4話「雪原の女王を捜索――中編――」
俺達はギルドで雪原の女王について情報を得ると、その女王が居るとされているホワイトマウンテンに向かう事になったが、まずは街で色々と装備や道具を買い揃えてからの方が良さそうだと俺は判断した。
「随分と買い揃えましたね。というかこの荷物量で冬の山に登るだなんて、ユウキの思考は正常なのでしょうか?」
「うるさいな。これぐらいないと本当に危険なんだよ。それに普通の山に行くならまだしも、こんな大雪の中で更に魔物まで居るんだぞ? 本当ならもっと買っておきたいぐらいだ」
大量の荷物を背負っている俺を見てヴィクトリアが話し掛けてくと、俺の背中のリュックには大量の食料と暖を取る為に必要な道具一式が入っている。
これでも一応、必要最低限の物資料なのだ。
本来なら冬の山に行くなんて死にに行くようなものだからな。
「しかし雪原の女王とは一体どんな魔物なのだろうな?」
「んー……。女王という名を持つぐらいですから、女性形の魔物だと思いますわ」
俺の横で重厚な鎧を纏ったパトリシアと、モコモコの防寒具に身を包んだユリアの話している声が聞こてくる。確かに女王という名が付いているのだから、女性なのは当然だろう。
ちなみに今回はパーティメンバーに防寒具を俺の自費で支給しているぞ。自費でな。
流石に女王と戦っている最中に寒くて動けませんとか言い始めた終わりだからな。
だから一応ヴィクトリアとユリアには店で一番高い防寒具を買ってあげた。
これには温暖地域に生息する魔物の毛をふんだんに使っているらしく、保温性が高いとこのことだ。
そしてパトリシアは俺が氷漬けにした鎧を着ている。どうやらこれは冬用の装備らしく、防具兼防寒具らしい。
あの時はフリーズで氷漬けにして寒そうにしていが、本当にその鎧は防寒具として大丈夫なのだろうか。
「さて、ここで話していてもしょうがない。早いことホワイトマウンテンに向かって女王の痕跡を探そう!」
「「「りょうかいっ!!!」」」
俺達はその場で円陣を組んで士気を上げると、ホワイトマウンテンへと向かった。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
「さささ、寒いですッ!! 何ですかこの異常な吹雪と視界の悪さは!!」
「寒い寒い言うなよ……。こっちまで余計に寒くなるだろ」
俺達はミストルの街から出てホワイトマウンテンへの入口へと到着すると、ヴィクトリアがあまりの寒さに根気負けしたのか突然怒り出していた。
更にホワイトマウンテンとはその名の通りで、俺達の目の前には吹雪のせいで辺り一面が白銀の絨毯が敷かれているような山が聳えていた。
「まぁ……この状況なら気がおかしくなるのも分かりますわ。でも取り敢えず、今日は山の中間まで行きますわよ」
「そうだな。視界も天候も最悪だけど行くしかなさそうだな。それにオレにはヒシヒシと感じるぞ! この山の”頂上に大きな魔力反応”があることにっ!」
パトリシアとユリアは視界が悪い中、それでもしっかりと真っ直ぐ道を捉えている様子だった。
「ユリアそれは本当か? なら、俺達の目標は今日中に中間地まで行って待機だ! そして次の日に山頂を目指すぞ!」
「分かりましたわ!」
「了解されたっ!」
俺は今日の目標を伝えると返事をしたのは二人だけであった。
もう一人は一体どうしたのだろうと、俺は多少面倒に思いながらもヴィクトリアに意識を向ける。
「私はここで待っていていいですかね? なんかもうこの光景を見ているだけで分かりますよ。この先はきっと過酷であることを」
急にこの場に残りたいと言い出してきた。だが俺には分かる。
コイツはきっとこれ以上寒くなる場所には行きたくないだろう。
