第100話 救助の為には仕方がない
「"どけどけ! 急患だ! 道を開けろ~!!"」
サンタニアからサウスビーデンに向かう207ストリート。
年の瀬の大混雑をジョニーさんは仲間たちと隊列を組んで拡声器を使い、他の車を避けさせて進む。
他の車たちは恐らく急患がいるからどいているのではなく、単にジョニーさんたちのチームが暴走族に見えて怖いから道を開けているだけだろう。
ただ、リリアちゃんが一刻も早く治療を受けられるなら俺はどう思われようとかまわなかった。
(まずは電話……蓮司さんにリリアちゃんの状態を伝えないと……!)
まだ苦しそうにしているリリアちゃんをしっかりと抱きしめながら、俺は電話をかける。
「"……! 蓮司さん! リリアちゃんの容態が急変しました!"」
「"――どういう状態だ!?"」
蓮司さんはすぐに電話にでてくれた。
もしかしたら、年末年始も変わらず働いていたのかもしれない。
色々と説明しなくてはならない状況ではあったが、何よりも俺はリリアちゃんの状態を伝える。
「"急に、呼吸が苦しくなったそうです! 今は浅い呼吸を繰り返してます!"」
「"呼吸器系の筋肉が衰退したか……! 心臓はどうだ!?"」
俺はリリアちゃんの胸元に耳をくっつけた。
「"やや、心音が弱っている気もします……!"」
「"動いてはいるんだな、よし! リリアは今、自力での呼吸が難しい状態だ。流伽君、人口呼吸をしてくれ!"」
「"分かりました!"」
俺は電話をスピーカーに変えて、自分の胸ポケットにしまう。
リリアちゃんを両腕で抱きかかえた。
「"リリアちゃん、本当にごめんね!"」
「"……へ?"」
そして、リリアちゃんが息を吐くタイミングを見計らって口づけをし、息を吹き込む。
「"――◎△$♪×¥●&%#!!??"」
俺が口づけをした瞬間、リリアちゃんの身体がギュッと硬直した。
まずは5回程度、リリアちゃんの呼吸に合わせて息を吹き込むと俺はリリアちゃんの様子を見てみた。
リリアちゃんの顔が真っ赤に染まり、呆然自失といった表情で俺を見つめている。
「"蓮司さん、リリアちゃんの心臓の鼓動が凄い早くなりました! 呼吸もかなり小刻みに!"」
「"あ~、副次的な効果だ、問題はない! 今、病院にいないんだろう? 人口呼吸を続けながら状況を説明してくれ"」
「"――説明は俺がするぜ! ブラザーは応急処置を続けてくれ!"」
「"他に誰かいるのか!? その方が良い! 頼む!"」
スピーカーにしているおかげでジョニーさんも状況が分かっていた。
有難いことに俺の代わりに蓮司さんに話してくれるらしい。
リリアちゃんも人口呼吸のおかげでかなり楽なのだろうか。
催促をするように俺の顔をグイグイと自分に引き寄せようとしている。
ジョニーさんが話してくれるなら俺もリリアちゃんに専念出来て助かる。
「"俺たちは今、バイクで隊列を組んで207ストリートを南へ爆走しているところだ! かなり目立つと思うぜ"」
「"分かった。先ほどサウスビーデン病院にサンタニアの時計台広場へと緊急の要請があった。君たちのことだろう? 柏木君が救急車に乗って207ストリートを北上しているはずだ"」
蓮司さんは俺がどうして勝手にリリアちゃんと共にそんなところにいるのか、何も聞いてこなかった。
リリアちゃんの救助を最優先に、どこまでも冷静で適切だった。
「"合流すれば良いってことだな! 野郎ども! もっと目立つようにネオン点けろ! 叫び声を上げろ~!"」
「「"ウェーイ!! 頑張れ、リリアちゃん~!!"」」
ジョニーさんの号令で周囲のバイクもエンジンを吹かし、爆音を上げる。
リリアちゃんを励まし、向かいから来ている救急車に何としても見つけてもらう為だろう。
「"あはは、うるさくて……明かりが綺麗ね。お祭りみたい……"」
人口呼吸の途中でリリアちゃんが笑う。
どうやら少しだけ余裕が出てきたらしい。
もちろん、すでに色々と道路交通法違反を犯している。
しかし、ジョニーさんたちは俺たちの為にそんなこと今は気にも止めていない。
「"流伽君はリリアの人口呼吸を頑張ってくれ! 救急車には人工呼吸器が載せてあるから、合流すれば必要はなくなる! それまでは!"」
蓮司さんが電話ごしにそう言った瞬間。
もう顔の血色もかなり良くなっていたリリアちゃんがジョニーさんの背中を叩いた。
「"もう少し……ゆっくりと走りなさい……!"」
「"――は? だが、今は急いで……"」
「"いいから……! ほら、山本! 息が苦しいわ、何とかしなさい……!"」
「"あっ、うん。じゃあ……い、いくよ……?"」
少し冷静になり、気恥ずかしさを感じながら俺は満面の笑みのリリアちゃんへ人口呼吸を続けた。
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【業務連絡】
寒い……地球、冷やしすぎです。
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