第三章
1話「俺はラーメンが食べたい」
異種族ラブラブ館で身も心も癒されて家へと帰ると既に用事を終えたヴィクトリア達が帰宅していて、俺が普段着ないお高い服を着ているのを見て三人は怪しそうな表情を浮かべていたが、適当にやり過ごすとその日は即行で自室に引きこもって寝ることにした。
「流石に帰りが深夜一時になるとアイツらも怪しむよなぁ……。てか何でこんな時間まで起きてるんだよ!」
俺は服を脱ぎ捨ててベッドに転がり込むと、そんな事を呟いた。
早く寝ないと肌の荒れがどうのこうの言って気にしているヴィクトリアですら起きていたからな……。下手したら明日は質も責めに合うかも知れんな。
「まぁそれでも今は寝ることにしよう。せっかくサキュバスのお姉さんに癒して貰ったのだからな」
シーツを体に包ませると俺は目を閉じて意識を手放す事にした。
……そして次の日の朝を迎えると俺達はクエストには行かずにゆっくりとした一日を過ごしていた。だが気がかりなのはアイツらが俺が昨日、深夜帰りした事情を聞いてこなかった事だ。
どうやら俺の気にしすぎだったようだ。確かに男のプライベートな事を一々気にしていたらキリがないだろう。それにそんな事を気にするのは付き合って彼女という関係になった時ぐらいだ。
更にそんな穏やかな日々が続いていくと季節は秋を越えて冬の時期となった。
外に出れば手足の先が一瞬に冷えて体中は震えが止まらなくなるし、そんな状態で風が吹けば、たちまち俺達は暖を求めて家から出る回数は極端に減った。
「あぁ、やっぱり冬はこうして暖炉の前でぬくぬくとウォルツを飲みながら過ごすに限りますねぇ~」
「昼間から飲んでいる女は俺としてはどうかと思うが、暖炉の前で過ごす事に関しては同意だな」
俺とヴィクトリアは家のリビングにある暖炉にて丸くなりながらゆっくりと過ごしている。
そしてそんな光景を数日見てパトリシアとユリアは、俺達が冬の間はクエストに行かない事を悟ると各自が自由に行動をし始めいてた。
「私は二週間ほど実家に帰らせてもらいますわ。自慢の剣達を綺麗に磨き上げたいのと、親が顔を見せないとうるさいからですの。だから暫く失礼しますの~」
そう言って、つい先日パトリシアが実感へと帰っていったばかりだ。
親がどうのこうの言っていたが、本音は前半の剣の部分だろうなと俺は思う。
更にユリアに至っては、
「オレは更なる魔法知識を得るために、暫く図書館で寝泊りするから気にしないでくれ」
と言い残して大分前に家を出て行ってまだ帰ってきていない。
普通の魔法を使ってくれるようになるのなら俺としては嬉しいのだが、きっとあのサド賢者の事だから変な知恵をつけてくるのだろうなっと思う。
「はぁ……。まぁこのままぐうたら過ごしていてもしょうがないから、各々が勝手に動いてくれた方が楽だが」
「何を独りで溜息を吐きながらブツブツ言っているんですか? 寒さで頭が凍結しましたか? 殴って解凍しましょうかぁ~?」
ヴィクトリアは顔を呆けさせながら言ってくると、既にウォルツを十杯飲んでいる様子だった。
流石のヴィクトリアでも十杯も酒を飲むと酔が回ってくるらしい。
「酔っ払いの女神は黙っていろ。次に変な事を言ってきたら裸にして川に放り込むからな」
「……なんですか~。ユウキは私の裸が見たいれんすか~? うへっへへ」
ああ、駄目だわこの女神。完全に酒に呑まれてウザいキャラに成り果てていやがる。
しかも後半の笑みが地味にキモい。あれは酔っ払い特有のナニかなのだろうか。
「もういいから、お前は黙って酒でも飲んでいろ……。俺は腹が減ったから何か作ってくる」
俺は朝からずっと暖炉の前に居たせいで朝食を抜いていた事に気づき、一気に空腹が増してきたのだ。
ついでに言うと酔っ払ったヴィクトリアは家事なんて到底できないので、自分で作らなければならないのだ。
「言われなくても飲んでまよぉ~お。あ、なら私にも何か作って下さいねぇぇ~!」
「何でお前の分まで俺が作らなきゃならんのだ。嫌に決まっている」
