東京11レース、左回り、2400メートル、第59回ジャパンカップ

『さぁ、今年もやって参りました。世界の強豪が集うジャパンカップ。今回は凱旋門覇者、イギリスクラシック三冠馬、ブリーダーズカップターフのウィナー、バイエルン大賞勝者が集い、前代未聞の過去に類を見ないハイレベル戦いが期待できます。


 各国の代表が勝利を夢見る、中央競馬主要コースの東京2400メートル。続々とゲートインに向かっていきます。スタートは正面スタンド前直線、スタンドからの声援を受けて1番オールマイトが入ります。目立たないが彼らも強者! 3番シャルロウエア、5番ドリクウィスキ、7番ジョウゲンノツキゲートイン。9番の凱旋門覇者シースタイルはイヤイヤと首を振りゲートインを拒否だ、大丈夫か? 先に11番シンキラムスが収まります。


 落ち着かせるためにシースタイル一度ゲートから離れていきます。13番ワッショイマネ、15番ブイペルパル、17番キンニクジョーカーはすんなり入った。これから偶数番です。

 2番レターオブサンクス、先のブリーダーズカップターフのように力強い競馬で勝利をもぎ取るのか。収まりました。4番のチョトツモーシン、首を下げながらゲートイン大丈夫か? 6番イギリスのクラシック三冠馬、皇太子殿下も天覧に駆け付けてやる気十分入りました。そして今回の主役はこの馬、彼女を求めて強者は集った! 一番人気の今年の日本総大将! グリゼルダレジェン、今日の背中もお気に入りの浅井騎手。収まりました! 会場から大きな拍手! 俺たちだって主役だ。10番グブコルク、12番アクリームロード、14番レッドサン。続けてゲートイン。16番アルバコア、バイエルン大賞の勝者。彼も強い。そして18番グレイトフルエリー、鞍上は騎手の日本総大将、吉武! 9番シースタイル、落ち着いたか、ゲートに収まり…。


 スタートしました! ハナを奪うは青色帽子8番グリゼルダレジェン! 他の追従を許さない軽快な走りでグングンとばしていく。

 二番手には日本のミスターお祭り男の吉が駆る18番グレイトフルエリー。3番手には16番アルバコア、差しが得意と聞いているが馬群に埋もれることを嫌ったか? ここにいます。そのすぐ後ろ、2番のレターオブサンクスがぴったりとマーク。数馬身空いて1番オールマイトと3番シャルロウエアが横並び。中団四頭、5番ドリクウィスキ、6番イッツソーラック、10番グブコルク、9番シースタイルが大きく横列を形成。四馬身ほど離れて12番アクリームロード。そこから縦に長く11番シンキラムス、14番レッドサン、17番キンニクジョーカー、15番ブイペルパル、13番ワッショイマネ、4番チョトツモーシン、最後方は7番ジョウゲンノツキ。この形のまま最初のコーナーを回ります。


 先頭のグリゼルダレジェン快調に前を進み、最後尾とはおよそ二十五馬身と言ったところか。その走りは先日引退した友を連想させます。順序は変わらずグレイトフルエリー、アルバコアが続く。中団に控えているシースタイル、レターオブサンクス、イッツソーラックが少しずつ前に詰めていく。後方集団は判断に迷っているのか団子状態で併せているぞ。第二コーナーをグリゼルダレジェンが回った!


 府中の長い長い530メートルの直線を全力で駆け抜けていくグリゼルダレジェン! 走る走る後ろの馬など知ったことかとひた走る! 急坂を芝を抉り飛ばしながら! なんてパワーだ! 勢いが衰えることも息を入れることもせずにフルスロットルでスタンド奥の直線を走り抜き第三カーブへ!


 さぁ、後続集団もギアを上げてきた! 縮める縮める距離を縮める! グレイトフルエリーとアルバコアが共に競り合い位置取りがグリゼルダレジェンの後方五馬身ほど! その後ろに二頭を完全マークで風除けにしているのはイッツソーラックとシースタイルにレターオブサンクス! これは図太いぞ! 優勝争いはやはりこの六頭で決まりだ!


 最終コーナーを回り! これからやってくるのは高速馬場の終わりにはきつすぎる二度目の急勾配! 心臓破りの坂! 府中2400の直線にはこれがある! 流石にグリゼルダレジェンも速度が落ちた! いや! 違う! 違うぞ! あれは溜めだ! 一瞬だけ力を入れ! 坂を駆け抜けた!! 地力が違う! これが伝説か!? 残すは300メートルの直線のみ!


 走り走り駆け抜ける! 先に休んだ友の分まで走りぬくのか! 残り200メートルで差がもう無い! 二馬身後ろに横並び! アメリカの! イギリスの! フランスの! ドイツの! 各国の誇りたちが伝説に迫る! 残り100メートル! 並ぶか! 並ぶか! 並んだ!? 並んだ!! いや抜いた! 再加速! グリゼルダレジェン再加速! ゴール前で! 大接戦! 大接戦でゴォオオオオオオル!!!』


『なんと素晴らしいレースでしょう! 誇りと意地をかけた東京2400メートル! 結果は………! グリゼルダレジェン! 一着はグリゼルダレジェン! 世界よ見たか!!! これが伝説だァっ!!』


 一着グリゼルダレジェン。二着クビ差シースタイル。三着同着イッツソーラック、アルバコア、レターオブサンクス。タイム差なしハナ差グレイトフルエリー。



ーーー2038年第58回ジャパンカップは三連単元返しの伝説的レースとして歴史に残った。








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「まずは浅井騎手、おめでとうございます!」


「ありがとうございます。どうにか勝てました」


「まさかのチューリップ賞以来の大逃げでした。我々としてはどうしても府中牝馬ステークスで引退した彼女の面影を重ねてしまうのですが?」


「あはは、ですよね。

 でもそんなつもりはなくて、オーナーと羅田先生と作戦会議したときに後方脚質が固まりすぎ。かつペースキープをする先行の馬が、よりにもよってグレイトフルエリーに乗った吉騎手だけだったので三人とも逃げがいいのではないかと判断しました。

 そして、海外馬が強豪ばかりだったので初見で対応しづらい大逃げに決定しました。情報が無ければ簡単に判断できないと思いましたので」


「なるほど。レース中にマズいと感じましたか?」


「結果の通りなんですけど、ギリギリでしたね。

 本当にきつかったです。特に後ろにいた吉騎手がグレイトフルエリーに指でタップしながらペースを刻んでたんで、ズブくしようとしたら一瞬で抜かれると思ってグリちゃんには無理を強いてしまいました。ここは反省点です。

 多分、その横にいたルイージ騎手も見抜いてましたね。完璧にグレイトフルエリーに併せてたので」


「凄い攻防だったんですね。

 最終コーナー回ってからの坂道で再加速したように見受けられましたが? アレは一体?」


「乗ってる私じゃなければ分からなかったと思うんですけど、一瞬だけ大きく息を吸い込んだんです。

 直感的に叩けって言われてる気がして、それで鞭を打ったらグリちゃんが全てを捨てていく勢いで再加速して。怪我の心配のほうが大きかったですけど、彼女の勝ちたい気持ちを尊重しました」


「それがなければ結果は変わっていたと?」


「はい。負けていたでしょう」


「ありがとうございます。

 各国の強豪が集ったジャパンカップ。その中を見事勝利した浅井騎手にもう一度大きな拍手をお願いします!」



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