第14話 もう一つの真相と就寝
スーティアから新たなる事実を聞かされたシオンは、ようやく固まっていた思考が動き出していた。
「驚いたけど……取り敢えずは納得したよ」
一つ息を吐いてシオンにスーティアは口を開く。
「で、じゃ。ルイズ・アルベルトは厄禍の討伐に生涯を費やしたのじゃが……知っての通り失敗した。故に封印という形でその場を凌ぎ、お主を転生させて起点を作り、後世で封印が解かれても大丈夫なようにしたのじゃ」
「でもさ。俺を転生……つまりわざわざ異世界から転生させる必要なくない?」
そもそもの話だ。シオンには何で自分を転生させたのか良く分からなかった。厄禍の為とはいえ、同じ世界で完結させればいい話である。
わざわざ転生の儀という信じられないほど高度な魔術を使って、シオンという異世界の人間を転生させたのだ。何か特別な理由があるとシオンは考えていた。
「うーむ、それなんじゃがな……儂も分からん!」
「えぇ?」
「仕方ないじゃろ? 何も伝わってないんじゃから」
「まあそれもそうか……」
偶々か意図的か分からないが、異世界から転生させた理由は伝わっていないらしい。というか、よく考えればルイズ・アルベルトも何で女神に転生させられたのだろうか。
同じ世界で完結させればいいのだが、まあ何か理由がるのだろうとシオンは漠然と考えた。
「それで……お主が救世主と呼ばれた理由じゃな。簡単に言えばエルフの大森林にルイズ・アルベルトから伝えられていたのじゃ。『何年後か分からないけど俺の名前を知る人間がエルフの大森林を訪れる。その人間に協力して欲しい。彼は厄禍を討伐するための鍵を持っている』と」
「……」
「儂らエルフの大森林というのは、いずれ訪れる厄禍の討伐の為につくられたものである。悲願は厄禍の討伐。故に異世界からの転生者……つまりお主を救世主と呼称してずっと待っていたのじゃ」
シオンは自分が持っている鍵というのを知らない。しかし、ルイズ・アルベルトが明言しているということは、既に鍵を持っているか、後に手に入れるかのどちらかだろう。
いくつか疑問は解消できたが、新たに疑問が出てきてしまった。仕方ないとはいえ中々に面倒なことだ。
「なるほどね……契約者っていうのは?」
「うむ……まずはこの世界には九つの精霊がいる。火、水、風、土、氷、雷、光、闇、無の九つじゃ。まあ魔術の属性と同じじゃな。それで……厄禍を討伐するためにルイズ・アルベルトは精霊に頼んで武器を作った」
「もしかして……」
「そうじゃ。精霊武器……またの名を契約武器じゃ」
スーティアは頷いて虚空に手を伸ばす。魔力が渦巻くとと同時にスーティアの手には双剣が握られていた。
「お主も持っているじゃろ?」
「ははっ……そうだね」
シオンも虚空に手を伸ばして念じる。瞬く間に冷気が滲みだし、シオンの手には幾何学模様が刻まれた杖が握られた。
「お主は氷の精霊、儂は風の精霊。我らは精霊に選ばれた存在であり、いずれ厄禍を討伐するという使命がある」
「ふぅー……なんだか凄く壮大だねぇ……」
選ばれた存在、使命、なんとも大層で壮大な言葉だ。普通にキャパを超えているとシオンは思った。しかし、そうも言ってられない。拒否するということは世界の滅亡であるため、やらねばならないことである。
「儂とお主で風と氷は埋まった。残りは七つじゃ。厄禍の封印がいつ解けるか分からぬから、可能な限り早く見つけないといけないんじゃが……」
「二人は見当ついてるよ」
「本当かっ!?」
シオンの言葉にスーティアは身を乗り出す。
「うん。アルカデア王国の王家に二つの契約武器があるらしい。一つが無、もう一つが火。無の方はうちの剣聖の一人が使ってるって聞いたな」
「ほう! それは僥倖じゃ。火の契約者はおらんのか?」
「いない。けど契約者の見当はついてるよ」
「誰じゃ誰じゃ?」
「うちの第二王女様だよ。彼女は火属性が得意で俺に匹敵する実力者だね」
第二王女様というのはもちろんシルフィーネの事である。先程の話を聞いて、シオンはシルフィーネが火の契約者ではないかと思った。ただの勘ではなく、ちゃんとした理由もある。
「スーティアはさ。小さい頃、魔力が多すぎて魔術が上手く使えないことあった?」
「うむ。あったぞ。しばらく魔術が使えなくて苦労したものじゃ」
その言葉でシオンは確信を持つ。
「多分だけどね。幼少期に魔力が異常なほどに多い人が契約者の条件なんじゃないかな。俺もそうだったし、第二王女様もそうだったんだよ」
「……!?」
真ん丸な目を見開いてスーティアは固まった。彼女の脳内でどのような思考が駆け巡っているのだろうか。シオンは一人で納得しながら待った。
「確かに……お主の言う通りかもしれん……」
「でしょ?」
スーティアは頷いて口を開く。
「一応なんじゃが……契約武器の在処を探すことは出来る」
「へー、どうやって?」
「契約武器……精霊武器には『共鳴』という機能があるのじゃ。必要なのは二人以上の契約者および精霊武器。互いの精霊武器に魔力を通してぶつけ合うと共鳴する。その共鳴は他の精霊武器にも届いて、在処が分かるという感じじゃ」
契約者の場所は分からないが、精霊武器の在処が分かるのはかなり大きい。今後の展望に大きく影響するだろう。
「いいね。順調に進みそうだ」
シオンは独り言ちる。ルイズ・アルベルトがエルフの大森林に行けと言った意味が良く分かった。仮に一人でやろうとしていたら右往左往していただろう。
「というかさ……もう俺がエルフの大森林に行く必要なくない?」
「なんでじゃ?」
「いやだって……これ以上なにか情報ってあるの?」
「うむ。まだまだあるぞ。だからお主には来てもらわないとな」
「そうなんだ。なら行くよ」
どうやらまだまだ知らないといけない情報があるらしい。それならばシオンにとって行かない理由なかった。
「そろそろ寝ようか」
「そうじゃな!」
シオンは背嚢から軽くて防寒性の高い毛布を二枚取り出す。一枚をスーティアに渡して、シオンはもう一枚を自分の身に纏わせた。
もちろん、焚火に追加の木材を投入するのも忘れない。寒い森の中で火を絶やして寝たら風邪をひいてしまう。
今日聞いたことに思い巡らせながら、シオンは瞼を閉じた。
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