社長業も忙しいのだ
秋も深まり十一月初旬。
ホースパーク建設の初期段階である、整地とキャンプサイトの設置が完了した。最後のほうは業者さんと協力して現場単位での手直しがあったため俺と山田君はデスマーチだったけどな!
真剣に年末から年度末にかけて人員補強をしないといかん。一人欠けただけで大慌てになるからな。とりあえず山田君は四日間の休暇を取ってもらうことになった。あいつ七十連勤とかだったからな…。
さてさて、九十連勤が近い人のこと言えない俺は、大塚さんと事務所で年末に備えて経費計算をしている。使った金と入った金がエグすぎてグラフにするとコルカ渓谷のようになってしまうのはご愛敬。
税理士さんとメッセージアプリ使って相談してる大塚さんの表情が真っ青だったけど、税金でいくら取られんだろーな…。
「社長」
「妻橋さん?」
真っ青仲間の妻橋さんがエントリー! なお、彼が手に持っているエアメールを見て俺も仲間入り。
ウィルさんが手紙くれた時と同じもんや…!
「届かなかったことにしてくれない?」
「最悪外交問題になりますよ?」
アバーッ! ウィルさん頼む、ただの親善の手紙であってくれ!
『やぁ! ご機嫌いかがかなセイジ?
早速だけど我らが誉ある女王陛下』
ぐしゃりと女王陛下の文字が見えた時点で手紙を雑に握りつぶす。
俺は何も見ていない。いいね?
「社長…」
「これ燃やしといて」
「見なかったことにしないでください」
「じゃあ妻橋さん見てよ! ジャパンカップ当日に天覧に来るとか! そん時に傍で解説してほしいとか書いてあったら俺逃げるよ!?」
「トラウマ抱えすぎでは?」
大塚さんがボソッとぼやく。
その言葉に妻橋さんが苦笑いしつつ、俺がぐちゃぐちゃにした手紙を広げ、手で伸ばし大塚さんに渡す。彼女は黙ったまま英語で書かれたそれを読み進める。
大塚さんが集中してるので暇だったのか、俺の足元に始祖三頭が集まってきた。大きくなったなオメーら。
「なるほど」
「大塚さん、手紙にはなんと?」
「女王陛下は公務が詰まっているのでジャパンカップを観覧に来ることはできないそうです」
「いよぉっしゃぁああああ!!!」
膝を突き両腕を掲げてガッツポーズ!
驚いたのかキャンキャン三頭が吠えるが知ったことかァ!
「でも皇太子殿下が代理で天覧すると」
掲げた両腕を地面に落とす。
「つきましては」
「待って聞きたくない絶対俺が酷い目にあうやつだ」
「首相、つまり総理大臣ですね。彼と会食する際に気心知れた通訳として同席してくれないかとの事です。追って外務省からも依頼が来ると書いてますね」
ーーーー最近働き詰めだし、ちょっと旅に出るかぁ!
「ダーレー! タックル!」
立ち上がろうとした俺の膝裏にダーレーが体当たりをしてきて思わず崩れ落ちた。いつの間にこんな技を!
「逃がしません」
「諦めてください社長。限界まで協力しますので」
クソ! スタッフがサポートするって言ってくれてるのに逃げたらただのクソ野郎になっちゃう!
「ああ、わかったよ! ついてってやるよ! どうせ後戻りはできねぇんだ! ついてきゃいいんだろ!」
「それ、私が三十代の時のアニメですよ」
妻橋さんが知っていることに驚きだわ。
俺が諦めてネタに走っていると、スマートフォンにメッセージが飛んでくる。山田君からだ。
「お、港に着いたのか」
今はこの件に関して考えないようにしよう。明日以降考える。
「ああ、例の。社長は今日は直帰されます?」
「うん、悪いけど大塚さんと妻橋さんよろしくね」
既に到着しているらしいので、事務所の裏手に停めてる原付に乗って港に向かう。
待っててくれ内藤さん!
