30:エピローグ
いや今までも色々と違っていた箇所があったではないか、それに気づかない振りをするのは止めよう。
そうでないと私もマエリスと同じになってしまう。
ここはゲームの中ではなくて、天使に貰った『うたかたの夢』の世界なのだから、ただゲームに似た世界と言うだけ、細部が違っていてもおかしくは無いのよ。
マエリスの裁きが終わると、アントナン殿下はがっくりと項垂れて、自らの意思で王位継承権を返上したわ。
「残念だ、アントナンよ」
国王陛下はその一言以外に言葉は発しなかった。
このまま国を出ますと、その他の身分も同様に捨てようとしたアントナン殿下だったが、それはフェルが許さず、
「勝手に自分で幕を下ろさずに、ちゃんとミリッツァ姉さんに償えよな!」
と、兄のアントナン殿下にあの時の罪を償うように言ったわ。
「あんな酷い仕打ちをしておいて、俺に何が出来ると思うんだ?」
「そんなの知るかよ。でもミリッツァ姉さんの代わりに今後は俺がこき使ってやるからさ文句言わずに働いて貰うぞ」
それを聞いてアントナン殿下は力なく笑った。
確かにいまさら彼はミリッツァ様に合わせる顔は無いだろう、だから変わりに国政で返せと、フェルが譲歩したのだ。
「ただし謝罪だけは行ってきなよ、
会えないと思うけど、いや違うわね。ボードレール公爵がきっと会わせないはずよ。
それでもフェルは行けと言った。
可愛い顔して私の未来の旦那様は随分と厳しいのね。
「ああそうだな、会って貰えるまで何度でも行ってくるよ」
二人は目を合わせて笑っていたわ。
モブだった私は、気づけは王太子の婚約者になっていた。
不安が表情に出ていたのだろうか、王妃様が私に声を掛けて来たわ。
「浮かない顔をしてどうしたのジルダ?」
「私みたいな地味で普通の子が、王太子の婚約者になって良いのかと思っていました。
もっと相応しい、可愛らしい令嬢が居るのではないでしょうか?」
「あらあら、フェルのことが嫌いになったのかしら?」
「いえ、そう言う訳ではないのですが……」
王妃様は少し呆れたように言ったの。
「本当にクローデットの言う通りなのね。貴女は何故か自分の容姿に自信がないみたい」
「地味で普通ですからね」
だって私ってばモブのネトラレ令嬢ですしね。
「いいえ違うわよ。貴女はとても美しいわ、ただ愛想が無くてかなり損をしているみたいだけどね。それとも……地味とか普通って誰かに言われたの?」
前半は私を励ますように、後半はあの夢に見そうな笑っていない目で言われたわ。
誰に言われたと言えば、設定で決まっていたのだが……
あぁまただ。設定と言えば先ほどマエリスの生まれが違っていたばかりではないか。
本当に気をつけないと駄目よね。
少しだけ自信なさげに、私ははっきりと聞いてみた。
「本当に愛想が悪いだけ、ですか?」
「えぇ
そういって王妃様はクスクスと笑いながら去って行ったわ。
えぇ私って本当に笑えば可愛いの?
このとき私は嬉しくてふわふわしていたわ。
※
王宮の一室で、私はフェルと二人でソファに座っていた。
真剣な話があるとフェルから言われたので、双子には部屋の外で待機して貰っているので、本当に二人っきりだ。
ちなみに、
「私が悲鳴を上げたらすぐに来るのよ!」と、フェルの前で笑いながら伝えたので、二人きりでもきっと大丈夫よ。
フェルは二人きりになると、口を開いては閉じてという行動を何度も見せていた。
かなり言い辛そうな内容なのかしらね?
そして意を決したように、
「僕と婚約したせいで、こんな下らない事に巻き込んでしまって済まない。
もしジルダが嫌だったら、婚約を解消しても仕方が無いと思っている」
一息にそう言い終えたフェルは、唇をかみ締めて何かを堪えるような表情を見せていたわ。
別に婚約していなくても、私はマエリスに狙われたと思うのだけど……
それには前世が~とかゲームが~と伝えなければならないので、却下よね。
だからなるべく重くならないように、冗談めかして返す事にしたわ。
「あら
「そ、そんな事はない!
ジルダこそこの件で仕方なく僕と婚約したんだから、最初から僕のことなんて好きじゃないのではないか?」
確かに最初は、ただの年下の可愛い弟の扱いだったと思う。
でも今は……
「そうですね。確かに、好き……、では無いですね」
がっくりとうな垂れるフェルは予想通りの態度だったわ。
でも私はここで言葉を終わらせるつもりは無くて、さらに続けたのよ。
「もうこの感情は『好き』では語れませんので、今の私は間違いなくフェルを愛していますよ。
だから婚約解消はしてあげませんわ」
特にあの助けに来てくれた時はしびれたわね。あんなにカッコいい顔が出来るなんて、可愛くてカッコいいなんて最強じゃないかしら。
その言葉を聞いて感極まったらしいフェルが、顔を真っ赤にして真剣な表情でずずいと私に近づいてくる。
一気に縮まる二人の距離。
また随分と近いわね……
彼は顔を真っ赤に染めて、上目遣いで私を覗き込みながら問い掛けてきた。
「あ、あのジルダ! く、口付けをしても良いだろうか?」
小首をかしげるフェルは大変可愛らしく、乙女か!?
その仕草があまりにも可愛らしくて、思わず流されそうになるのをぐっと堪えて、
「駄目です」
と、心を鬼にして答えたのよ。
それを聞いて再びうな垂れるフェルに近づいて軽く口付けすると、
「こういう雰囲気の時は、聞いたら駄目なんですよ?」
そう言って、私は王妃様に教えられた通り、
口に手を当てて真っ赤に顔を染めているフェルはまるで乙女のようで、なんだか負けた気分を味わったのは内緒だ。
『うたかたの夢』は日本に帰りたがった彼女にとっては悪夢に違いなかった、しかし私は感謝こそすれ怨む事はない。
とても、とても良い夢だと思うわ!
─完─
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本編は終了です。読了ありがとうございました。
後日談に続きます。
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