光の先輩、闇の後輩

げこげこ天秤

 風が陽気を連れて来る。



 春の訪れを告げたのは桜だったか、それとも鶯だったか。いずれにせよ、この季節が、疾風怒濤シュトルム・ウント・ドラングの時期と呼ばれていることを知るのは、もう少し先のことだ。



「……今日も……来てくれるかな?」



 気がつけば、そんなことを口走っていた。


 中学に入ると、ひびきの退屈は奪われた。目まぐるしく日々が動き出した。それもある。けれど、一番の理由は「先輩」にあった。


 憧れの存在。――と言ってしまえば月並みな表現になる。高身長で、端正な顔立ち。第一印象で気にならない人はまずいない。落ち着きがあって、頼れる人物。その上、バスケ部のエース的人物とくれば、思春期の少年少女に早くも不平等の意味を教える存在でさえあった。


 だから響も、一度ならず「あんな存在になれたら」と想像したことがあった。隣で肩を並べたい。隣に立ちたい。隣にいたい。


 そんな気持ちは、二回目の春を迎えたいま、隣にに変わっていた。



「……聴きにきて……ほしいな」




 加速していく鼓動に反して、太陽が空を往くのにれったさを感じた。早く沈めと太陽に願った。当然、授業はまるで頭に入らない。代わりに、指で机を小さく叩いて、文字通りピアノの練習会を行う。




 放課後の音楽室。

 奏でるピアノが、響と先輩を繋ぐものだった。







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