「なんの用事で?」
「芸人の内藤さんのWeTube企画に付き合うらしいです」
ーーーーーーーーーーーーーー
「あ! 社長ー! こっちでーす!」
休みなのに元気な山田君を目印にして港で原付を駆る。
あんだけ稼いでいる俺が原付で登場したのがよほど面白かったのか内藤さんとカメラマンの町下さん(本業は構成作家)が爆笑しながら出迎えてくれた。
「鈴鹿さん! いや鈴鹿さん! 芸人の僕より面白いことするのやめてくださいよ!」
「原付で登場しただけでこの言われようだよ」
「年収億越えの御方が原付乗ってるってだけで面白いですから」
単純に車の運転が面倒なだけなんだけどね。
「山田君も休みなのに内藤さんに付き合わされて大変だね?」
「うわ、めっちゃチクチクと言葉で刺してきた!」
「僕はお馬さんの話ができれば休みなんていりませんから! 内藤さんと撮影してるときは町下さんと雑談してるんで!」
いや、仕事の邪魔はするなよ…。
「私も山田さんとお話していて参考になるのでありがたいです。内藤さん、はいカメラ」
「ええーっ!? 顔がマジだよこの人!」
「内藤さんについてこないと入島できないんで…、入島したからもうカメラマンの仕事終わりです」
「ひっどいこと言ってるよ町下さん!」
おふざけもこのぐらいにしてあげるか。
「じゃあ移動しましょう」
メット被って再び原付に跨る。
「んふっ…」
内藤さん笑いすぎだって。
というわけでやってきました桜花ホースパーク予定地。
予定地つってもキャンプサイトは出来上がってるし、管理棟やロッジのインフラも通ってるからスタッフ集めて開業するだけなんだけどね。
「うわ、大きい!」
「ロッジは五十組、キャンプサイトは百三十組まで対応できます。我々の島民用港でなく、ホースパーク用の港も造設がもうすぐ終わりますよ」
百億の予算のうち大半が港の造成代だ。商業によって他の島民の生活を邪魔しちゃならんからね。ホースパークのお客を連れてきた船が前からある港を塞ぐことはない。
車乗り入れ用のそこそこ大きな船も三隻安く手に入れたし、ただキャンプを楽しみたい人は商店街側に行くことはないだろう。別に観光客拒否ってわけでもないのでホースパークから商店街方面に無料バスが発車する計画だ。
「ここにまた別の施設がプラスされるんですよね?」
町下さんが俺に問う。その通り。
「もちろんです。
食事処として、手入れされた自然を眺められるガーデンレストラン、団体様用のバーベキューレストラン、屋台の並ぶカフェ通りを予定してます。
目玉の一万坪のボタニカルガーデンをサイクリングとランドカーで回れるようにし、遊戯としてはトイアーチェリー、パークゴルフ、テニス、ストリートバスケ、犬用にドッグラン、これは大塚さんの熱望です、そして子供連れ用のキッズパーク。
それと、これが一番の目的なんですが。引退馬を引き取って馬車馬や乗馬レッスン、ホーストレッキングなどで再出発してもらおうと思っています」
競走馬として成績を残せなかった馬は最悪の場合は殺処分されてしまうからな。アプリはこれをどうにかしたかったんではないだろうか。
「おお…。おお……! 素晴らしいと思います! 競馬に関わる者として鈴鹿さんのその考えが自分のことではないですが誇らしいです!」
半泣きになりながら俺の手をもってブンブン振る内藤さん。この人も結構熱いひとだからなぁ。
「社長! 僕が監修のミュージアムとギャラリーの紹介もしてくださいよ!」
「山田君の馬の歴史についてのクソ長い説明と桜花牧場の歴史が分かる資料館と博物館です」
「雑っ! 雑ですよ!」
オメーの企画書ナゲーんだもん! 文字ビッチリのA4用紙が三百枚だぞ!? 読む気にもなんねーよ! 予算つけるから勝手にしてくれ!
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