そして一体どうやってこの場で待っているつもりなのだろな。
……絶対にコイツ、ミストルの街に帰る気じゃん。
はぁ……。だが仕方あるまいな。
「はいはい、文句なら後で聞くからいくぞ。あ、あとお前が先頭な」
「そんなぁ!? 鬼ですかこの童貞は!!」
ヴィクトリアは驚愕の表情を見せながら童貞呼ばわりしてくるが、久々にコイツから童貞と呼ばれた気がしたと俺は思った。
まぁ、使い古されたネタだな。今更なんにも思うことはない。ああ、決してな。
「ほらヴィクトリア早く行きますわよ。このままでは今日中に中間地点まで行くことすら危ういですわ」
「わ、分かりましたよ……。行けばいいのでしょう、行けば……」
パトリシアに催促されるとヴィクトリアは文句を言いつつも先頭を歩き始めて、俺達はその後を付いて歩き出した。
「あ、あと少しで目的の中間ぐらいですかね……?」
「ああ、多分な。あの氷漬けになった看板が正しければあとちょいだな」
俺達一向は吹雪に煽られながら視界も不安定な事から、全員腰に紐を縛って孤立しなように対策している。
そしてヴィクトリアが振り返って聞いてくると先程、俺達はこの吹雪のせいで氷漬けになった看板を見たのだ。しかもその看板によれば目的地は後少しなのだが……少々問題もある。
どうやらその看板曰くこの天候のせいで足場が悪くなっているらしく、足場を踏み間違えたら地面が崩れて落下するとのことだ。
「いいか皆! 足元には十分警戒して行くぞ! 一人でも落下したら終わりだからな!」
俺は三人に声を掛けると、全員は返事をして再び歩き出した。
――――そらから暫く真っ直ぐ歩いていると俺達はもはや寒いという感覚すら感じないぐらいの体になり、全身が痛みで悲鳴を上げ始めていた。
「頑張れ皆! きっと中間地点には何かしらの簡易建物がある筈だ! そこにさえ着ければ俺が火を焚いてやるから!」
「ユウキ! 流石にこれ以上、ヴィクトリアを先頭で歩かせるのは無理ですわ! 交代しましょう!」
先頭を歩くヴィクトリアが寒さにやられて何も喋らなくなって数十分が経過すると、パトリシアの提案で体力がまだ残っている俺とパトリシアが先導する事になった。
ヴィクトリアと俺の立ち位置が入れ替わり俺が先頭で、その後ろをパトリシアあとはヴィクトリアとユリアがその後を付いていくる感じのスタイルになった。
「これで暫くは大丈夫ですの!」
「そうだな。あとはこのギリギリの状態で何とか中間地点に行ければいいが……」
俺が先頭になったことで歩くペースが上がると視界は相変わらず不安定で周り吹雪だらけだが、目の前にはうっすらと建物の影らしき物が見えた。
「な、なぁパトリシア? あれって建物か?」
「どれですの? 視界が悪くてよく見えませんの」
パトリシアは辺りを見渡しながら言うと、俺はその影が見えた方向に指を向ける。
するとパトリシアは俺が指した方角に顔を向けて、
「あぁっ!! 見えましたわ! 確かにあれは建物ですの。恐らく中間地点の休憩用に作られた建物ですわ!」
建物らしき物を確認して声を上げていた。良かった、やっぱり見間違いではなかったようだ。
「そうか! よし、ヴィクトリア、ユリア!。もう目の前に建物が見えたぞ! 二人とも頑張れ!」
俺達はやっと落ち着ける場所をこの目で視認すると、もはや立っている事がやっとの状態のヴィクトリアとユリアに声を掛ける。
二人は返事すらしなかったものの、腰に巻いてある紐を引っ張ってきたので意識はまだ大丈夫みたいだ。
「よし、こっからは俺がヴィクトリアを抱えて建物に向かう。パトリシアはユリアを頼むぞ!」
「承知しましたわ!」
