スケジュール管理と夏の庭先取引準備
「はい、社長のスケジュール表できました。前後を調節すればフランスに行っても問題なさそうですね」
「お、本当かい? 久しぶりに現地観戦できるのか」
「ただし! スタッフは誰もついていくことはできないので注意してください! 騒ぎと問題を起こさないように! いいですね!!」
「お、おう…」
俺のスケジュール管理をしてくれている大塚さんから念を押される。
騒動って向こうから来るんだけどなぁ。
「日程に余裕はあるけど、直後に菊花賞だから観光はできないんだよね?」
「三週間程度の間隔はありますが、取材がかなり入ってますので即時帰国が望ましいかと。
仮に凱旋門賞で勝つと菊花賞が終わっても身動き取れないでしょうね」
「だよねー。面倒くさいなぁ…」
「お仕事ですので諦めてください。明日は後山さんと笹森さんがいらっしゃるんですから面倒くさいなんて口が裂けても言わないでくださいよ!?」
「ういー」
後山さんと笹森さんとは、内藤さん繋がりで馬を購入させてほしいと相談を受けた芸能人の方々だ。
後山さんは歌手や俳優をやられているマルチな方で、中央では重賞馬を持ったことがある。自前の種牡馬を付けたいが主流血統であるために、血が濃すぎるので付けられない牝馬が多すぎる。故に繁殖牝馬としての能力を求めて桜花牧場の馬を欲しているわけだ。
無欲なのか心配性なのか、出走をさせずに繁殖にあげるつもりらしい。購入は権利買い取りで完全に俺の手を離れる形になる。
あまり好ましくないがレースに出ないなら許容範囲内か。
逆に笹森さんは即戦力を求めている。今いる二歳馬から選んでもらうか、折り合い付かずに断念してもらう形になるな。
笹森さんはG1勝利馬所有、しかもヴィクトリアマイル二連覇の名馬を抱えている。G1勝利の蜜の味を吸ってしまったので、おそらくクラシックの冠が欲しくなってしまったのだろう。わかる。
強い馬を求めるのはオーナーのサガだからなぁ。
笹森さんにとって不幸だったのは三冠馬を獲った名馬と自馬が自身の馬と同じ世代だったことだ。
アイツがいなければ勝てた、というのはオーナーにとって禁句だが、その悔しさはまったく力及ばないことより遥かに無念さを増幅させただろう。
二億まで行けるって息巻いてるらしいから大塚さんの交渉術の犠牲になるんだろうなー。
「山田さんが購売用の資料を作ってくださってますので目を通しておいてください。訂正があれば擦りなおしますから」
「はーい」
さて、山田君の見立てを拝見しようかね。
結論から言うと、山田君の用意してくれた資料は内容が薄い。
売ろうとする感情が先行しているのか、マイナスなところを一切説明していない。一頭につき三ページほどの説明を赤ペンで書き足していく。
どうにかして売れ残りは避けたいと思っているんだろうが、情報を隠すことは逆効果だからな。全てを記しておくべきだ。
どれも俺の大事な子供たちだからな。
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