9話「彼女の名は」

 えっ……。なんで俺の横にはティーセットが置いてあるんだ?

 さっきまでここに誰か居たのだろうか?


 まあ確かにブラックバードさえ居なければ、こんなに長閑なロケーションは早々ないし良いと思うが……しかしなぁ。

 

 俺は色々と疑問を抱えながらティーカップの中を見ると、色の付いた水が少しだけ残っているのに気づいた。

 このセットの持ち主は、飲みかけで何処かに行ってしまったのだろうか?


 うーん。わからない。

 俺はこういうお茶系? の趣味とは無縁だからなぁ。

 まだヴィクトリアの方が何か分かるかも知れない。根拠はないけど。


「なあ、ヴィクトリア。何でここにこんなのがあると思う?」

俺はティーセットを指を差しながら聞いた。


「んー? えっ、何でそんな上品そうなセットがこんなとこに!?」

ヴィクトリアは俺の指差した方向を見て驚いた。


 やはりヴィクトリアでもそんな反応するよなぁ。

 ブラックバードが出ると言われているこの平原で呑気にお茶って……まさか俺達みたいに最近この辺りに来た新参者なのか? それならば納得がいく。


 だが、それはそれとして。


 この女性は中々に美人だな。ヴィクトリアとは違った魅力がある。

 撫子色なでしこの髪は毛先だけウェーブが掛かっていて、瞳は髪と同じ色をしている。

 そして一番大事なの部分だが……鎧が無い事でさっきから強調されっぱなしだ! 

 

 フッ……まったく。この世界の薄着最高かよ。

 と、俺がティーセットと女性について深く考えていると。


「んっ……」

「あっ! だ、大丈夫ですか?」

膝枕されて寝ていた女性が目を覚ましたのか、ヴィクトリアが声を掛けている。


「こ、ここは!? あ……力が入りませんわ……」

女性は勢い良く起き上がったと思ったら、また直ぐにヴィクトリアと膝へと落ちた。


「あまり無理しない方が良いですよ? さっきまで気絶してたんですから。よっぽど体力を使ったんでしょう」

俺はここに運んできた時の事を女性に話した。


 ブラックバードにあれだけ突かれてたり避けたいしていたいら、そりゃあ体力も減るだろうなっと思う。しかも鎧を着てのあの動きだったからな。


 すると女性は顔を横に向けて俺の方を見てきた。何故かで。


 な、なんだ……? 何でそんなに俺を見てくるんだよ。

 別に運んでいる最中に役得とか思って、お尻とか胸とか触ってないぞ! マジで!


 だがしかし……尚も女性は俺を見続けている。


 いや……すいません。本当は少しだけとか嗅いでました。

 本の出来心何です。勘弁してください。


「あの……貴方」

「は、はいっ!」

俺は女性に声を掛けられると、額から何か汗らしきものが流れてくるのを感じた。

 

 つ、遂に来たか……! というかバレていかのか!? 

 気絶していても周囲の事が分かるタフネスを備えているとでも言うのか!


「……貴方の後ろにティーセットって置いてありませんか?」

「はっ? えっ……あぁ、ありますよ!」


 女性から言われた言葉は意外にも俺の考えていた事とは違ったようだ。

 俺はバレてない事に安堵しつつ後ろのティーセットを見せる為に移動した。


「あぁっ良かった。それと……も、申し訳ないのですが、そこのカップに紅茶を入れて持ってきて下さらないかしら?」

「えっ……この高そうなセットって貴女のだったんですか!?」

「えぇ、そうですわ」

女性から自分の物かどうか確認すると、俺は紅茶を入れにティーセットへと近づいた。

 

 ま、まじかよ……。だったらあの飲みかけの紅茶飲んどくべきだったな! チッキショウ!

