第2話 ブーメランパンツ
池谷さんは僕のひとつ上の先輩です。
かなりのイケメンで、おしゃれで、細くて面白くてかっこいい人でした。
フィアットパンダというイタリアの外車を乗っていて、幌をあけるとオープンカーにもなるものでした。
たまに車でごいっしょするときには、カーステレオでサザンやTUBE、ラッツアンドスターをかけてました。
顔のほりが深く、サングラスをすると日本人にはめずらしく眉までかくれて、
「池谷さん、顔もいいし面白いしかっこいいんだけれどな…」
というのが我々後輩の印象でした。
非の打ちどころのない、男だったらこんな容姿、スタイルに生まれたかったと思いましたね。
ただひとつだけ、自分は無理だな…と思うのが、S先輩と仲が良く、お姉さまが好きなところが真似できないところでした。
どちらかというとお姉さんのほうから寄ってくることが多かったのでしょう。
性格もいいですし、なにしろかっこよかったですから。
池谷さんに関してはいろいろと目撃情報がありました。
終電が終わった横浜駅でフィアットを見た。
そこでS先輩とナンパをしていた。
俺は渋谷駅で見た。
ハチ公ではなくモアイ像のほうでナンパをしていた。
道玄坂でお姉さまと歩いているのを見た。
などなど…。
ヨット部にお姉さま、誰一人もつれて来なかったですけれど。
そこが賢いところでもありました。
「終電が終わったあとというのが、S先輩、池谷さん、すごいというか狙いすましてというかな…」
作戦があるのだな…、こうゆうのも…と同期のタカやケイスケと話していました。
僕が渋谷のマリンショップでバイトをしていたころ、池谷さん、ヘリーハンセンのカタログをとりよせて僕にこういいました。
「堀ちゃん、これ、買ってきて」
そこには男性用の水着がうつっていました。
「これですか…」
「うん、それ」
「マジですか…」
「うん」
「どこで着るというかはくのですか…」
「海で」
あっさり言いました。
「水着なので…、海やプールですが…、ヨット部ではきませんよね…」
「う~ん、一度くらいはこうかな…。あとは他ではくね」
ブーメランパンツ、ブーメラン水着ってご存知でしょうか…。
女性アイドルのビキニパンツみたいで、紐ではないですが、サイドがきわめてきわめて細く、布も非常に少ないものです。
池谷さんが選んだのは白い生地に、
真っ赤な
派手な
大きい“薔薇”が
前とお尻のほうにも描かれているものでした。
マリンショップのやり手の女性店長西野さんにお願いしました。
「池谷君ならありえるし、はけるわね…」
「でも白地に薔薇…他の色もあるのに攻めてる…」
メーカーにはちゃんとサイズも在庫もありました。
よかったのか、悪かったのか。
先輩に代金を頂きお渡ししました。
ヨット部ではみなさんたいてい水着の上にさらに厚手のパンツをはきます。僕はカンタベリーのラグビーパンツをはいていました。
ヨットは突起もあるしワイヤーもあるし、上だって夏でもTシャツを着ますし、長袖シャツを着ることもありますから。
さすがに池谷さんもブーメランパンツだけではヨットに乗りません。ここでは見せるお姉さまもいないしね。
ある日の練習後、僕が部屋で作業をしているとき、後輩女子の河井ちゃんの声がしました。
「堀せんぱ~い、池谷さんがお呼びで~す」
「はーい」
なんだろうね…。
「池谷さんは…?」
キッチンにいくと先輩はいない。
「お風呂で~す」
「はぁ…」
脱衣所の扉はしまっていました。
「堀です、どうしました…」
たまにお湯がでないこともあるので、湯沸かし器の点火しなおすことがあった。
古いからね。
「堀ちゃん、ちょっと入ってきて…」
「入りますよ」
ボディービルダーのように両肘をはり腹筋を強調するポーズをとる池谷さん。
勿論、サイドがほっそい、白地に真っ赤な派手な薔薇のブーメランパンツをはいています。
真っ黒なボディーに真っ白なブーメランパンツ。
ご丁寧に振り返りお尻まで見せてくれました。
「どうよ! 堀ちゃん!」
イケメンだし、現役のヨットマンの体は筋肉質だしね。
どうしよもない…、感想を素直に言いました。
「参りました!」
「ヨシ! じゃあそうゆうことで!」
池谷さんはその言葉だけ残すと浴室に入っていきました。
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