ヴィクトリアは俺が立ち上がった所をだらしない表情で見てくると常に笑いながら言ってきた。
コイツは悩み事とか無縁そうなタイプだと見て思うと、俺は飯を作る為にキッチンへと向かった。
「うーむ、やはり冬と言ったらラーメンが食べたくなるよなぁ。…………俺に作れるだろうか。あの至高の一品を……しかもただの素人の俺に!」
俺の頭の中にはラーメンという懐かしき日本の味が浮かび上がってくると、どうにも俺の胃はもうラーメンしか受け付けなくなってしまったようだ。
だが俺はヴィクトリアみたいに家事が万能な訳でもない。何なら自炊の経験なんて皆無だ。
寧ろ日本に居た頃は美玖から手作り弁当を貰って過ごしてたぐらいだ。
「だがまぁ男が一度決めたことをそう簡単に曲げる事もできんな。よし、見よう見まねでやってみるか!」
意思を決めると俺は冷蔵庫を開けて残っている食材達を確認した。
中にはネギ、卵、もやし、ピギーの肉ブロック、と言ったメンツが揃っていた。
「うむうむ! これなら具材に関しては大丈夫そうだな。あとは肝心の麺だが……」
冷蔵庫から一通りの食材を取り出して机に並べると、次は棚の前へと移動して小麦粉があるか確認した。確かラーメンの麺を自作する時は強力粉を使う筈だが、この異世界にはそんなものはないだろう。故に今回はこれで代用させてみるしかない。
「うーむ。意外と錚々たるメンツが揃ってしまったな。……取り敢えず、スープを作りながら麺を同時進行で作るとするか」
鍋に水をたっぷりと入れて火に掛けると、その中に夕食時に食べて骨となったブラックバードの骨とネギの頭の部分を切って入れて出しを取ることにした。
そして次に麺作りだ。ここで手を抜いたら全てが終わる。俺は慎重にことを進めていく。
「えーっと、ボウルに小麦粉と水と塩をぶち込んで一気に混ぜればそれなりの物ができるだろう! たぶん」
全てをボウルにブチ込むと、俺は親の仇のように捏ねまくり生地を作る事に成功した。
意外とここまでは勘で乗り越えていける部分だ。
「おっとスープの味を確認しないとな。……うーん、なにか足りない気がするが俺には料理の事はさっぱりだからなぁ。まぁこんなもんだろう」
スープも良い感じに完成すると出来上がった生地を麺っぽくする為に細く切っていくと、そのまま横で麺を湯煎し始めておく。
そしてスープの匂いを辿ってきた来たのか、ヴィクトリアがフラフラとした足取りでこちらに寄ってくるのが見える。
「あぁ~ユウキさん、ラーメン作ってますねぇ~! 私の分も頼みまずよ~! うえへっへ」
「……仕方がないな。まったく」
まぁ普段から朝昼夕と飯を作って貰っている身としては、たまにはこれぐらいしてあげても良いだろう。それにこの何ちゃってラーメンが本当に旨いかどうかも分からんしな。
しかも初めて作るから分量とか分かんないし、何か大量に出来てるし。
「まぁあとは具材を盛り付けるだけだから、先にラーメンが入りそうな鉢を用意しといてくれ」
流石の酔っ払いでもこれぐらいは用意できるだろう。
そう思って俺はヴィクトリアに任せると、
「任されましたぁ~! え~っとぉ、確かこの辺りにぃギャンブルで勝って貰った景品の鉢があった筈ですぅ」
と言いながら棚の一番下を開けてちょうどラーメンが盛り付けれそうな鉢を取り出すと、いつのまにそんなもんが家にあったのかと疑問に思った。
まぁ面倒いから深くは追求しないでおこう。今は腹が減って仕方ないからな。
早速、俺はヴィクトリアが用意した鉢に盛り付けていくと見た目だけは一丁前にラーメンの形をしている。
「おぉ……! 意外とユウキも料理スキルあるんですねぇ~!」
「そうか? お前の方がもっと上手く作れると思うけどな。……じゃ、早速食べていくか」
「はいっ! 食べましょぅ~!」
俺とヴィクトリアはラーメンを机の上に置くと席に座って手を合わせた。
「「頂きますぅ」」
まずラーメンはスープからと偉い人が言ってた気がするから、先にそっちを味わってからにしよう。……だが俺は気になる。料理を手がけた者として、相手の反応が凄く気になるのだ。
