フランスから帰ってきたら島生えた
桜花島に帰ってきたらなんか隣に島が生えてたでござる。
フランスからクタクタで帰ってきたんだから情報処理させないでよもー。
飛行機との兼ね合いで早朝に島に帰ってきたので、誰にも会わずに市古さんの運転する社用車で牧場に出勤する。誰か厩務員はいるはず、お土産渡してから家で一旦寝てしまって情報を整理するのは後にしよう。市古さんはクラブの事務所に戻って会報の原稿を書くらしいけど。
「お、社長。お戻りですか?」
「夜勤ですか柴田さん? お疲れ様です」
事務所の入り口で、ちょうど厩務員休憩室から出てきた柴田さんと出くわした。
時間的に朝の餌を与えに行くところかな? ナイスタイミングだ、休憩室にお土産のおやつ置いといてもらおう。
「これフランス土産のお菓子だから休憩室の中に置いといてくれます?」
「わかりました。みんな喜びますよ」
そうだ。ついでだし、事務所の中にお土産置いたらレジェンの顔見に行くか。
そう考えついて事務所から外に出ると、何故か柴田さんが少し離れたところで待っていた。状況的に俺に用事か?
「柴田さん? 俺に用事?」
「はい。少し社長にお聞きしたいことが」
「じゃあレジェンに会いに行くつもりだったから、歩きながら話しましょう」
二人で馬房への決して長くない道を歩む。
柴田さんはどう話を切り出そうか悩んでいるようなので、俺から話を振ることにしようか。
「悩み事?」
「いえ、俺の悩みじゃないんですが……。俺の弟が生産牧場を開業したいらしいんです」
お、目出たいね。でも俺に何の用かな? 面識は一切ないんだけど。
「弟は北海道の生産牧場で働いているんですが、そこを独立してやりたいってことなんです。
社長はあっちの生産者にも顔が広いですよね? 顔つなぎと開業までのノウハウなんかを含めてご教授していただけないかと、弟から連絡が来まして……」
「いいよ? どんな話を聞きたいの?」
別に隠すものじゃないし何でも教えるよ?
「それがその……。競走馬生産以外全部わからないらしくて……」
「あー……」
なんで独立しようと思ったんだ。
★★★
喫茶スターホース、桜花島唯一の喫茶店。ここにやってきたのは桜花牧場社長の鈴鹿静時。牧場での用事を済ませた彼は、家で休むことを後回しにしてスターホースでの一服を選んだ。
そんな彼の前にソーサーに乗ったコーヒーが差し出される。彼にとっていつもの味は、フランスからの帰国を教えてくれているようで、普段以上に美味しく感じられるものであった。
「ようやく帰ってきた気がするよ」
「ここ最近はお忙しいようでしたね」
「うん。国内飛び回って、合間にフランスに渡航だからね。
スケジュールを管理してくれてる大塚さんには感謝してもしきれないよ」
ズルズルとブラックのままコーヒーを啜る鈴鹿へ、そっとマスターがチーズケーキを差し出す。鈴鹿は感謝をしてそれを一口サイズに切り分けて口内に放り込んだ。
ほのかな甘みとチーズの香りのマリアージュに自然と鈴鹿は笑顔になっていた。
「おいしいね」
「ありがとうございます。難しいお顔をされていましたので、少々おせっかいを焼いてしまいました」
「そんなにひどい顔してた? まーいいや、マスター聞いてよ。柴田さんの弟の話」
そうして先ほど牧場で聞いた柴田の弟の話を鈴鹿は始める。
話は止まらず、気が付けば鈴鹿はお昼までスターホースでお茶を楽しむのだった。
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