飲みすぎ海老原さん
「学生組二次試験終了! えぁ~んど! 凱旋門賞お疲れさまでしたぁ!」
『お疲れさまでしたぁ!!』
居酒屋『伝説』に集まった関係者一同、詳しく述べるなら俺に音花ちゃんとほむらちゃん、石田君に吉騎手と海老原のオッサンに加えて、エミューズの乗り調教をしてくれていた足立騎手に担当厩務員さんと桜花牧場で非番だった奴らが伝説でグラスを掲げて飲み会が始まった。今回の飲み会は俺が口にした通り、受験と凱旋門賞お疲れ様会がメインである。決して、吉騎手を煽るために集合したわけじゃない。
「いやぁ! 俺も吉騎手が人間なんだなって安心しました」
「ははは……菊花賞はボコボコにしてやるから覚悟しときなよ足立君」
酒が入った足立騎手が吉騎手に絡んでいき満面の笑みで反撃されているが、まぁ、飲みの席の笑い話ということにしといてもらおう。南無。
「それにしてもエミューズが凱旋門賞馬だなんて誰が予想しただろうな!」
「それが競馬の妙ってもんでしょう」
ゲラゲラと二杯目の生ビールをあおりながら海老原のオッサンが隣に座っていた柴田さんにダルがらみをする。柴田さんはめんどくさそうに適当にあしらいながらも、言葉自体はまともなことを言う。
「中央の広報はハチの巣突いたように忙しいらしいですよ」
「はっはっはっ! たまには苦労しやがれってんだ! 大将、生おかわり!」
三杯目の生ビールを頼むオッサンに溜息を吐きながら、俺はチーズとん平を口に運ぶ。いい塩梅にチーズが溶けておいしいわ。
今、俺が言った通りに中央の広報と桜花クラブの広報は寝る間を惜しむほどに忙しいらしい。理由はエミューズが勝つと思っていなかったから、これに関しては怠慢と言い切れないのが困ったものである。普通三歳馬の牝馬が凱旋門賞を勝つとは思わないものだ、実際のところ俺も予想できなかった。魔法の手帳さんに聞いていれば対応できたのだろうが、その場合俺がレースを楽しめないからなぁ。
まぁ、そんなこともあり、中央は緊急でショップで売るためのエミューズのぬいぐるみを発注したりだとか、彼女の列伝のポスターを発注したりと大慌てでエミューズ勝利を祝うための準備をしているのだ。なんなら海老原のオッサンによると有馬出走の要請も来たらしい、最もオッサンは帰国して間もねぇのに出れるかわかるかと一喝して追い返したようだが。
「そういえば石田君、体重管理はキツいかい?」
「なんとか合格ラインにはいけましたけど難しいですね……鈴鹿さんが手伝ってくれなかったら目標達成は無理だったと思います」
「……うんうん。君がジョッキーになるんだったら、それはステッキを置く時まで君の背中についてまわる枷だよ。うまく付き合わなきゃね」
「はい!」
足立騎手が石田君に減量について説いてる。知ってる子が後輩になって世話焼いちゃうやつだこれ。足立騎手と喋っている石田君とは離れた位置にいる音花ちゃんとほむらちゃんは……
「久しぶりのお肉が美味しい!」
「アスパラアスパラ~」
色気より食い気である。この分じゃ二人とも競馬と結婚することになりそうかな。まぁ、人のこと言えないけどね。ちなみにアスパラを横取りしたときのほむらちゃんは烈火の如くキレる、これが俗にいうギャップ萌えってやつか。よくわかんない。
「いやぁ、みんな出来上がってますね」
「なんやかんやエミューズ勝利は喜ばしいことですし、色々予定が重なって最近大勢で騒げませんでしたからね。たまにハメを外すのはいいでしょう」
「海老原先生ビール七杯目ですけど……」
「明日の自分に叱ってもらいましょう」
まったく、アラフィフとは思えない大学生みたいな飲み方しやがって。それほどまでに日本人の悲願である凱旋門賞制覇を成し遂げたことが嬉しいのだろう。
「海老原さん」
「おん? アンちゃんも飲めやい」
「凱旋門賞を獲ったとき、どんな気分でしたか?」
海老原のおっさんは真面目な表情で尋ねる俺をキョトンとした顔で数秒見つめ、ニッと笑うと、
「最高だね! 誰が何と言おうとあの時の俺たちが最強だった!」
そういって、七杯目のビールを飲み干したのであった。
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