名駿 ジャパンカップ特集増刊号2039 後編



 三組目はドイツからの挑戦者、シーダ・オールゲン調教師。

 彼らは検疫で問題が発生し、それは無事に解消されたのだが、美浦のトレーニングセンターにやってこれたのは取材の三日前。圧倒的に不利な状況だがオールゲン調教師は何を思うか?

 参戦馬はアルバコア。昨年のバイエルン大賞の勝利馬である。

 鈴鹿社長はドイツ語も話せるとのことなので引き続き同行していただいている。

 余談だがフランス語も喋ることができると教えていただいたので、どこで習ったんですかと聞いたが「急に話せるようになったのさ」と軽口で返されてしまった。不思議な御仁である。



成田:こんにちは、オールゲン調教師。検疫の件は災難でしたね。


シーダ・オールゲン調教師(以下オール):まったくだよ。長旅を終えてやっと地面が踏めると思ったら問題発生はついてなさすぎる。


成田:心中お察しします(苦笑)。早速ですが、ドイツからジャパンカップに出走するのはかなり珍しいと思いますがお考えを聞かせていただいても?


オール:ああ、簡単なことだよ。グリゼルダレジェンが走る、すると世界の強者たちがジャパンカップにやってくるだろう? そこでドイツの競走馬が勝てば大いに目立つってわけさ。


オール:ドイツは競馬後進国ってわけでもないが、フランスやイギリスに比べるとやはり知名度は低いからね。このチャンスを逃す手はないよ。


成田:なるほど、オールゲン調教師はドイツ代表として他の競走馬を打ち倒しに来たと! 素晴らしい戦意です!


オール:フランスの競走と違ってチーミングが日本の競走にはないからね。我々は勝つよ。


成田:それではアルバコアの調教も万全で?


オール:それなんだがね、鈴鹿さん。


鈴鹿:あのドリンクの商談なら後でお願いします(苦笑)。


オール:了解だ(苦笑)。他の調教師にもその様子じゃ頼まれたみたいだね。


成田:(苦笑)。その通りです。


オール:あのドリンクのおかげで不利が付いた我々の陣営もまともに戦えると言っていい。感謝するよ鈴鹿さん。


鈴鹿:お気になさらず。ジャパンカップが盛り上がればそれでいいので。


オール:ああ、全力のアルバコアをお見せしよう。


成田:その様子ですと仕上がりは結構なもので?


オール:彼は五歳馬だが、芝の慣れも早かったし体重も戻りつつある。なにより斤量がバイエルンよりかなり軽いからね。いい戦いができるよ。


ーーーバイエルン大賞は四歳以上60キロ。ジャパンカップは57キロなので3キロの差がある。


成田:なるほど、これは日本勢にとって強敵になりそうです。オールゲン調教師、ありがとうございました。


オール:どういたしまして。





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 四組目は今年の凱旋門賞覇者であるシースタイルを抱えるジョアン・レスボレアス調教師。

 参戦馬はもちろんシースタイル。凱旋門賞優勝馬かつ牝馬ということでグリゼルダレジェンの活躍を見てきた日本競馬ファンからの人気も高い陣営である。

 洋芝から日本の芝に慣らすために前哨戦として天皇賞(秋)を戦い、2着に入線したことも人気の要因だ。



成田:こんにちは、レスボレアス調教師。なにやら嬉しそうなご様子ですが?


ジョアン・レスボレアス調教師(以下レスボ):ああ、すまないね。私が最も尊敬するであろうブリーダーに会えたもので興奮を抑えきれなくて。


成田:それは鈴鹿社長のことですか?


レスボ:もちろんさ。君の動向は欠かさずチェックしているよ! コメディアンのナイトーさんのチャンネルで見た桜花ホースパークは素晴らしい施設になりそうだね。完成したら一度訪れたいものだ!


鈴鹿:でしたら、完成した暁には招待させていただきますね。まだ誰にも振る舞ったことのない桜花酒造のお酒でバーベキューしましょう。


成田:お酒? 桜花島に酒造所が?


鈴鹿:関係ないけど話していいの? 悪かったらカットしといてください。


鈴鹿:桜花島の山の水で作られたお酒が今年完成しましてね。これが美味しいのです。


鈴鹿:で、うちの牧場の馬に勝った方に差し上げようと思っているのですが現れないので私たち以外味わったことがない秘密のお酒なんです。


レスボ:おお! これは挑戦状ですね!


