暗殺者【シッコク】

@hajime0012

 その名は【シッコク】

 「た、助けてくれっ!」


 黒の衣服に身を包んだ少女は、腰を抜かし助けを懇願する男に一歩、また一歩と近づいていく。

 男の身なりは、豪華に彩られた貴族御用達の衣服を着用している。


「助けを呼んでも無駄。この裏倉庫には誰も来ない」


 人気のない倉庫。

 長年使われていないのか、タルや木箱には埃が募り、空気も悪い。天井近くに小さな小窓があるが、換気するには小さすぎる。


「おまえが取引相手だと偽って私をこんな場所に呼び出しやがって! な、なにが目的だ!」


 怯えつつも、啖呵を切るように話す男。

 しかし、腰を抜かしている姿は滑稽で、いくら声を張り上げようとも、間抜けで迫力がない。


「目的? 簡単。あなたの死が目的」


 感情のない声音で少女が言葉を紡ぐと同時に、手のひらを軽く握り腕を横に伸ばす。

 すると、女性の手に光を放つ剣が生成される。紫色に光るその剣は、半透明で先の景色が剣越しに透けて見える。

 

「お、俺はただ、フードを被った男に『美人で若い女を浚い、私に渡せば金をくれてやる』と言われたんだ! それに従っただけだ!」

「その男は死んだ。私に首切られて、ずたずたにされて死んだ。あなたもそうなる。誰かもわからないほど顔をズタズタにされて、最後には虫のえさになる」

「勘弁してくれ! 殺さないでくれ! 謝るから!」

「……さようなら」


 別れの言葉を口にした瞬間、目で追うことができない速さで男の足元に立つ。そして、間髪を入れずに生成された武器を男の腹部に突き刺した。

 深く突き刺さる剣。

 刃を引き抜くとあふれ出す鮮血。床に広がっていく血の量から、この男は助からないだろう。

 意識がもうろうとして、声を上げる気力すらなくなる男。


「お、まえ……、何者……だ……」


 最後の声を振り絞って尋ねる男。


「私は【シッコク】。絶対ミッションを遂行する暗殺者」


 そういうと、少女はその場を後にした。

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