 そんな事を思いながらティーポットから新しい紅茶をカップに注ぐと、俺は女性の元へと持っていった。




それから女性が紅茶を飲んで一服すると、ことの経緯を話し始めてくれた。

「ほ、本当に良いんですの? 全部話すと結構時間掛かりますわよ?」

「大丈夫ですよ。ブラックバードは未だに鎧を突いていると思われますし」

女性が紅茶を啜ってから言うと、ヴィクトリアはそう返し俺は頷いた。


 この女性がブラックバードに襲われていた理由は、鎧のせいだと分かってはいるが……。

 問題はそこじゃなくて、このティーセットなのだ。

 

 そもそもこんな所でお茶なんか飲んでいなければ、襲われなかったのではないだろうか。


「えーっと……ンンッ。まず改めて助けて頂きありがとうございますわ。私の名はと申しますの。実は最近、上位職になったばかりでレベル上げ目的でこの平原の魔物を退治していましたわ。そしたらこの良い感じの場所を発見しまして、休憩がてら紅茶を飲んでいたら……急にあのブラックバードが襲ってきましたの。その後はあれよあれよとあの場所まで突かれながら移動しまして、あとはお二人が見た感じですわ」


 なるほど、職を変えるとレベルがリセットされるから比較的弱い魔物しかいないこの場所でレベリングか。

 意外と賢いな。


 そして休憩中に襲われたと……ん? 待てよ。おかしくないか? 上位職って事はそれなりに戦える筈じゃないか? たとえレベルがリセットされたとしてもだ。


「あの~パトリシアさん? 見た目から判断しますけどナイト系の職業ですよね?」

「えぇ、今はをやってますの。あとパトリシアで大丈夫ですわ」

俺は気になり聞くとパトリシアはあっさりと教えてくれた。

あと呼び捨ても良いらしい。


 日本にいた頃は女性を呼び捨てにできるほどの、関係を築けた事はなかったなぁ。

 そもそも避けられていたし……って違う! 今はそんな事はどうでもいいんだよ!


「なら、ブラックバードぐらい倒せたんじゃ?」

「……私は紅茶を飲む時、武器を外すタイプですの」

俺の言葉は聞くとパトリシアは顔を横に向けていた。


 ……あぁなるほど。武器を外して優雅に紅茶を楽しんでいたら襲われたと。

 さっきの話しで言ってくれれば良いのに。流石に恥ずかしてく隠したな多分。


 仮にも上位職になれるほどの実力を持っているなら、武器は肌身離さず持つことの重要性ぐらい分かるだろうに。


「ねえユウキ。パトリシアも復活したしこの後どうします?」

「うーん、一応まだブラックバードは倒せてないしなぁ。このまま帰ったらクエストを紹介してもらったお姉さんに申し訳もないし……」

ヴィクトリアが横から聞いてくると俺は頭を抱えた。

本来の目的が終わっていないからだ。


 俺がどうするべきか考えていると、パトリシアはカップに残っていた紅茶をグイッと飲み干して俺達にこう言ってきた。

「でしたら、私と一緒にブラックバードを討伐しませんこと?」

それは協力要請……つまりパーティの誘いであった。



◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「よし……じゃあ作戦はヴィクトリアがヘイト引いてから、俺とパトリシアでブラックバードを倒す。で良いな?」

「了解しました!」

「えぇ、分かりしたわ」

俺達は再びあの場所へと戻ってブラックバードを視認すると作戦の内容を確認をした。

幸いにもあの鳥は未だに鎧を一心不乱にドついていた。


 執着心が凄まじいな……。


 パトリシアからパーティの誘いを受けた後、俺とヴィクトリアは即行で頷いて返事をし臨時のパーティを結成したのだ。

 何故なら上位職の火力に期待できるからだ。まあ、利害の一致も大きかったけどな。

 俺達はブラックバードの討伐。パトリシアは鎧の奪還。ならば倒して返してもらう方が手っ取り早いという訳だ。


 ついでに、俺の装甲がどこまで出来るのか試しておきたいしな。

 しかし……気になる。無性に気になる。


 俺の横にはパトリシアが立っているのだが、普通はパラディンと言ったらロングソードを持っているイメージだと思う……しかしなぜだろう。

 パトリシアが持っているのは、バリバリ日本で有名なソード。そうを腰に差しているのだ。

 

「この異世界の世界観どうなってるんだよ……」

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