3話「少年と女神は最初の街につく」

 色々とありヴィクトリアは帰れないと分かると、責任を取って一緒に連れて行けと言い出してきた。

 俺としては女神が仲間なら戦力は大分上がると考え、連れて行く事にした。


 しかしこの女神……数時間の付き合いだが、既にもうやばい奴なんじゃないかと密かに思い始めている自分がいる。

 けどそんな事を考えていたらきっと先に進まなくなるので考えない事にした。


 そして俺達は今ヴィクトリアが先導の元、最初の街を目指して森の中を歩いていた。


「ふふ~ん。ふふ~ん」

 ヴィクトリアはどこで拾ったのか分からないが、手には猫じゃらしを持ってご機嫌そうに鼻歌を歌っている。

 

 黙っていれば美女なのに……ほんと残念な女神だと心底思ってしまう。


「なあヴィクトリア? 本当にこっちの道で合っているのか?」

「心配しなくともちゃんと合ってますよ。私を誰だと思ってるんですか? まったく、少しは信用してくれても良いんじゃないですか?」


 ついさっきの話でお前は、女神同士の賭け事でイカサマしたって俺に暴露してたよな?

 どこから信用してくれという言葉が出てくるんだよ。

 知れば知るほどヴィクトリアが女神かどうか疑わしくなってくるな。


「お前の信用は今の所なに一つないぞ」

「えっ!? ひ、酷い……私達仲間なのに……」

至極当然の事を言ったつもりだが、ヴィクトリアには俺の言葉がド直球に刺さったらしい。

 

 おい待て待て。確かに仲間にはしたが、お前が一方的に付いてきたんだろ。

 何でそんな泣きそうな顔でこっち見てくるんだよ。

 俺が悪いみたいじゃないか辞めろよ!


「チッ……そんな事は良いんだよ! 早く街に着かないと日が暮れるんだよ!」

「もぉー。あと少しって言ってるじゃないですか! 何ですか早漏ですか!?」

「そそそ、早漏じゃねえし! てか、こんな道端で何言ってやがる! この馬鹿!」


 ほんとコイツの咄嗟の返しはうざい……。

 しかも一個一個に下ネタが微妙に混ざっているのもまたうざい。


「馬鹿とは何ですか! 馬鹿とは! まったく……この童貞早漏勇者め!」

ヴィクトリアは目を尖らせて俺に悪態をついてきた。

 

 早漏勇者とかいう不名誉な二つ名は要らない……というかさっきから俺の童貞弄り酷い気がするんだけど。

 もしかしてここに連れてこられた腹いせなのか?

 

「…………あっ! ほら見えましたよ。最初の街ミストルです!」

俺が後ろから睨んでいると、ヴィクトリアはにこやかな顔を見せながら人差し指を前の方に向けて言ってきた。


 それに釣られて俺も前に視線を向けると――――。


「おおおおお!! 本当に街じゃないか! すげぇぇ!!」


 そこには中世の様な街並みが広がっていた。

 建物は日本では見られない煉瓦レンガを使って作られていたりして、まるで海外に旅行に来た気分だ。

 しかしそれだけではない! 俺が異世界に来たという確たる証拠もそこにあった!


 街を歩く人達をよく見ると、尖った耳をしている人がいたり、猫耳が生えたりしてる人達が普通に歩いているのだ! 

 これはもうアニメやラノベで見た王道の異世界なのでは!?

 ここに来て俺のテンションは上がりっぱなしだ!


「うぉおおお!! エルフ! 猫耳! 最高かよおおお!!」

「うわぁ……なに急に元気になってるんですか?」

アニオタなら誰でも喜ぶこの展開に、ヴィクトリアはついていけてないのか引き気味で聞いてきた。

 

 恐らく普通の人ならこのリアクションが正解なのだろう。

 だが俺はアニメと二次元で生きている男だ! 


「お前これだって! テンション上がらない方が無理だって!」

「あぁーはいはい。そんな事より街に着いたは良いですけど、この後どうするんですか?」

興奮が収まらない俺は、語彙力を失いつつヴィクトリアに視線を向けたが、意外と冷静に返されてしまった。


 うん。確かに異世界に来れたのは分かった。

 だが次の問題も生まれた訳だ。


 この後のこと何も考えていなかった……。

 いや待て。まだ焦る時ではない。

 やはりここは先人達がやってきたようにギルドという冒険者達が集まるとこに行くべきなのか?


