SSの運用思案
「かわいいぞレジェン」
レジェンがブヒュっと俺の言葉に返事をする。手が空いたのでレジェンの鬣を三つ編みにしてあげている。お腹も大きくなってきたからな、予定日は四月上旬で順調にお腹の仔は育っている。
有馬まであと一週間。ここ最近の大きなニュースといえばビティヘイリッソンがうちのスタリオンステーションにやってきたこと。ビティヘイリッソンはレジェンの種付けの時に悩んでいたが結局購入した馬だ。今年からオープンになるスタリオンステーションの目玉になるだろうな。
今年はレジェンに彼を付けるだろうし、他にも血統の関係で彼を血の薄め液にしたい牧場もいる。海外馬だからね。
もちろん、ステーションで管理する馬はビティヘイリッソンだけじゃない。レイリーヒッグスとアーヴルテラスもうちで預かることになった。レジェンと同期の皐月賞馬と菊花賞馬だね。
レイリーは皐月賞に加えて弥生賞、ホープフルステークスを勝っている強い馬だ。現役中は怪我に悩まされていたが、ケアもできるうちの牧場で俺が預かることに。前のスタリオンステーションも手放すのは惜しいと言っていたが、獣医が常駐じゃないから体の弱い彼を預けるにはうちが最適と納得してくれた。種付け料は三百万、初産駒たちの実績次第で値段は上がるが成績に比べると安いほうだ。
アーヴルは勝ち星こそ菊花賞のみだが、京都新聞杯やきさらぎ賞、ホープフルでも連対を外さなかったので強い馬である。馬主にとって堅実に稼ぐ馬がどれだけありがたいことか。種付け料は百五十万、距離幅が広いからレイリーより人気が出そうな気がするな。
二頭は預かりときに馬主さんと種付け料を相談したんだが、問題はビティヘイリッソンだ。いっそのこと今年はプライベートにして各自相談でもいいかもしれない。ビティも若くないから数は絞るつもりだったしね。
もう一つのニュースが無事にほむらちゃんの期末試験が赤点回避できたことだ。本当に良かった。点数あんだけ教えたのに赤点ギリギリだったけど。
ご褒美に音花ちゃんとほむらちゃんを有馬記念に連れて行ってあげることに。引率は俺じゃないけどさ。市古さんと妻橋さんにお願いしてあるが、市古さんはクラブ馬主の接待があるから実質は妻橋さん頼みだ。春になって出産シーズンが終わると妻橋さんはホースパークに移動になるし、経費も多めに渡しているので若い子二人と観光を楽しんできてほしい。
そんな考え事をしているとワンッと吠える声が聞こえた。声的にダーレーか。
全速力でこちらにダーレーが走ってきてズサーッと柵を潜りこんで俺の足元にじゃれつく。
「どうしたダーレー?」
ダーレーを拾い上げてレジェンの顔の前に持っていく。子犬だったのが随分と重くなったわい。
ダーレーはレジェンに向かって吠えるが、鼻先をカプカプと甘噛みされるとキュウンと縮こまった。弱いなお前。
「寒いし事務所帰るか。レジェンもいっぱい晩飯食うんだぞ?」
笑うようにレジェンは嘶いた。
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