本来なら皆で固まりながら行った方が良いのだろうけれど、ここは一刻も早く寒さにやられている二人を建物の中に入れた方が良いだろう。
それに足場も大分、不安定になってきているしな。
そんな所で固まって落ちたら誰も救助できなくて、最悪そこで俺達の冒険活動は幕を閉じてしまうぜ。
「お、おいヴィクトリア! しっかりしろ! 俺が建物まで連れて行くからな! だからお前もしっかりと歩いてくれよ!」
俺はその場に背負っていた荷物を降ろして身を軽くすると、ヴィクトリアに肩を貸しながら建物へと向かって歩いた。その背後ではパトリシア達もしっかいりと付いてきている様子だ。
――――そして、やっとの思い出で建物の中に入る事が出来ると、そこは多少埃っぽいがこの際だ贅沢は言っていられないだろう。
「ユウキ! 火をお願いしますわ!」
「ああ、任せておけ! スキル【ファイヤー】!!」
パトリシアが周りに置いてあった燃えそうな物をかき集めると、俺はそこに向けてファイヤーを発動した。するとそれはたちまち燃え広がり、その近くにヴィクトリアとユリアを座らせた。
「あぁぁっ……これが火……人類が何よりも愛した全ての始まり……」
「オレはもう二度と山なんか登らないぞ……二度とだ。これは未来永劫変わることのない賢者として誓う……」
どうやら二人は火を見ると自我を取り戻したらしく、何かブツブツと言いながら光のない目をしていた。
「と、取り敢えずは大丈夫そうだな……。じゃあ俺は外に置いてきた荷物を取ってくるから頼むぞ」
「あ、待って下さいまし! この吹雪の中で一人は危険ですの! 私も行きますわ!」
そう言ってパトリシアが俺の後を追いかけてくると、二人で外に置いてきた荷物を取りに行くことになった。
あの荷物には食料や道具が一式入っている事から俺達の生命線なのだ。
故に無くしたら死活問題だ。
「た、確かこの辺りだった筈だ! 畜生、吹雪が強くなってきて何も見えん!!」
「怒ってはいけませんわユウキ! 無駄に体力を使うことになりますの!」
パトリシアの言葉で俺は何とか正気を保ちながら手探りで周りを探していると、足元に何か硬い物がぶつかる感触が伝わってきた。
「な、なんだこれ……?」
俺はそれを確認する為にしゃがみ込んで顔を近づけると、足元には地中に生息するモグランと言われる魔物が凍結したものがあった。
「さすがの魔物もこの吹雪の中では生きられないか……」
俺はモグランを横目に腰を上げると、再び足元から何やらピシャッという不穏な音が聞こえてきた。その音はまるで雪の固まりに亀裂でも生じたかのような音だ。
「おいおい待ってくれよ。こんな所でそんな……俺の不運ステータスが働いたのか……?」
「どうしましたのユウキ! 今行きますわ!」
俺はその場から本能的に動けなくなると、それを不思議に思ったパトリシアが近づいてこようとしていた。
「ま、まて来るな! これ以上動くとやばいかも知れん!」
「何ですの!! 吹雪のせいで聞き取れませんわ!」
俺の視界には鎧を纏ったパトリシアが近づいてくる影が見える。
直ぐに俺はどうするべきか考えるが…………、
「あぁぁっ!! こんな所にユウキの荷物ありましたわ!」
パトリシアは運良く荷物を見つけたらしく、それを片手で拾い上げると俺の方に見せてきた。
しかしその状態は非常にまずい状況だ。そんな大荷物を抱えて動いたら余計に地面が……!!
「まてパトリシア! そんなに動いたら余計にぃぃ!?」
「えっ!? きゃぁあっーーーー!!」
俺の不運ステータスとパトリシアの重量により緩い地面は限界を迎えて崩壊を始めると、俺達はその断末魔と共に雪崩に巻き込まれた。
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