第12話 街に買い物に出掛けたら結婚してたってお話
入学して初めての休日だ。しかし俺は経済、政治、社交等の勉強がヤバい事になっていた。ヨシ! 女子寮の図書室に籠もって勉強だ!
◆
「ミアさん?」
「なあに?」
「俺は今日、勉強する予定だったんだけど」
「そんな事よりアベル、着替え全然持ってないじゃない。それにボサボサの髪も少し切った方がいいわよ」
そんな事って……。勉強大事じゃね?
俺はミアさんに連れ出されて街に買い物に来ていた。街は何しろ人が多い。先日の授業で経済とは人であると習ったが、此れがこの街の経済なのかと感心してしまう。
「着替えなら貰った物があるが?」
「一着じゃないの。洗濯しないと臭いわよ!」
「臭いのか?」
「臭くなってからじゃ遅いの!」
そんな訳でミアさんに連れられ洋服屋へと入った。
「いらっしゃいませミレリア様」
身なりを整えた初老の男がミアさんに頭を下げている。
「彼にお洋服を見立ててちょうだい」
「承りました」
初老の男が幾つか服を俺に持ってきてくれた。
なんだ此の派手な服は? いわゆる貴族様ファッションだ。ガボチャパンツ? 白タイツ? 無理だろ!
「ごめんなさい。彼には普通のお洋服をお願い。あっ、でも一着ぐらいは必要かな」
初老の男に再度普通の服を見立てて貰い、下着も含めて三組購入させられた。因みに貴族様ファッションも一組買わされた。
俺の買い物も終わり店を出るのかと思いきや、ミアさんも服を選んでいる。
「此れなんかどう?」
ミアさんが選んだ服を俺に見せる。薄い緑色の洋服だった。
「え! 俺か?」
「そうよ。どう? この服は似合うと思う?」
「……今着ている服が可愛いだけに何ともな」
「か、可愛い!?」
「ああ。今着ている服可愛いぞ」
「そ、そう!? そ、そっか! じゃ、じゃあこっちは」
ミアさんはオレンジの服を俺に見せるが……。
「……いいんじゃね?」
「……本当にぃ?」
次いで青い服を聞いてきた。
「……いいんじゃね?」
「……適当でしょ?」
「…………」
「じゃ、じゃあアベルはどれがいいと思う?」
「む、無茶振りだろ!?」
「無茶でもいいから選んでみてよ」
……此の数ある服の中から俺に選べと!?
ミアさんが今着ている白はとても良く似合うが、ここで白を選ぶと怒られそうだ。
「これなんかはどうかな?」
俺が選んだのは胸元は白だがそこからスカート迄は赤く、白と黒の刺繍柄の洋服だった。
「ミアさんの綺麗なピンクの髪に似合うんじゃないか?」
「き、綺麗!? そ、そう!? そ、そうよね! ご、ご主人! これを買うわ!」
◆
「ミアさん?」
「何かしら」♪
「なんか愉しそうだな?」
「そう?」♪
何故かお店で買った服に着替えたミアさんは愉しそうだった。
お昼ご飯は、矢鱈と男女のペアが多い食堂でご飯を食べた。またまたミアさんは愉しそうだ?
食後に、俺の髪を切りに散髪屋を目指して街を歩くと、随分と騒がしい建物がある。俺がその建物を見ていると「冒険者ギルドよ」とミアさんが教えてくれた。俺は興味津々でガラスドア越しに中を覗いた。
「冒険者に興味があるの?」
「まあな。村じゃ冒険者は憧れの職業だからな。俺の友達も冒険者に……」
ギルドの扉が開き戦士風の男と魔術師風の女の子が出てきた。
「……アレク? ミーシャか?」
「ん? 誰だ?」
扉から出てきたのは幼なじみのアレクとミーシャだった。
「俺だよ! アベルだ!」
「アベル? アベルなのか!?」
「久しぶりだなアレク! 山を降りたら二人は冒険者になったって聞いて吃驚したよ!」
「小さい時からの憧れの職業だからな! 村はどうだ?」
「三年振りに下山したらトーマンとサリーが結婚してたよ。吃驚さ!」
「お~! アイツらも結婚したか!」
「アイツらもって、お前らもか!?」
「ああ! 昨年俺とミーシャも結婚したよ! アベルはどうなんだ?」
「俺か? 俺は今月からこの街の学院に通っているよ。結婚とかはまだまだ先だな」
「学院!? エリート組じゃねえか! どうしたんだよ!」
「いや、婆さんが通えって言うから」
「エミリア様か、ならしかたねぇな」
ふと見るとミーシャがアレクの後ろに隠れてジーっとジト目で俺を見ている。……なるほど。
「ミーシャ、大丈夫だ。この眼鏡は魔眼封じの眼鏡だから見えたりしないぞ」
「ほ、本当にぃぃぃ~?」
「だよね、ミアさん」
「(ボソボソ)……結婚……結婚……結婚……」
「ミアさん?」
ミアさんを見ると赤い顔で何やらボソボソ呟いていた?
