第122話 藤咲さんはカッコ良いお姉さん

 

「…………」

「…………」

「…………」


 3人とも固まってしまった。

 『誰でも良い』そう言ったのはお母様ですよ、こんな男が出てきて今更後悔してももう遅いです。


 作戦会議を行う為に俺は藤咲さんを適当な理由で呼び出す。


「お父さん、お母さん、すみませんが涼子を少しお借りしますね。今日は来客が多いので玄関の靴を2人で少し整理したくて」


「……え? え?」


 状況が呑み込めずに呆然としている藤咲さんの手を掴んで、玄関に連れて行く。

 そして、俺の突然の行動に衝撃を受けている彩夏の耳元で囁いた。


「彩夏、悪いけど少し藤咲さんのお父さんとお母さんと話して時間稼ぎしてくれるか? こっちに来させないようにしてくれ」


「う……ふぅ……わ、分かった……」


 彩夏は軽く身震いしてから居間に向かってくれた。

 すまん妹よ、俺に耳元で囁かれるのは気持ち悪かったな。


 そして、藤咲さんに深く頭を下げて小さな声で謝った。


「すみません。藤咲さんがお困りだと思って、とっさに彼氏のフリをしてしまいました」


「お、お前は本当に山本なのか!?」


「藤咲さん、もう少し声を抑えて。はい、びっくりさせちゃいましたね」


「びっ、びっくりなんてもんじゃない! 私の頭の中から飛び出して来たのかと思ったじゃないか」


 藤咲さんは顔を真っ赤にして深く呼吸をする。

 どうやら藤咲さんも誰かが来て欲しいと思うくらいには困っていたようで安心する。


「色々と聞きたいことはあると思いますが、今はご両親の来訪を乗り切りましょう」


「そ、そうだな……付き合っているフリ……だったな」


「はい。俺も初めてなので上手くできるかは分かりませんが……頑張りましょう!」


「だ、大丈夫だ。わ、私が年上だからな、しっかりとリードしてやる!」


「藤咲さん! 頼もしいです! お願いします!」


「よ、よし……じゃあ、行こう」


 藤咲さんは深呼吸を一つすると、いつもの涼し気な目つきに戻った。

 流石は藤咲さん、今までもお店の忙しい時間帯を何度も2人で乗り越えてきた。

 だから、この程度の窮地はきっと大丈夫。


 俺の姿が変わっていることなんかも、そんなに動じていないのだろう。


 そしてカッコ良く振り返った直後――


 ――ガッ


 足をもつれさせた藤咲さんは盛大に転んだ。


――――――――――――――

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