第17話 文芸部と交わした約束。その2
水道で雑巾を洗い、ケトルに水を入れ終えた俺と
「あはは、本当にビックリしちゃったよ……突然、一年間もアメリカに行くなんて……」
「す、すみません。俺も突然決まった話だったので……」
「でも、病気の治療ができるなら絶対に行った方が良いよね!」
その時、足代先輩は何かを思い出したかのように手を叩いた。
「あっ、ごめん山本君! 私、教室に忘れ物があって……回り道になるけど一緒に取りに行ってくれるかな?」
「はい、かまいませんよ!」
「あはは、山本君がアメリカから帰って来る頃には私のドジも少しは治ってるといいんだけど」
そんな会話をしながら足代先輩の教室に入った。
足代先輩は自分のロッカーを開いて、手提げカバンを取り出す。
「山本君、何か相談があったら私に言ってね! 私たちはほら、秘密を共有してる仲間でもあるから!」
「ありがとうございます。でも、困っていることはないので大丈夫ですよ」
「本当になんでも……あっ! お金のことでも良いよ! 私、結構稼いでるから!」
そんなことを言って、何やら自信満々に胸を張る足代先輩。
俺は再びその豊満な胸元に目が行ってしまいそうになりつつ、要らぬ心配をしてしまう。
「あ、足代先輩……一応聞きますけど、稼ぐって危ないことじゃないですよね……?」
「あ、ち、違うよ!? その……山本君にだったら言ってもいいかな……? いいよね……?」
足代先輩は自問自答しつつ顔を赤らめて、今取り出した手提げカバンから薄い本を数冊取り出した。
「えへへ、じ、実は私中学生の頃から同人作家をやってて……最初は全然だったんだけど……今は結構売れるようになったんだ!」
「同人作家……凄い、漫画が描けるんですね!」
「ありがとう! 良かった~! 山本君だったら引かないでくれるって思ったんだ! 山本君にもここに入ってるの1部ずつあげるね!」
手渡された煌びやかな本の表紙を見て、俺はつい息を飲む。
「あの……全部、妹モノというか……兄妹モノなんですね」
「うん! 私、可愛い妹ちゃんが大好きで! あっ、現実にはこんなに可愛い妹なんていないからこうやって妄想で楽しんでるんだけどね!」
「……ち、ちなみに、内容的には?」
「お兄ちゃんが受けの時もあるし、妹ちゃんが受けのも……ちょ、ちょっと変態チックなのもあるかも……。いやー、兄妹が一線を越える瞬間っていいよねー」
足代先輩はうへへとにやけながら顔を赤らめる。
これは……非常にマズイ。
もし俺がこんなモノを持っているのを妹の彩夏に見られたら一生口を聞いてもらえなくなるのは確実だ。
申し訳ないが、受け取るのは断らせてもらおう。
「すみません、足代先輩。その――」
俺が謝罪から入ったので何かを感じ取ってしまったのだろうか。
足代先輩はいつかのようにまたボロボロと涙を流し始めた。
「ご、ごめんね、気持ち悪いよね、こんな……兄妹モノの同人誌を描いてハァハァ言ってるなんて……。山本君なら優しいから大丈夫かと思ったけど、限度があるよね……。本当にごめん、もうこんな話しないから――」
「い、いえいえっ! 『すみませんが、もっと欲しいです!』って言おうとしたんです! とっても素晴らしい本ですから……!」
俺は全力でハンドルを逆方向にきった。
こんな表情を見せられて断るなんてできるか。
本が素晴らしいと思うのは本心だし……俺が彩夏に見つからないように隠せば済む話だ。
俺の言葉を聞いて、足代先輩はしおれてた花が開いたかのように満開の笑顔になった。
「え!? そ、そうなの!? 良かった~! えへへ~! いつかは出版社さんから自分の本とかも出してみたいなって思ってて、頑張ってるんだ~」
「先輩ならすぐにプロですよ! こんなに綺麗なイラストが描けるんですから!」
「そ、そう!? うぅ……そんなこと言われると嬉しすぎて泣いちゃいそう……。あ、後さ……その――」
トマトみたいに顔が真っ赤な足代先輩は今度は俺に屈むようにお願いすると耳元で囁く。
「じ、実は別名義でえ、えっちなのも描いてて……それも、もちろん妹モノなんだけど」
「そ、そうなんですか~。あはは……」
「それも山本君にあげるね! つ、使えたかどうか、は、こ、今度教えてね……! 参考にしたいから……!」
「あの……えっと……はい……」
(同人誌は絶っ対に彩夏に見つからない場所に隠そう……)
その後、部室に戻るまで楽しそうに妹モノ作品への愛を語り続ける足代先輩を見ながら俺はそう決意した。
――――――――――――――
【業務連絡】
という訳で、妹モノの新作『いつも俺のことを罵倒してくる完璧超人な妹が俺を好きなはずがない』を投稿しました。
ツンデレの妹モノ作品です。試しに書いてみました。
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