「え!? な、何!?」
「いや、この眼鏡は魔眼封じだよなって話し」
「あ、うん、そうだよ! そうそう!」
焦って受け答えするミアさん? どうしたんだ?
「はあ~良かった~。あたしはてっきりアベルの彼女さんは全裸オッケーなのかと思ってたよ~」
「ンな筈あるかアホ! それにミアさんは彼女じゃない、友達だ」
「そうなのか? 美少女連れてて羨ましかったがそりゃ良かった!」
「ミアさんは領主様の娘だぞ! 俺なんかが付き合えるかバ~カ」
「領主様の娘ぇ! そりゃあ無理だなあ!」
「「アハハハハハハハハハ」」
俺とアレクが馬鹿笑いをしているとミーシャが猫目で何故かミアさんを見ていた? そのミアさんはと言うと……?
「(ボソボソ)……彼女……結婚……彼女……裸……おっけぇぇぇ~~~」
目をグルグル回し、ボソボソ何か呟いて、何故かぶっ壊れていた? 大丈夫かミアさん?
◆
アレク達と別れた後、ミアさんの様子が少しおかしかったので、近くにあった公園のベンチで一休みする事にした。
「大丈夫かミアさん?」
「う、うん。アベルの友達ってみんな結婚してるの?」
「なんかそうみたいだな。田舎の村だからやる事ないし、結婚も早いんだよ」
「ふ、ふ~~~ん」
ミアさんは両腕を伸ばして手を組みモジモジしている?
「まあ俺はどの道、学院を卒業してからだな」
「そ、そ、そうだよね! 私達は学院卒業してからだよね」
「私達?」
「わた、わた、わた、私飲み物買ってくる!」
顔を真っ赤にしたミアさんは慌ててベンチから立ち上がると、足早に公園の入り口にあった屋台の方へとスタスタ歩いて行ってしまった?本当に大丈夫かミアさん?
◆
「遅いな?」
ミアさんが席を離れて10分は経つ。花摘みかと思い更に10分待つが帰って来ない。俺は様子を見に屋台迄行って見るが姿は見えない。
「おじさん、赤い服の女の子が来ませんでしたか?」
屋台のおじさんに聞いてみたが見ていないと言う。花摘みで近くのお店に入ったか? それにしては遅いよな?
俺は怒られるのを承知で紫色の魔眼封じの眼鏡を外した。
「【透視】!」
中レベルの透視で辺りの建物を透かしてミアさんを探すが見当たらない。更に強レベルの透視で少し遠くを探してみる。【望遠】を使わなくても500m程度なら見る事が出来る。
「【広角】!」
【広角】スキルによって見る幅が約300度に大きく広がる。
「……いない?」
どうしたんだミアさん? ……嫌な予感がする。俺は【望遠】を使って更に探す範囲を広げる。魔眼は一度に二つしか使えない事から【透視】強レベルと【望遠】を使って各通りに沿って遙か先の方まで探してみた。
「オイ!!!」
いた!
ミアさんは馬車の中に横倒しにされている!
目は開けているが……様子がおかしい!
馬車の中には他に人はいない!
手綱を握る怪しい男。馬車はここから数キロ離れた大通りを南門目指して走っていた。街中だからそれ程速くは走っていないが、ここからではざっと5キロは離れている。
「マジかよ!」
俺は買い物した洋服等は放り投げて、南門を目指して走りだした!
「【加速視】!」
ミアさん!!!
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