鈴鹿:はい、文字通りの勝利の美酒を私たちから奪い取って見せてください。


レスボ:ライバル認定されては一切手が抜けませんね(笑い)。もとより全力ですが(爆笑)。


成田:とのことなので(苦笑)。シースタイルの仕上がりはいかがでしょう?


レスボ:前走ではイマイチ芝になれずに乗り切れていなかったね、だが調教を重ねるうちに適応してきたのか脚が地面を掴めるようになってきたよ。ジェクト(シースタイルの主戦騎手)はスピードの訓練を積むより芝で踏ん張れるパワーを付けたほうが総合的に速くなると言っていたね。私もそう思って調教を重ねたよ。


成田:その成果は出ましたか?


レスボ:それは秘密さ。ライバルがここにいるからね。


鈴鹿:(苦笑)。


成田:なるほど、それでは最後にズバリ今回のジャパンカップの目標をお願いできますか?


レスボ:そうだね、件のお酒を持って帰るとするよ。


成田:ははは(笑い)。どうもありがとうございました。






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 最後の陣営は羅田調教師率いるグリゼルダレジェン陣営です。

 本拠が栗東ということもあり、輸送馬の中では美浦への移動は全陣営で一番遅い二日前です。

 もはや国内最強牝馬との名高いグリゼルダレジェンは強敵渦巻くジャパンカップでどう戦うのか。

 果たして、おそらく消防法で定められた二十二万五千人の上限まで人が来るであろう東京レース場でプレッシャーに負けず戦えるのか!



成田:最後のインタビューは羅田調教師です。よろしくお願いします。


羅田:よろしくお願いします。


成田:今回はずっと鈴鹿社長に同行していただいていたんですが、羅田先生のジャパンカップの目標は? ズバリお願いします。


羅田:それは当然一着です。他の方々は別の回答を?


成田:ええ、ウィル調教師は経験を持って帰ると。もちろん勝ちを狙うとは言っていましたが。それ以外の陣営は勝つと明言していました。強敵ばかりですね(笑い)。


羅田:いや、困りましたね(苦笑)。油断して手を抜いてくれると助かったんですが。


成田:羅田先生、目が笑ってないです。


鈴鹿:昨日遅くまで浅井騎手と俺と三人で作戦を練ってたからテンションがおかしいんだと思うよ。


羅田:あ、バラさないでくださいよ。


成田:作戦とは?


羅田:えっと、それは…(苦笑)。


鈴鹿:流石に言わないよ(苦笑)。ただ、レジェンは今回も勝つ。それだけさ。


成田:凄い自信ですね。


羅田:自信に裏付けされた実力が彼女にはありますから。度肝を抜く戦いをします。


成田:なるほど、仕上げは万全と。そういうことですね?


羅田:当然です。プライドをかけて仕上げています。しかし、優駿二連戦の時とまではいきませんね。


成田:あの時は鬼が宿ると評されるほどの仕上がりでしたよね。実際に磨きあがった馬体だったと思いますが、時間が足りなかったと?


羅田:そうですね、レアシンジュとの激戦で燃え尽きたのか二週間ほどまったくやる気がなく、仕方なしに体重のキープばかりやっていました。


鈴鹿:俺が様子を見に来ることが出来ればよかったんですけどね。まとまった時間が取れないぐらいに忙しくて。


成田:件のホースパークですか?


鈴鹿:ですです(苦笑)。羅田さんのヘルプの電話がなかったら成田さんに頼まれた今日まで来なかったんじゃないかな。


羅田:多分、彼女はもうレアシンジュと戦えなくなることを本能で悟ったんじゃないですかね。なので、鈴鹿さんにお願いしてメンタルケアを。


成田:効果は出ましたか?


羅田:それはもう(笑い)。お父さんにはカッコいいところを見せたいんでしょうね。厩務員に急かすように調教に行くぞって(笑い)。


成田:ということはジャパンカップは期待しても?


羅田:ええ、勝ちます。我々が最強です。


成田:この絶対の自信! 私も一人のファンとして応援させていただきます。本日はありがとうございました。


羅田:こちらこそ。





 近年において国内外の最強が出揃った2039年のジャパンカップ。

 勝者は誰か。

 十一月二十八日日曜日、十五時四十五分出走。


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