当然の結果

 東京新聞杯。春古馬のメイン目標である安田記念に向けたステップにもなる重賞の一つだ。

 安田に挑む馬たちはこのレースか京王杯スプリングカップ、マイラーズカップのいずれかに挑戦することがほとんど。

 京王杯SCとマイラーズCはG2、それに比べて東京新聞杯はG3。つまり、サセックスステークスやマイルチャンピオンシップを大差勝ちするようなファーストが出走すると。



『オウカファースト! スタートから一度も三馬身以上差を縮めることなく最終コーナーへ! これがマイルの王者か! 役者が違う! 二番手ルッツメルラに鞭が入るが逆に差が開く! 絶望的に脚が違うぞ! 後続が必死に鞭を振るう中、オウカファーストはノーステッキ! 余裕綽々! オウカファーストが全て振り切り今ゴールイン! 二着はルッツメルラ、三着はロードビンソンが僅かに有利か!』



 知ってた。G3にG1を勝つ馬が出るとこうなるよね。むしろフルゲートになったのが奇跡だよ。

 競馬場の指定席から立ち上がりウィナーズサークルに向かう。クラブの副社長と一口馬主の方とはそこで合流予定だ。俺が馬主席にいると色んな人が話しかけてくるから大変なんだ。

 スタスタと合流予定の場所に歩いていく。スーツを着ているせいか人の目を集めてしまうな、サッサと向かうべきか。

 数分ほどで彼らと合流した。馬主の方は両親と六歳ぐらいのお子さんの三人組でえらく緊張しているようだ。


「緊張せずとも大丈夫ですよ。写真を撮るだけですから」


「は、はい。鈴鹿さんとも一枚良いですか!?」


 え? もしかして俺に対して緊張してる? 確かに所用で競馬場に来るのが遅れたから初の顔合わせだけども。


「鈴鹿社長は普通に有名人だと自覚されたほうがいいと思います」


「そんなもんかね」


 副社長が呆れたように俺に苦言を呈する。ただのサラリーマンだった俺が有名になったもんだ。

 緊張をほぐすように三人とお喋りしていると係員が俺たちを呼びに来たので口取り式の場所へ移動する。

 移動先にはファーストに乗ったままの足立さんが待っており、羅田さんも笑顔で俺たちを迎えてくれた。


「完勝おめでとうございます」


 羅田さんがニコニコ笑顔で俺にお祝いを言ってくる。


「どもども。これで次は安田で決まりですね」


「国内マイルではほぼ無敵ですからね。安田で再び完勝し、目指すはジャック・ル・マロワ賞にしましょうか」


 安田、サセックス、ル・マロワのG1マイルの最高峰勝利は種牡馬価値とんでもないことになりそうだな……。最後は市古さんの判断だけど全然ありだ。

 オウカ冠名の三頭は今年で引退が確定しているし、種牡馬価値を上げる出走はバッチこいだしな。


「写真を撮ります。整列お願いしまーす」


 お、話をしていたら準備が整ったみたいだ。ファーストを挟んで右側に羅田さん、厩務員さん。左側に内側から親子連れのお父さん、娘さん、お母さん、副社長、俺の順番で並ぶ。


「撮りまーす、はいチーズ。オッケーでーす!」


 撮影完了。場内に戻ろうとしたらファーストが近寄ってきた。

 足立さんが下馬して、引綱を握っている厩務員さんと会話して先に中へ戻った。足立さんは12Rも騎乗予定だからな。


「どうした? 頑張ったから褒めてほしいのか?」


 下顎を右手でスリスリしながら顔を近づける。ファーストは気持ちよさそうな表情で鼻を鳴らした。


「ほら、もう行きな。後で会いに行くから」


 ファーストは俺の指を甘噛みして厩務員さんの誘導に従って中に戻っていく。


「我々も戻りましょうか。後ほど厩舎でファーストと写真を撮りましょう」


 親子たちと副社長は嬉しそうな顔で場内に戻っていった。

 いや、副社長は会おうと思えばいつでも会えるだろうに……。




 

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