第16話 尊厳死宣言公正証書

 3年前尊厳死宣言公正証書を作った。

 そもそも生きるとは何なんだろうと思う。

 自分の意志で身体を動かせない。食事もできない。排泄もできない。これをどう考えればいいんだろう。

 惚けてしまって自分が何をしているかわからない。これって「自分が生きている」ということなんだろうか。

 僕はこのような状態で生きていたいとはどうしても思えない。このような状態となった自分の世話のために他人を煩わせるのは避けたいと強く思う。

 両親を見送ったが、二人とも死の前の1年間だけだったが、僕自身の体調も優れず仕事も多忙で正直こちらが参ってしまいそうだった。

 尊厳死は日本の法律上はグレーのようだ。しかし、配慮してくれる病院、医師も増えているという。

 ただ、尊厳死宣言公正証書は平たく言えば「延命措置」をしないでくれということなので、惚けてしまったり単に老いて寝たきりになっただけでは死ぬことはできない。

 だから僕の希望が完全に充足される訳ではない。

 けれど無いよりはいい。

 この身体の始末についてはこれからも知恵を絞って行こうと思っている。

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