22:婚約披露

 私は正午前には、夕刻に行われる婚約披露パーティーに出る為に王宮へ入っていた。

 昼食は当然抜き。

 なんせこれからコルセットで締め付けられるのだもの。少しでも苦痛を和らげるためにはそんなの当然でしょ?


 陽が高いうちから王宮でお風呂に入って、念入りにエステを受けたわ。

 やっと身繕いが始まったのはおやつの時間の頃かしら?

 小腹が空いているのだけど、コルセットを付けた後じゃないと安心して食べられないのでじっと我慢よ!


 そして空腹の中、念願のお菓子を食べられたのは、パーティーまで後一時間と言う頃だったわ。

 コルセットで締め付けられたお陰で、あまり食べられないのはお約束。

 でも細かく何度も食べる方向で頑張るつもり。


 今日の為に仕立てられた純白のドレスを着込んで、フェルから贈られた首飾りを付けてやっと準備は完了。

 その時間には、本日も護衛役となるメレーヌとイレーヌも親衛隊の騎士姿で帯剣して現れていた。

「あら二人とも今日はとっても格好良いわね」

 言っておいてなんだけど、これ女の子に使っていい褒め言葉かしら?

「「ありがとうございます。ジルダ様はとってもお綺麗ですね」」

 私の疑問を他所に、双子はステレオで嬉しそうに返してくれたわ。

 ちなみに折角着飾ったのに、双子は私の座る席の後ろにある幕の中で待機だそうよ。

 せめて写真に残せれば良いのだけどこの世界には無いし、とっても残念よね……



 それから五分後、フェルが迎えに来てくれて会場へと向かったわ。


 まず国王陛下と王妃様が並んで座り、その左右に空席が。国王陛下側には王太子であるアントナン殿下が、王妃側には第二王子のフェルが座る。そのフェルの隣が私の席だ。

 試しに座ってみると、檀上に設置されたその席からは、会場の様子が容易に一望できたわ。

「そろそろ宜しいでしょうか?」

「ええ、忙しい所をありがとう」

 実は初めての事なので進行役にお願いして、手順を先に教えて貰っていたのだ。

 これで確認を終えたので、私は一旦下がって貴族の入場を待つことになる。



 それからたっぷり三十分くらい経ったかしら。

 パーティ会場に貴族らが全員入場を終えた事を、進行役から教えて貰ったわ。


 最初に陛下が、王妃様を連れて入って行った。そして続いてアントナン殿下が一人で入っていく。王族が入って来るたびに会場からは盛大な拍手が聞こえてきたわ。

 そして最後に、本日の主役のフェルと私が連れ立って入っていったのよ。

 主役の登場に今まで以上の拍手で迎えられて、その拍手の中私たちは一礼したわ。


 そして陛下の宣言で婚約パーティーが開催される。


 私とフェルが未成年にあたる年齢の為、夜遅くまで居ないという事が伝えられており、挨拶は早めに済ます様にと事前に貴族らに伝えられていたらしい。

 そのため、パーティーが始まってすぐに私たちの前には長蛇の列が完成していた。その長さを見て、思わず私の笑顔が引きつったのは仕方が無いと思って貰いたい。


 座ったままお祝いの言葉を聞き、フェルと二人でお礼の挨拶をする。話が長い人もいれば、簡潔な人もいた。そして私の遠縁の親戚を名乗る貴族も多数居たわね。

 でもお母様のお婆様の妹の嫁いだ先の旦那の弟の~辺りでもう他人でいいわよね?


 貴族らの度重なる挨拶に対して、何度も笑顔を返していると次第に引きつり始める頬と口角。

 私って笑顔が苦手なのよね……

 とっくに張り付いたような笑みになっているに違いないわ。


 あれから何人に固まった笑顔を振りまいただろうか?


 次に私の前に来たのは、ビノシュ子爵閣下とリアーヌだった。

「ジルダお姉さま、おめでとうございます!」

「ありがとうリアーヌ」

 この時の私は、物凄く自然な笑顔で笑っていたと思う。

 相手がリアーヌだからではなくて、やっと子爵まで来たと分かったからよ!

 あとはもっとも多い男爵だけ……がんばれ私!



 数は多くとも男爵は恐れ多いとかで話が短くて助かった。それから一時間ほどで貴族の列を消化したわ。

 ちなみに最後まで綺麗な笑顔を見せていた王妃様を見て、王族って凄いわねと本気で舌を巻いたわ。


 挨拶が終わると程よい時間になっていた。

 最後の締めにと促されて、フェルと二人でダンスを披露して会場を後にしたわ。

 ここからはお酒が解禁、大人の時間だそうよ?







 気づけば季節は冬に入り、日付は最後の月へと進んでいた。

 冷たい風を直接に受けない馬車の中とは言え、この季節はやっぱり寒い。


 そんなある日の事。

 私たち三人が停留所に着くと、なにやら辺りが騒がしいことに気づいた。

 彼らは学園へ向かって歩き始めるでもなく、この寒い中で道の端に数人が固まってなにやら話し込んでいるのだ。

「どうかしたのかしら?」

 もちろん双子の二人は、首を振って知らないアピールよ。



 それらの人の塊を避けつつ玄関口に入ると、シャルロを連れたリアーヌと出会ったわ。

「おはようございます。ジルダお姉さま」

 白い息を吐きながら、嬉しそうに走り寄って来るリアーヌはまるで子犬のようだわ。


「ねぇなんだか表が騒がしくないかしら?」

 そう問いかけた私に、リアーヌは「こっちへ」と少し人気のない場所へと私を引っ張っていった。

「実はですね、ケヴィン先生が複数の生徒に手を出したと言う噂が流れています」

 まさかの噂に驚きを隠せなかった。

「それは本当なの!?」

 だってそれが本当なら、まさに昼ドラ・・・の世界じゃないの!?

 あの夢にまでみた教師と生徒間のどろどろのアレなのよ!


 と、興奮気味に昼ドラを思い出して、芋づる式に別のことも思い出してしまった。

 もしかしてこれって、オディロン様が流した捏造じゃないかしら? と。


 すると途端に、この状況が楽しめなくなったのは言うまでもないわよね?

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