし──


「いや、宴会よりも《洗礼の儀》に参加させてもらいたいと思っております」


 俺は淡々と告げた。


「《洗礼の儀》ですか……その件は、さきほども申し上げたとおり──」




「女人禁制だったか? それなら、このオレが参加させてもらうぜ!」




 ユーノの言葉遮ったのは、俺の厳しい特訓を完了させたルルナだった。


 ……ああ……よくぞ、ここまで成長してくれた。


 もう、お前に教えることは何もない……。


 ルルナの見事な男っぷりを見て、俺は心の中で謎の達成感に浸っていた。


「……お、おや? あ、あれ? ボクの見間違いでしょうか……運命の導き手様、たしか女性の方だったはずですが……」


「おいおいおい! ふざけんなよっ! オレのどこが女だってんだよ! お前の目は節穴かよ!」


 腕組をして堂々と構えるルルナ。


 なんか……イキッた男子高校生のようにも見えるが……。

 それに、目つきが凄く鋭い。


 いったい、ルルナは誰をモデルにしてるんだ!?


「す、すみません! まさか、男性の方だったなんて…………そ、それなら! 是非、ボクのほうからお願いしたいことがございます! 運命の導き手様に、《洗礼の儀》の護衛役を務めて頂きたいのです!」


 ユーノの言葉を聞き、俺とルルナとチェルシーは3人で顔を見合わせ、同時に微笑んだ。


 こうして、ルルナの頑張りによって、無事に『メインクエスト』が進行したのである。




「ルルナ、本当に男っぽかったわよ!」


 興奮気味に言うチェルシー。


「ほんと、ルルナのおかげで助かったよ。ありがとう!」


「いえいえっ。私は自分にできることをしただけですから。それに……服まで買って頂いて…………この服、大事にしますっ」


「でもさー、よく男になりきれたわよね? ルルナが思い浮かべていた男性像が良かったのかしら? ルルナ、いったい誰をイメージしてたの?」


 チェルシーが不思議そうに訊ねると──


「それは…………秘密です♪」


 ルルナは可愛らしく答えたのだった。






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