「まずはスープから頂きますねぇ~!」
ヴィクトリアはスプーンでスープをすくうと、そのまま自分の口元へと運んでいき一口啜った。
すると――――
「ん~…………なぁっ!! これは!?」
ヴィクトリアはさっきまで酔いで顔が呆けていたのにも関わらず、スープを啜った瞬間に表情はキリっとしたものへと変えて驚いている様子だった。
「ま、マズイのか? やはり素人にはハードルが高す「いえ、違いますよ!! 寧ろ美味しいですよ!」……え?」
俺はその反応を見てマズイのかと思ったのだが、ヴィクトリアは文字通り食い気味でそんな事を言ってきた。
本当に美味しいのだろうか? 自分で作っておいて何だが手際は随分と適当だったんだけど。
「ほらユウキも食べて見てくださいよ! そうしたら私の反応の意味が分かりますよッ!」
「あ、ああそうだな。では食べるとするか……」
麺を物凄いで食べているヴィクトリアに促されると、俺はスープを一口飲んでから麺を口に含んだ。そして――――
「なぁぁっ!? こ、これは旨すぎるッ!!」
刹那、俺の口内に広がるブラックバードの濃厚な鶏ガラ出しとネギの風味が胃袋を刺激する。
初めて作ったにしては、余りにも上出来と言える程これはラーメンであった。
「う、旨いが……やはり麺はもうちょっと何とかした方がいいな……」
「それはまぁ、要練習って感じですね~」
俺達は麺を啜りながらそんな会話をすると、あっという間に食べ終えてしまった。
「いやぁ、ユウキにも意外な才能があったんですね。私ビックリですよ。これは週一で食べたい味ですっ」
「そうだなぁ。結構適当にやってもこれだから、本格的に作ったらもっと旨くなる可能性もあるな!」
食べ終えて食後の休憩をしていると、ヴィクトリアはすっかりと酔いが飛んだようで残ったスープを飲みながら言ってくる。
「あぁ~これがカップラーメンとかに出来れば、遠征クエストとかでも持っていけるだけどなぁ」
「…………あぁっ!? そ、それですよユウキ! カップラーメンですよ!」
俺が漏らした独り言に、ヴィクトリアは雷が落ちたかのような勢いで反応してくる。
「はぁ? カップラーメンがどうした?」
「もうっ! 何で分かんないですか! カップラーメンを作れば何処でも美味しいラーメンが食べられるのですよ! 更に良く考えて見てくださいよ。この異世界にはラーメンなんていう食があるとも思えませんし、いつでも手軽に食べられるタイプのカップラーメンなら高確率で売れると……思いませんか?」
ヴィクトリアは悪い笑みを浮かべながら”売れる”という言葉を強調すると、確かにその発想はなかったと感心させられた。だがカップラーメンなんてどうやって作るんだと言うんだ。
「それは実に魅力的だが一体どうやってカップラーメン何て作るんだ? いくら俺が日本人だからってそんな事は知らないぞ」
「ふふ……大丈夫ですよ。こういう時は万事屋のスージーさんに話を持っていけば良い案をくれる筈です!」
人差し指を俺に向けてそんな事を言っているヴィクトリアは結局人任せのようだ。
しかし、確かにこんな面白そうな事はきっとスージーさんも食いついてくると俺は思った。
「よし、ならばスージーさんの元へと言ってみるか!」
「おぅ!!」
俺とヴィクトリアは部屋着から冒険着に着替えると、そのまま家を飛び出してスージーさんから貰った名刺を頼りにお店へと向かったのだが……。
「て、定休日……ですってユウキ」
「皆まで言うな。見れば分かる」
どうやらスージーさんのお店は今日は休みのようで店内には人の影すらなかった。
はぁ……。仕方ないが今日は家に戻るしかなさそうだ。
それに冬のミストルの街は異様に寒くて、俺の活動時間は二時間が限界だ。
俺達はスージーさんのお店のポストに手紙を入れていくと、その場を後にして帰る事にした。
これで手紙を見たスージーさんがギルドに来て「詳しい話を聞かさせてくれ!」と言ってきたらいいのだがなぁ。
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