第9話 キモデブ、人を救う。その1
本日の学校が終わり、俺は一人で家路についていた。
今日は一つだけいつもと違うことがあった。
俺をイジメているクラスの女子たちのグループが今日はイジメてこなかったのだ。
ようやく俺というおもちゃに飽きてくれたのであれば非常にありがたいのだが……
ありそうもない希望を胸に歩く。
そんな時、学校のそばの池を一人の小柄な女の子が呆然と見つめていた。
まさに今日、俺をイジメなかった女の子のグループの後ろにいつも居る子だった。
「…………」
彼女はウェーブがかった綺麗な黒髪を風に揺らしながら、心底困ったような表情で顔を青ざめさせて池を見つめている。
俺は彼女のことを他の女子たちよりも色濃く覚えていた。
ただ、特別美しいからという理由だけじゃない。
だって彼女は――
「大丈夫? どうかしたの?」
俺は彼女――
遠坂は俺に話しかけられ少し驚いた後、取り繕って俺から目を背ける。
「大丈夫。何でもないわ」
そう返事をした遠坂にはいつもと違うところがあった。
彼女がいつも首から下げている綺麗なネックレス、それが無くなっていた。
「ネックレス、どうしたんだ?」
「…………」
何やら少し葛藤したような表情を見せた後、遠坂は小さく呟いた。
「落としちゃったの……この池に……」
この池はそこまで浅いとはいえない。
低身長の彼女が探し物をするために手を池の底まで伸ばすことはできないだろう。
そして何より、虫が沢山湧いており、泥だらけで水も真緑に変色してしまっているほどに汚れている。
「よし、俺が探してやる。ちょっと待ってろ」
「――は!? い、いいわ! 自分でなんとかするから!」
「ネックレス、落としたんじゃなくてこの中に投げ捨てられたんだろ? 俺も何度かやられてるから慣れてるんだ、気にすんな」
遠坂の制止を聞かずに俺は靴を脱いで沼の中に入っていった。
ひざ上まで浸かり、腕を突っ込んで肩まで濡らす。
「ちょっと~何あれ~?」
「うげー、よくあんな汚い池に入れるわね。ビョーキになりそ~」
下校する生徒たちが何人か俺の姿を見てそんな事を言っていた。
祈るように両手を合わせる遠坂に見守られながら、俺はネックレスの捜索を続ける。
――そして、数時間後の夕暮れ時。
「あった! あっはっはっ! だてに何度もこの池に物を捨てられてねぇぜ!」
頬の泥を拭い、俺が遠坂のネックレスを見つけて笑いながら掲げると――
遠坂はポロポロと涙を流した。
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