「ねえ~? まだですかー? 私はもう足が痛い痛いですよ」

ヴィクトリアが横から何か言ってきたがここは無視しよう。

 

 だがなぁ。昔読んだラノベではギルドの冒険者登録で、するというのを見た気がする……。


 もちろん俺は異世界の金なんて持っている訳もなく。

 あるとしたらこの女神が持っている可能性しかない。 

 何故かここの土地勘があるのだからお金ぐらい持っているだろう多分。


「なあ、ヴィクトリア。お前ってこの世界のお金って持ってるのか?」

「お金ですか? んー。ちょっと待って下さいね」

そう言ってヴィクトリアは服のポケットに手を突っ込んで探し始めた。


「んーと、んーと。おぉ! 何かありましたよ!」

「お金か!?」

ヴィクトリアはポケットから手を出すと、何か握っている手を俺の前に突き出した。


 そしてゆっくりと手を広げていくと……。


「こ、これぐらいしかないですけど!」

手に握られていたのは、一口サイズのチョコとキャンディが数個あるだけだった。


「おい。おいおい待て何だこれは?」

「見ての通り私のおやつです! 美味しいですよ? 日本のお菓子なので」

ヴィクトリアはそう言うとキャンディの包装を解いて、口の中に放り込んだ。


「ちげーよ! そこじゃねえよ!」

「もぉー。何が不満なんですか?」

流れるような動作でキャンディを食べ始め、口をモゴモゴと動かしているヴィクトリアを見ると、再び怒りのゲージが溜まっていくのを感じた。


 そんな呑気にしている場合じゃないんだよ! 

 お金が無かったらギルドの手数料すら払えないんだぞ! 多分だけど!


 あぁ!? お、思い出したぞ……どうするんだよ!

 異世界にきて早々に野宿なのか!? オイオイ勘弁してくれよ。

 こんな締まらない異世界の初日は嫌だぞ……。


「ほ、本当にお金は持っていないのか?」

「しつこいですねー。お菓子しか持ってないですよ。ほらアメちゃんあげるので大人しくして下さいよ」

ヴィクトリアは持っていたキャンディを俺に渡してきた。

 

 もしかしたら……このお菓子達ですら、今は貴重な食料なのでは……?

 俺はその事実に気がづくと、急いで食べるのを止めに掛かった。


「おいヴィクトリア! これ以上お菓子を食うな! これは貴重……な……」

「ふぇ?」

だが俺の行動は一歩遅かった。

既にヴィクトリアは全部のお菓子を食べ終えて口元にはチョコの跡がしっかりと付いていた。

 

 お、オワタ……食料がオワタ。


「おま、おまおま、お前えええ!! どうすんだよ! 現状貴重な食料が全部お前の胃の中に消えてったぞ!」

俺は街中にも関わらずヴィクトリアに向かって思いっきり掴みかかった。

 

 あちらこちらでヒソヒソと何か言われてたり、視線を感じたりするが気にするもんか! 

 こっちだって命が掛かってるんだよ!


「ちょっやめて下さいよ! 人前で恥ずかしい!」


 お前のどこに今更恥ずかしがる所があるんだよ! 

 白目を向いて顔中グチャグチャだったじゃねえかよ! 


「うるせえ! この馬鹿女神!」

そのままヴィクトリアを掴んで揺らしていると……何かヒラヒラとが足元に落ちてきた。


「ん? なんだこれ……?」

俺は落ちてきた紙切れを拾って空に翳して見ると、それは日本の紙幣に近いような形で何やら数字の書かれた紙切れだった。


「あああぁぁああ!! それはですよ! 返してください!」


 この女神……まさか隠していたのか?

 もしかしてあのお菓子達はフェイクで、お金を持っている事を悟らせないようにしたのか?

 クッ……なんてずる賢い奴だ。女神がやる事じゃねえ。


「嫌だ。絶対に返さんぞ。これはギルドで使うお金だ」


 何はともあえれ、お金はゲットできたぞ! 金額はよく分からないけど。

 まあ、何とかなるだろう。ヴィクトリアも居ることだし。


 よし! そうと決まればギルド向けて出発だ! 急がないとあと数時間で日が暮れそうだ。

 俺は泣きながらお金返してと言ってくるヴィクトリアを引きずりながら、ギルドを目指して歩き出した。

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