三冠の後
「足立君……!」
見事三冠を成し遂げ、ウィニングランを行う愛弟子の勇士に羅田は人知れず涙する。
私見でも調教の達人である鈴鹿の意見でも、勝利は難しいだろうと判断されていた。しかし、蓋を開けてみればどうだ。結果は畏れていた距離不安など踏みつぶして三馬身差の完勝ではないか。不可能を可能にしたその姿に、羅田は年甲斐もなく心を熱く震わせた。
ウィニングランを終え、計量室に戻ってきた足立に万雷の拍手が贈られる。足立は照れ臭そうに何度も頭を下げ、計量をすませると羅田の前にやってきた。
「勝ちました」
グッと拳を握って足立は羅田に宣言する。羅田はふっと笑い、その拳に自らの拳をぶつけたのであった。
◇
勝ってて草。
いやぁ、なにが起こったんでしょうねぇ。ぜっんぜん聞いてた作戦と違ったんですけどもね。
元々性格的に前に出るのを抑えきれないリドルだから逃げしか取れなかったんだよ。だから3000メートルは厳しいって判断してたんだけども、まー、なんで先行策取れてんの? それに最後に見せたスリップストリームが使えるなら取れる作戦は一杯あったんだよ?
「勝ったじゃない! アンタの不安も杞憂だったわね!」
「そっすね」
わりと綿密に立てた育成計画が馬と騎手の折り合いで解決されるのはさぁ、大変めでたいけど癪ですねぇ!
そんな釈然としない俺の気持ちとは裏腹に、リドルの雄姿を見るために集まっていたスタッフたちや島民たちは興奮冷めやらぬ様子であり、来賓として招いた競馬関係者の方たちも来季の種付けでリドルの親父であるスピードエースを交配させるのを視野に入れた会話などをして会場は盛り上がっている。
盛り上がるのは結構なんだが、これからバーベキューである。時間がレース後で十七時前後になるし、お昼ご飯も眠くなるといけないのでほとんど食べておらず、とてもお腹が空いたのでさっさとみんなで移動したいのだが……
「社長。これ移動開始まで時間かかりそうですね」
「映画見た後スタバで駄弁ってる学生みたいだよね」
「……やったことあるんですか社長」
「俺は映画を一人で見たい人だから……」
「人、ですか?」
「そこに疑問を持つのはおかしいだろ」
俺は日本産の純日本人だが?
そんなアホなやり取りをしていると、音花ちゃんたちが俺の元に寄ってきた。バーベキューに行きましょうと俺に言って来たので、石田君とほむらちゃんを含めた三人の肩を寄せて小声で会話をする。
「このバーベキューを企画した意味わかってる?」
「美味しいお肉を食べるため」
ほむらちゃんのアホな回答はもちろん違う。
「君たちがジョッキーになったときのコネづくりだよ。積極的に今日お誘いした馬主さんに声をかけて、競馬学校卒業後に乗鞍をもらえるよう顔を知ってもらうんだ。いいね」
俺の言葉に三人は「はい」と返してくれた。よし、そろそろホースパークへ移動しよう。
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