第14話


 結局あまり眠れぬまま仕事に向かう事に。


 現場までの道は慣れたものだ。



「おはようございます」


 俺はトンさんを見つけると、昨日の事を話そうか迷った。


「おい、お前昨日は一体どうしたんだよ」


「‥‥すみません」


 トンさんがヘルメットを被りながら目を細めてこちらを見ている。


「な、なんですか」


「お前よぉ、俺に何か隠してねぇか?」


「隠すつもりではなかったんですけど、トンさんに相談したい事があって」


 俺は地上での生活に加え、カエさんのスイッチの事も頭の中にあり、一人で考えるには荷が重くなっていた為、まずは地下の事から話す事にした。


「なんだよ、そんな深刻な顔してよ」


「トンさん、地下の世界ってあると思いますか」


「地下?あぁ、こないだお前が変な事言ってたな」


「実は俺、地下の世界から来たんです」


「は?何言ってんだ?地下の世界なんてあるわけねーだろうよ」


「本当なんですって。信じて下さい」


「じゃあどんな所か言ってみろよ」


「地下はいつも薄暗く涼しい。食べ物は地上みたいに豊富じゃなく代わり映えのない物ばかり。それに何よりトンさんもいるんですよ」


「俺が?どこに?」


「地下ですよ。いるというより、いたの方が正しいですかね、今目の前にいるのが同じトンさんなら」


「ぷっ、ぶははははー!」


 急にトンさんが吹き出すように笑い出した。


「何、笑ってるんですか?俺真面目に言ってるんですよ!」


「はぁ〜、本当面白いなお前って」


 笑いすぎて涙出てるし、なんだ?


「何がそんなにおかしいんですか」


「だってよ、トンさんもいるんです。って、ハハハッ」


「もういいです」


 俺はこんなに馬鹿にされるとは思ってもいなかった。まぁ実際信じてくれる人なんて殆どいないだろう。


「ちょっとちょっと、どこ行くんだよ」


「作業ですよ、俺あっちでするんで」


「おいおい、へそ曲げるなって!話は分かったからよ」


「何が分かったんですか。どうせ信じてないんですよね」


「信じるもなにも、トンは俺だからな」


「それがなんですか」


「だーかーら!俺がトンなの!」


「そんなの最初から知ってますよ」


「もーそうじゃなくて!俺がお前の知ってるトンなんだってば」


「はい?言ってる意味が分かりません」


「俺もお前と同じ地下から来たんだって!」


「俺に地女の話をした?」


「そう」


「なんでいるんですか」


「おい、もっと驚けよ」


「ちょっと今頭の中整理するんで待って下さい」


 同じトンさんなのは最初から分かってた、でも地下の事を知らないから俺はてっきり同一人物だけど、こっちにいるトンさんは地上版のトンさんだと思っていた。


 街並みや部屋が微妙に違うみたいに、リンクしてるんだとばかり。


「おーい、そろそろ話していいかー」


「待って下さい、トンさんが同一人物ならおかしい事が色々あります」


「話せば長くなるぞー」


「でしょうね。きっちり説明してもらいますよ」


 俺たちは仕事が終わると、俺の住んでいるアパートに向かう事にした。







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