Life after Divorce
Phantom Cat
1
本日をもって、私は「
噂には聞いていたが、離婚届は本当に緑色だった。それに必要事項を記入するのが、二人の最後の共同作業。そして私は市役所の戸籍係にそれを提出し、そのまま受理された。
十五年の結婚生活。交際期間も含めれば二十年近くになる。それなりに長いと感じていたが、終わるのは一瞬だった。
離婚の原因は夫……いや、もう「元」がつくが……
浮気相手その一、中学教師の
"起きたことには善いも悪いもないの。いずれにせよ、あなたはなかなか出来ない経験をしたのよ。今後はそれを糧として、前に進んで行けばいいわ"
私がそう言うと、中田さんは大声を上げて泣き出した。とても彼女から慰謝料を取る気にはなれなかった。そもそも取る理由もなかった。
浮気相手その二、県立病院看護師の
そして今、私は「川村百合子 ピアノ教室」と看板のかけられた実家に帰ってきた。両親が相次いで鬼籍に入った二年前から、ここを
あの明日香とかいうバカ女は、夫婦で住んでいたマンションでも良祐さんと事に及んでいた。そんな場所にはもう一秒だっていたくなかった。だから私はそこを引き払い、この家に一人で住むことにしたのだ。
それにしても……
良祐さんにはもうとっくに愛想が尽きていたつもりだったから、一人になっても別に何も変わらないだろう、と思っていた。が、こうして本当に一人になってみると、月並みな物言いだが、やはり心のどこかにぽっかりと大きな穴が空いたようだった。凄まじい喪失感が、今の私の全てを支配していた。
春の強い風が、玄関の前で立ち尽くしていた私を我に返らせる。
ホームセキュリティを解除し、ドアを開ける。
いつもの仕事場であるピアノ部屋を通り抜け、今ではめったに入ることのない居間に足を踏み入れる。
かすかなホコリの
近所で遊ぶ子供たちの声が、かつて両親や妹とここで過ごした日々を、私の脳裏に蘇らせる。
私の頬を、いつしか涙が伝っていた。
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