第11話 自己紹介という名の試練

「初めましてSクラスの諸君!これから君たちのクラスの担任を務めさせてもらうフィオナ・マギストだ!一応言っておくが、君たちの家がどれだけ爵位が高くても学園にいる間は敬語を使わないのでよろしく!」


 ニカッと活発そうな笑顔を見せて自己紹介をする彼女は、このSクラスの担任だ。


 あれから急いだシオン達はギリギリ授業に間に合っていた。


「何かあったら遠慮しないで相談しに来ていいぞ~。一応これでも異名持ちだからな!」


 そう、フィオナ・マギストという魔術師は異名持ちである。


 異名。

 これは多大なる功績を残した時に、国王から直接送られる勲章のようなものだ。


 現在、王国内で異名持ちは六星除いてたった四人しか居らず、彼女はその四人の中の一人という凄い人物である。


 彼女の経歴は、七年前に学園を次席で卒業。

 五年前のキデラ城砦防衛戦で、帝国兵五百を単独で殲滅したという華々しい戦果を挙げたことにより国王から異名を授けられた。


 そこからどのような心境の変化があったのか、国軍を辞めて指導者として学園へ戻ったのだ。


 そんなフィオナ・マギストの異名は『紅炎』。

 

 火属性の素質が七という確かな才能に裏付けられた火魔術は、味方には勇気を、敵には絶望の火を灯す。



「じゃあまずは自己紹介をしていこうか!」


 ついに始まる自己紹介タイム。


 正直自己紹介で何言えばいいのかさっぱりわからない。

 

 だが、これには秘策があった。


 それは自分より前にした人を真似るというものだ。

 幸いにもこのクラスは二十人。最初に自己紹介させられる確率はかなり低い。


 そう思って余裕そうにしていたら―――


「そうだなぁ……シオン君!最初はシオン君にお願いしようかな!」



(ん?シオン?シオンね……って俺じゃん!!)


 シオンの脳の情報処理が終わった途端、冷や汗が溢れる。


(まずいまずい!)


 だが、こんなとこで狼狽えるわけにはいかない。

 もしこれで失敗したら、情けない奴認定からの陰口、そしてハブられるという三連コンボになる可能性がある。


(周りはジャガイモ周りはジャガイモ……)


 内心動揺しまくりながらも表情には出さず、澄まし顔で立ち上がった。



「初めましてシオン・フォードレインです。魔術が好きで氷属性が一番得意です。これからよろしくお願いします」


 刮目せよ。

 これが圧・倒・的☆簡潔な自己紹介だ。


 必要最低限のことだけ喋ることによって面白いとはもちろん思われないが、変な印象を持たれることがない。


 だが横を見るとシルフィーネがニヤニヤとした笑みを向けてきた。


 もしや内心ビビっていたことを見抜いているというのか、とシオンは少し悔しい気持ちになる。


 そう思いながら着席するとフィオナ先生が次を促す。


「ありがとうシオン君!そしたら次は横のシルフィーネにお願いしよう!それが終わったら次はまた横にっていう順番でよろしく頼むよ~!」


 どうやら次はシルフィーネのようだ。

 どんな表情をしているかな、と覗き見たら案の定顔が凍り付いていた。


 彼女は自分が次に当たる可能性を考えなかったのだろうか。


 シオンはさっきの仕返しをしようかと考えたが、あまりにもシルフィーネの顔面が蒼白で可哀想になったので止めた。


「(俺と同じこと言えば大丈夫だよ)」


 小声でシルフィーネにアドバイスする。


 シルフィーネは少し驚いた様子を見せ、表情を取り繕い立ち上がった。


「初めましてシルフィーネ・アルカデアですわ。剣術より魔術の方が好きで、得意な属性は火。これから皆さんよろしくお願いします」


 流石は王族。

 内心どうであれ、外面は完璧である。


 そして澄まし顔で座ったシルフィーネだが、陰で自分の番が終わったことで安堵の溜息をついていた。


 それをシオンはバッチリ目撃したので、シルフィーネに睨まれてしまった。


 次に自己紹介するのは金髪を肩まで伸ばした目つきの悪い少年だ。


「イーサン・マグエスだ。得意なのは剣術。以上」


 イーサンという少年の尊大な態度に少し周囲は騒然とするが、シオンはそんなことよりマグエスという家名が気になっていた。



(あぁ、マグエスって第一騎士団長の息子か)


 シオンは思い出す。

 マグエス家は代々騎士団長を輩出している名家である。


 そして確かイーサンは三席だったとシオンは記憶していた。


 なんだか性格がそれっぽいなと一人で納得する。


 次は、周りと比較するとかなり小さな体躯で眠そうな目が特徴的な少女だ。


「ミア・ウェルトン。両方満遍なく使える。よろしく」


 言い終わるとペコリとお辞儀してちょこんと座った。


 なんだかまた外見とマッチする言動をするなぁ…と思いながらシオンはミアを見ていたらいきなり脇腹に痛みが走る。


(痛っ!)


 それをした犯人であるシルフィーネはジト目でシオンを睨んでいた。


(え???なんで??)


 抗議の目をシルフィーネに向けるがそっぽを向かれてしまい、シオンは困惑する。


 だが、いくら考えても分からないので、取り敢えず他の人の自己紹介を聞くことにした。



 それから数分かけて二十人全員の自己紹介が終わる。


 Sクラスだということもあって、良くも悪くも皆個性的だ。


 カイゼルは昔と変わらず、元気よく自己紹介していたのでなんだか嬉しい気持ちになった。


「よし皆自己紹介ありがとう!この一年間は一緒に過ごすわけだから仲良くするんだぞ!じゃあ次は今年のカリキュラムを説明していくからな~」


 そういって担任のフィオナは色々書かれてあるプリントを配布する。


「全員プリント持ってるか~?持ってるな。よし!じゃあ最初を見てくれ。これは――――」


 カリキュラムの説明は十五分ほどで終わった。


 要約すると、


 ・一年と二年は魔術と剣術、両方の授業を行う


 ・一年に二回座学と実技の試験があり、その成績によって次のクラスが決まる


 ・三、四、五年は魔術科、剣術科、法律科、軍略科、雑務科、の五つから選択して 授業を受けることができる。


 ・六年は自分の好きな専門の分野の研究をして、卒業するときに一つ論文を書く



 こんな感じだ。


 

「何か質問はあるか~?ないな!じゃあ次は施設の紹介するか私にしっかりついて来いよ~!」



 教室ですることもようやく終わり、ついに施設紹介の時間になった。

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