24:vsヒロイン③ 不戦勝
オディロン様の宣言どおり、二日後の新聞には、大々的にケヴィン先生と複数の生徒との不倫の話が掲載されていた。
二日後。
オディロン様の宣言通り、新聞には、ケヴィン先生が複数の生徒と不倫関係にあったことがでかでかと書かれていた。
おまけにどこから手に入れたのか、当時生徒がやり取りした恋文まで掲載されていたのには驚いたわ。
「凄いわね~、本当に昼ドラの世界だわ」
そんな楽しげな私を、お母様が残念な子を見るような瞳で見ていたので、私はすぐに口元を引き締めて表情を消した。
事前に察知していたのか、結局ケヴィン先生は二日前から今日まで学園に来ることは無く、本日一身上の都合により退職したと伝えられた。
そしてケヴィン先生を欠いた各々の反応はというと。
まずはアントナン様が私に接触してきた。
彼は目を見開いて、
「驚いたよ、ジルダ嬢。君は王妃の椅子が欲しくないのか?」
その発言から、やはり彼の中では陛下のあの発言以降、私は敵とみなされていた事が証明されたことになる。
王妃の座を狙う、ひいては第二王子の王位継承を狙う敵だったはずが、今回の件で予想外に一人減った事から、そういう結論に至ったらしい。
その質問にはどう答えても角が立つから、一礼して無言で去ったわ。
そしてマエリスは。
「……」
廊下で偶然に出会った私に対して、憎憎しげに睨みつけはするものの、口に出して何かを言うことは無かった。
私も挑発するつもりがなかったので、お互い無言ですれ違ったわ。
ただしすれ違った二人の表情があまりにも違い過ぎたお陰で、後ほど『アルテュセール侯爵令嬢が無言で圧勝した』と言う意図しない噂が流れたわ。
結局大したことは起きずにその日が終わった。
もっと波乱に満ちた日になると緊張していたのが馬鹿みたいね!
※
学園が終わり停留所に向かうと、見覚えのある豪華な馬車が停まっていた。
私が近づけばドアが開き、フェルが降りてくる。
彼は紳士のように一礼すると、
「ジルダ嬢、これからお付き合いして頂けませんか?」
と、問い掛けてきたわ。
見違えれば見違えるもので、立派な紳士のように見えてくる。
私は微笑みながら、
「えぇ喜んで」
そう返事をして、彼のエスコートで馬車に乗った。
もちろん馬車には護衛の双子も一緒よ。
そんな馬車の中では、どこかやり遂げた感を見せているフェルの姿があった。
まだ始まったばかりなのにもうやり遂げた感を出すとか、無理に背伸びしないでね?
馬車が最初の目的地へを走り出している頃。
私はバッグから小さな小瓶を取り出して、フェルに差し出していた。
次に会った時にと、準備しておいたのよね。
「これは?」
小瓶を受け取ったフェルが首を傾げて、液体の入った小瓶を指先でもて遊んでいた。
「そちらは私が日ごろ使用している香水ですわ。
殿下は私の匂いがお好きのようですから、プレゼントいたします」
そしてその香水は屋敷で作っている特別なもので、市販されていない事を教えたのよ。
でもフェルは、もはやそんな事は聞いていないようで、
「ジルダの香り……」と、小瓶を見つめたまま顔を真っ赤にして固まっていたわ。
う~ん、お子様には少々刺激が強すぎたかしら……
フェルのエスコートで最初に向かったのは、最近人気のカフェだった。
ここはケーキが美味しいと評判で、いつも行列が出来ていてかなりの時間を待たされると聞いている。しかしフェルは事前に予約を入れておいたようで、私たちはすぐに席に座る事ができたわ。
店内はセンスの良いテーブルと椅子、壁には色々な可愛らしい小物がところ狭し置いてあった。
店の中は明るめで、さぞかし女の子受けが良いだろうと思って店内を見渡せば……
う~ん、なんだかガタイの良い男性と女性ばかりだったわ。
きっとこれ護衛よね?
店の
続いて入ったのは小物や比較的お手頃な装飾品を取り扱っている店だったわ。
ここは私もよく使う店で、護衛の双子に上げた髪飾りやピアスもここで買った物ね。でもいつもは店に寄らずに屋敷に呼びつけているので、直接お店に入るのは今日が初めての経験よ。
初めての店内は……
ガタイが良いカップルが沢山いて地味に狭いわね。
少しの間、店内を見て回っていると、
「今日の記念に何か贈らせて貰って良いだろうか?」
と、フェルが耳まで真っ赤にして私に問い掛けてきたわ。
もっとスマートに言えれば紳士っぽいのだけど、私の婚約者様はどうやらそう言った事が苦手なようで、初々しくてとても可愛いらしいのよ。
可愛いフェルに対して私は少々上機嫌に、
「はい。でしたら何か身に着けておける物が良いですわ」
と、それほど高くない装飾品をお願いしたのよ。
するとフェルは、
「ま、毎日身に付けてくれるのか!?」
と、何故か驚きの表情だったわ。
一体私はどういう目で見られているのかしら?
流石の私もこの態度にはいささかムッと来たわね。仕返しにもう少し慌てて貰おうと思って、こう提案してみたのよ。
「では、折角ですから、二人でお揃いの物を買いましょう。
もちろんフェルの分は私がプレゼント致しますわ」
目論見は成功したようで、慌てふためくフェルはとても可愛かったわ。
私たちが選んだのは、お互いのペンダントヘッドを合わせると雪の結晶になるペアのペンダントだったわ。
ヘッドだけお揃いで、チェーンは別売り。男性のフェルは簡素で少し太めの物を、女性の私にはヘッドだけだと無骨すぎたので、大中小のパールがあしらわれた細い物を贈って貰ったわ。
大きなヘッドの左右に大中小のパールが並んで、少々無骨さが消えたかしら。
「お揃い……」
半分に欠けた雪の結晶をじぃぃと見つめながら、時折にっこぉ~と頬が緩みだすフェルはとても可愛かった。
擬音を付けるならきっと『
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