一時帰国の鈴鹿
「ただいまですわぁ」
「お帰りなさい」
「フランス遠征お疲れさまでした。」
ショートも無事勝利したので、悠然と日本に帰国した俺。フランス土産のワインとお菓子を片手に凱旋だ。
島に到着後、事務所に入ると妻橋さんと大塚さんがなにやら作業をしており、俺に気づくと挨拶を返してくれた。
「お土産みんなの分買ってきたから食べよ?」
「そうですね。それでは妻橋さん、残りはまた後で」
「はい、お茶を入れましょうね。社長はホットのブラックコーヒーで?」
「うん、よろしくお願いします」
俺の事務机の上にお土産のマカロンやらカヌレやら買ってきたので置いておく。
今回は買いすぎないように抑えたから怒られることはないのだ。
「いただきまーす」
マカロンを子リスのように食べる大塚さん。小顔のかわいい系の娘が食べるとマカロンって絵になるなぁ。
「そういやさっきのは引き継ぎの?」
「ええ、妻橋さんから厩務員が処理していた発注などの引き継ぎを文書化していました。今まで妻橋さんと柴田さんが全て引き受けていてくださいましたから」
「わかりやすくしておくことは大事だよねー。
まぁ、妻橋さんもこの島からいなくなるわけじゃないけども」
「牧場からは離れてしまいますからね…」
妻橋さんは今年度で厩務員を引退することになった。理由は持病の腰痛の悪化だ。
騙し騙しやってきたがそろそろ限界らしい。ぎっくり腰でやらかして以降容態が芳しくないみたいだ。
独身なのでこれからどうしようかと水臭い悩みを持っていたので、俺の推薦でホースランドパークの博物館館長に就任してもらうことにした。
館長の仕事は博物館の展示物を考えたりだとか、来てくださったお客さんに当時の状況を説明したりとかだね。長い間競馬に携わってきた妻橋さんにはお似合いの職だと思う。
それに、来期の出産で繫殖牝馬から降ろす馬も、ホースランドパークで功労馬として見学してもらうことになっているので、ちょうどいいタイミングではあったんだ。
降ろす馬はロストシュシュとジェネレーションズの二頭は確定。歳が年だしね二頭とも。
その他は決まってないけど、来年の出産状況を見て視野を広げてみておくことにする。シュシュとジェネの繫殖牝馬引退も尾根さんの進言ありきだったしね。医学的な目線で降ろせと言われたら絶対に降ろすことに決めている。
「はい、コーヒーです」
これからの展望を考えていると、妻橋さんがコーヒーを淹れて戻ってきた。
俺の蹄鉄マークのマグカップを取って、一飲み。うん、苦い。
大塚さんと妻橋さんはグラスなのでアイスコーヒーみたいだ。
「何の話をされてたので?」
「妻橋さんがアッチに行っちゃうから寂しいって話ですよ」
「ホースランドパークは距離はありますからねぇ。家は商店街の離れにあるのでスターホースで会いそうなものですが」
「それはそうですけども」
嫁さんがいる柴田さん以外はスターホースで晩飯食うこと多いからな。
俺は最近、音花ちゃんとほむらちゃんと一緒に夕食取ることも多くなって頻度は減ったけど。
「シュシュとジェネもあちらに連れていきますから、社長が会いに来てくれないと拗ねるかもしれませんよ?」
「あっちは支配人に任せっぱなしですからね…」
「最初の工費以外はずっと黒字なの凄いと思いますよ」
馬の輸入とかの費用が掛からないとはいえ、完璧な健全経営だからなぁ。
こっちは遠征費とかで数千万単位で飛ぶから四半期決算だと部分的に赤字になったりするんだわ。
今回も凱旋門勝ってくれないと遠征費で赤字だからお金のためにもショートに勝ってもらわんとな。
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