07:閑話(王宮編)

 結婚して王宮で暮らすようになってからと言うもの、フェルがものすごく近いのよね。

 以前も相当に近かったのだけど、そんなのは比にならないほど近いわね。


 そして今も、

「ねぇ~ジルダぁ~」

 読書の最中に擦り寄ってくるフェル。

 隙あらば私の膝の上に頭を乗せようとしてくるのだが、今日は本が邪魔で頭を上手く差し込めないみたいね。


 本をそっとどけようとしてくるフェルを制して、読書を続ける私。

 そしてフェルは、露骨に邪魔をするようになりいい加減にキレた私が文句を言った。

「邪魔です、本が読めません」

「えー、そんなの後でいいじゃないか」

 だから膝枕してよーと甘えてくるフェル。その仕草は可愛らしいのだが……

 いつも甘えれば叶うと思うなよと、今日の私は一味違ったのよ。


「では夜に読みますので、今日の寝室は別でお願いしますわ」

 そういうとフェルはしぶしぶ納得して、肩を落として出て行ったわ。



 後日。

「膝枕してください!」

 読書中の私に綺麗な礼を見せて頭を下げてくるフェルがいた。角度はきっちり九十度。

 いっそ清々しいほどの素直な態度だったと思う。


 私は本をサイドテーブルに置いて、膝をポンポンと叩くと、

「どうぞ」

 微笑みながらそう言ったわ。


 願いが叶い嬉しそうなフェルが私の隣に座って、いそいそと頭を乗せてきた。

 膝の上にフェルの頭が乗り、私が銀髪の髪に手櫛を入れると、フェルはまるで猫のように目を細めて気持ち良さそうな表情をする。


 ひとしきり撫でていると満足したのか、彼は起き上がった。

 そして、今度は自分の膝をポンポンと叩き、

「ジルダ、交代だよ」と、人懐っこい笑顔を見せたのよ。

 どの角度が一番可愛く見えるか研究でもしているのかしら、実にあざと可愛いかったわね。


 私が横にならないと収まらないのは今までの経験から知っている。

「ふぅ仕方ないわね」

「うん、仕方ないよね」

 嬉しそうに笑う年下の夫を見て、今日も平和だなと思った。





 とある日。

 相も変わらず、フェルは私に擦り寄って座っていた。ちなみに本日の膝枕サービスは一時間ほど前に終了しました。


 今はもう一度やって欲しいらしいフェルのお強請ねだり中ですわ。


 そんな時、

「相変わらず仲が良いようだな」

 はははと笑いながら国王陛下がサロンに入ってきたわ。陛下は、すかさず動き出そうとした私の侍女を手で制して止めていた。


「これは陛下、どうかさないましたか?」

 そう問い掛けると陛下は首を振りながら、

「ジルダ違うぞ、お義父様だ。さあ言ってごらん」

 楽しそうな笑みを見せる国王陛下。

 ちなみに反比例するようにフェルの表情は悪くなり、いまや苦虫を噛み潰したような表情を見せているのは気のせいじゃないわ。


「お、お義父様、どうかなさいましたか?」

 やはり少し言い慣れないので、言いよどんでしまう。

「もう少し砕けた感じが、わしは好きなんだがな。まぁ今後の課題にしておこうか。

 ジルダの淹れたお茶が飲みたくなったのだ、淹れてくれるかね?」


「はい、分かりましたわ」

 そう言った瞬間にフェルが物凄く迷惑そうな表情を見せていて、『チッ』と舌打ちが聞こえたのも気のせいじゃないわよ。


 もちろん無視して、私は立ち上がって侍女から道具を借りてお茶を淹れたわ。


 陛下はお茶を待つ間、私が先ほど座っていたソファーに腰を下ろしたのよ。ちなみに同じソファに居たフェルは嫌がって移動したわね。

 もちろん二回目の『チッ』と言う舌打ちが聞こえたわよ。


 お茶は陛下の前に置いたのだけど……

 さて私はどこに座るべきかしら?

 私の飲みかけのお茶のカップは今は陛下の隣にあるのよね、でも夫のフェルは別のソファーへ移動済みなのよ。

「……」

 少し思案していると、陛下がソファーをポンポンと手で叩いたわ。

 つまりそこに座れと言う意味よね。

 そんな訳で、私は仕方なしに元のソファーに座った。

「チッ」

 もう言うまでもないわよね?


 私が座ると姿勢を直すような仕草で少しだけ近づく陛下。

「チッ」

 ねぇなんだかこの二人似てない?

 いつか髭面のお義父様が私に擦り寄ってくるかと思うと、……うっちょっと寒気がしたわ。



 結婚してすぐに、こういった事が多々あり・・・・、私は気になって王妃様に聞いたのよ。

 すると、陛下も自分おうひさまも、子供に女の子が欲しかったと言う話だった。


 幼少の頃にミリッツァ様を頻繁に王宮に遊ばせに来させていたのも、その願望を満たす為だったと言う話よ。

 その矛先がいまは新妻の私に向いているみたいね。


 じゃ無ければ、侍女が淹れる美味しいお茶を断って、私の淹れた不味いお茶を飲みたがるはず無いわよね。


 そして当然不味いはずのお茶を、陛下はおいしそうに飲んで、

「うん、娘が淹れたお茶は美味いな」と、満足げに言って去って行かれたわ。

 きっと後でお茶のお礼と称したお菓子か花束が部屋に届くのは想像に容易いわね。

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